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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2016年2月13日

(出展:JAXA)

今日の午前中はソユーズのシミュレーション訓練があったのですが、恐らく、これまで私が単独でやってしまったミスの中で最大のミスを犯したので、自戒の意味を込めここに記します。

シナリオは打ち上げ前準備から打ち上げ、軌道投入、その後のエンジン噴射準備というものでした。
準備から打ち上げまでは問題なく進み、軌道投入のところで宇宙船がロケットから切り離されないという不具合が発生し、これを手動で実施。
これはボタンをいくつか押すだけなので、操作としては非常に簡単な不具合になります。
ただ、限られた時間内にその処置を行う必要があるため、その不具合を発見することがまずは第一です。

そのあと、アナトーリはエンジン噴射のための準備に入り、私は各システムの状態確認に進むのですが、その途中で船内の酸素分圧がゆっくりと上昇している(①)ことに気付きました。
船内のトータルの気圧自体はほとんど変化していません(②)。
一方、ソユーズに3つ備え付けられている酸素タンクのうちの1つの圧力がゆっくりと低下しています(③)。

私たちは宇宙船で起こっている全ての事象を見ることは出来ません。
出来ることは、集められるデータを元に何が起こっているかを推測することです。

そこで、クイズです。
一体、何が起こっているのでしょう?

酸素分圧の上昇(①)と酸素タンク圧力の低下(③)をセットで考えれば、まず疑わしいのは、酸素タンクから酸素が船内に漏れているということです。
この①と③のセット自体は大して難しいクイズではありません。
ここで問題になってくるのは、②のトータルの気圧が変化していないという点です。

普通にタンクから酸素が漏れているだけなら、酸素分圧が上昇する分だけ、トータルの気圧も上昇するはずなのです。
(ちょっと高校物理程度の内容になってしまっています)

ところが、トータルの気圧は変化していません。
そこから導き出される結論は、このようになります。

『酸素タンクの1つから船内に酸素が漏れていて、かつ船内の気密性が失われているために船内の空気が宇宙空間に漏れている。その両者のペースがほぼ一致しているために、表面上はトータルの気圧が変化していないように見える』

以上が今回インストラクターが放り込んできた不具合の真相なのですが、私たちはしっかりとそれをデータから読み取ることが出来ました。
船内の空気が漏れている以上、このままISSへのドッキングは継続出来ないので、地上へ緊急帰還することになります。
1つ気を付けなければいけないのは、酸素分圧が上昇を続けているので、どこかの段階で船内を自分たちで減圧してしまわなければなりません。
というのは、酸素濃度が40%を超えると、火災の危険性が高くなるからです。
空気が抜けていて、そこに酸素だけが供給されているので、船内は酸素濃度がどんどん上昇しています。
それが40%になる前に、自分たちで船内の空気を全部抜いてしまおうというわけです。

アナトーリが緊急帰還の準備を進める傍ら、私はそちらの、船内の空気を抜く準備を進め、どちらも問題なくそれらの準備を完了し、船内を減圧した後、宇宙船の高度を下げるための軌道離脱噴射が始まりました。

その途中、メインエンジンの出力が低下したので、手動でバックアップのエンジンに切り替え噴射を継続しました。

その後、所定の噴射が行われた後、自動的にエンジンが停止されるはずが停止しなかったので、手動で停止しました。

そのため、その後の「だんご三兄弟」の切り離しも手動で行わなくてはならなくなりました。

ここで私がミスをしました。

手動でモジュールの切り離しを行う際、操作パネルからいくつかのコマンドを送る必要があるのですが、そのうちの2つの順番を間違えてしまったのです。

わかりやすく言うと、Aというコマンドを送ってからBというコマンドを送るはずが、先にBのコマンドを送ってしまったということになります。

通常であれば、コマンドの順番を間違えてももう1度正しい順番でやり直せば大丈夫なケースがほとんどなのですが、今回ばかりはそうはいきませんでした。

私が2つのコマンドの順番を間違えたことによって、本来緩やかに降下を制御しながら大気圏に突入するモードで帰還するはずが、弾道軌道で帰還するモードに変わってしまったのです。
これはそういう仕様なのです。
何がマズいかと言うと、弾道軌道での帰還はその分、宇宙船にかかる加速度Gも大きくなりますし、着陸地点も当初の予定と大きくずれてしまうことになります。

自分なりにミスした原因を色々と考えてはみましたが、こればっかりは注意力不足というしかありません。
言い訳のしようもありませんでした。
何より、その2つのコマンドの順番を間違えるとどういうことになるかは、私自身も知っていたのに。

私の持論として、「ミスをする可能性がほんの僅かでもあるものは、いつか誰かがそのミスをするものだ」、というのがあるのですが、図らずも自分自身でそれを証明してしまった形です。

ミスをしたのが、訓練のときで良かったです。
引きずっても仕方がないので、来週はまた気持ちを切り替えていきます。

それでは皆さん、どうぞ良い週末を♪



 
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