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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年12月 8日

油井さんが打ち上げ前にサインしたドア。すぐ下に星出さんのサインも。(出展:JAXA)

12月7日 L-8 days

油井さんの帰還がいよいよ近付いてきましたね。
ここバイコヌールの施設の3階には、油井さんが打ち上げのその日にサインをしていったドアがあります。
ロシアでは験を担ぐ意味で打ち上げ前に多くの慣習があるのですが、その1つです。
実は以前は、打ち上げ前の宇宙飛行士は実際にこの3階部分の部屋に居住して、その自分の部屋のドアにサインをして出かけていくことになっていました。
今は、同じ敷地内にある隣のホテルに宇宙飛行士は居住していますので、打ち上げ当日にこの施設の3階に移動してドアにサインをすることになっています。
泊まる場所は変わっても、慣習はそのまま残るというのがロシアらしいですね。
場所が変わった理由はわかりませんが、恐らく宇宙飛行士を隔離する為ではないかと思います。
この施設にはインストラクターを始め多くのスタッフたちが寝泊まりしているので、検疫という観点から言うと別の施設に宇宙飛行士は泊まる方が安全性は高いでしょう。

他にも多くの慣習がありますが、それらはおいおいご紹介しますね。
あと数日でまた一気に忙しくなるので、いまはまだ嵐の前の静けさです。

今日の訓練は、ソユーズの手動ドッキングに関する訓練と、ISSの緊急事態対処法のレビュー、ソユーズ手順書のレビューでした。
ISSの緊急事態対処法自体は、ヒューストンや星の街で散々訓練を繰り返していますが、今日は実際のISSで訓練に使われるタブレット端末の使用法を教わりました。

約半年間の滞在期間中、私たち宇宙飛行士は2度ISSで緊急事態訓練を行います。
皆さんも学校や職場で避難訓練を実施すると思いますが、それと同じだと思ってください。

あくまで訓練ですので、気を付けなければいけない点が2つあります。
まず1つ目は、地上との交信について。
ご存知の方も多いと思いますが、現在のISSと地上との交信はNASAのウエブサイト等で一般に公開されています。
事情を知らずにこの交信を聞いた方に無用な誤解を与えないよう、訓練中の交信には必ず冒頭で訓練目的の会話であることを前置きします。
「ISSで火災が発生、クルーが現在消火活動にあたっている」
といった会話をいきなり聞いたら、ビックリしてしまいますもんね。

もう1点は、緊急事態に対処する際に、手順書通りに行動はするものの、実際の機器やハッチの操作は行わないという点です。
例えば火災を発見したクルーは、警報を鳴らすことになっているのですが、この警報は訓練では鳴らしません。
というのは、警報の発出と同時にシステムが自動安全化処置を開始するからです。
ISSが健全な状態にあるときにこの自動処置が走ってしまうと、困ったことになります。
また酸素マスクも消耗品ですので、実際に着用したりはしません。

ただ、それでは訓練の効果が低くなってしまいます。
単に手順書を読み流すのと同じことになるからです。
そこで、タブレット端末を持ち歩いて、その端末のプログラム上で様々なアクションをシミュレートすることが考え出されたのです。
具体例を挙げると、先ほどの火災警報の発出ですが、タブレットの模擬パネルを操作することによって、プログラム上の仮想空間で火災警報を鳴らすことができます。
もちろん実際のISSのシステムには、何の影響も及ぼしません。
また、クルーがその操作を行ったことは地上にもデータで送信されて、クルーがタブレット上で見ている情報は逐一地上にも共有されます。

他にも現在の空気成分が表示されたり、ハッチの開閉をシミュレート出来たり、非常に良く出来たプログラムになっています。
訓練終了後は、クルーがタブレット端末でシミュレートした行動や地上との交信を元に、対応手順に問題がなかったか、改善する点はどこかといった内容でインストラクターから講評を受けられるようになっています。

余談ですが、訓練終了後、インストラクターと卓球で勝負をしていました。
結果は私がコテンパンに負けてしまったのですが、それを見ていた他のインストラクターが、

「プライムクルーと対戦するときは、僕らは勝つことが許されないからね。タクヤも半年後に戻って来た時は、勝ちまくれるよ」

とおっしゃっていました。
それも一種のロシア流の験担ぎなんでしょうかね(;´∀`)
私的には、真剣勝負で勝ち負けが決まる方が良いですが。


このドアだけすごい数のサインがされていました(出展:JAXA)
イラストを付けている方も(出展:JAXA)

ここが以前打ち上げ前のクルーが泊まっていた3階です(出展:JAXA)


 
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