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2015年9月12日
昨日の船外活動訓練は無事に終わりました。
プールに入る前にNASAのカメラマンが沢山写真を撮って下さったので、いくつか解説付きで載せます。
ぜひご覧下さい。
今回の自分の目標は、「省エネ」でした。
と言っても、手を抜くということではありません。
6時間に及ぶ船外活動訓練では、最後までしっかりと作業ができるだけのペース配分が大切です。
前半飛ばしすぎると、後半バテてペースが落ちてしまいます。
そうならない為には、省エネを心がけて極力無駄な労力を費やさないようにしなければなりません。
手順をしっかりと理解しておくのも重要ですし、何かが上手くいかない時は一度止まってまずは原因を考えるのも大事です。
よくあるパターンが、無理な態勢で作業をしていて、それが上手くいかない時に、力づくでやろうとして体力を消耗してしまうケースです。
そのような時は、ちょっと態勢を変えてやるだけで全然違った結果が得られることも多々あります。
そういった意味で、「船外活動はアートだ」とおっしゃるベテランもいるくらいです。
とまあ、頭ではわかっているつもりでも、なかなか難しいのがこの「省エネ」。
必死になってやっていると、自分の体の疲れにもすぐには気付けないものです。
というわけで、今回は特にその「省エネ」に気を付けて臨んだわけですが、結果的には訓練を通してペースを落とすことなく、最後まで走り抜けられたので、目標は達成できたと思います。
プールから上がって船外活動服を脱ぐときに、グローブの下にはさらに軍手のような手袋をしているのですが、その右手の手袋を外してくれたテクニシャンが、
「お、すごいな。乾いてるじゃないか」
と驚いていました。
普通は汗でぐっしょりになっているそうで、事実、左手の手袋は湿っていました。
実際に省エネが出来ていた証拠だと思います。
さて、自画自賛はこれくらいにしておきましょう。
今回のメイントピックは他にあります。
今回の話をより深く理解されたい方は、「セーフティー・テザー」について以前書いた記事をご覧ください。
大西卓哉の宅配便 『19通目 宇宙飛行士の命綱』
上のリンクの方が詳しいです。
お忙しい方の為に簡単に説明しておくと、セーフティー・テザーというのは船外活動中の宇宙飛行士の命綱です。
これはリールで巻き取れるようになっている金属製ワイヤーで、通常はエアロックから出てすぐの所にワイヤーの一端を設置します。
これをアンカーと言います。
もう一端は飛行士の船外活動服に付いていて、もし私たちが宇宙空間に放り出されてしまっても、そのワイヤーがエアロックまで体を巻き戻してくれるようになっています。
今回の訓練では、ジェフ・ウィリアムズ飛行士がまず先にエアロックを出て、自分と私のセーフティー・テザーのアンカーを設置しました。
それを確認してから、今度は私がエアロックから出ていくわけですが、2人目は足から先に宇宙空間に出ていきます。
いつもは、外に出た時点で自分の左前方にそのアンカーがあります。
そこから自分の体に向かってワイヤーが伸びているので、そのワイヤーに自分の体が絡まないように、右回りで体を反転させて態勢を整えます。
左回りにすると、体を反転させたときにワイヤーが自分の体を巻いてしまうからです。
セーフティー・テザーは一旦絡まると、自分一人では直すのがかなり難しい、時には不可能なので、船外活動中は常に自分の体に対してどの方向にワイヤーが伸びているかを意識しておかなければなりません。
この時も、私はいつもと同じように、まず右回りで体を反転させて態勢を整えようとしました。
途端、ジェフが―――――
「おい、タク、そっちに回るとテザーが絡まるぞ」
と言うではありませんか。
一瞬頭をよぎったのは、エアロックから出るときに足をワイヤーにひっかけてしまったかな?ということでした。
可能性は低いですが、ゼロではありません。
何より、それ以外にこの時点でワイヤーが絡まる原因が思い浮かびませんでした。
慌てて、自分の手元のワイヤーを限られた視界の中で確認すると、確かに自分の体を巻くようにワイヤーが這っています。
「!?? (゚o゚;)」
出だしでいきなりやってしまった・・・orz
と、凹んでいる場合ではありません。
凹むより先に、まず現在の事態を打破しなければなりません。
ジェフの指示通りに体を動かして、絡んだテザーを解こうとします。
「そう、そっちに少し体を動かして。そこで左向きに回って。まだまだ。そのままぐるっと180度回って」
ジェフの指示通りに動きつつも、頭の中はますます混乱していきます。
左回り??
それってますます絡まないか??
とは言うものの、自分ではどう絡んでいるのか見えないので、彼の言う通りにするしかありません。
「オッケー。もう大丈夫。フリーだ」
と言われて、その通りフリーになったワイヤーを見て、私は愕然としました。
アンカーが、いつもと全然違うところに設置されていました。
いつもは、外に出た時点で自分の左前方にあるアンカー、それが、自分の左後方にあたる位置にありました。
自分の体から左後方にワイヤーは伸びているわけで、そこから右方向に体を180度反転させようとすると、当然ワイヤーが自分の体に絡まります。
これには思わず、
「謎はすべて解けた・・・‼」
と、言いたくなりました。
何でも、昔はその位置にアンカーを設置することが通常だったそうです。
それがいつの頃からか、私が慣れ親しんでいる位置に設置するのが主流に変わっていました。
ジェフは迷わずその昔の位置にアンカーを設置して、私は何の疑いもなく「いつもの」位置にアンカーが設置されていると思っていたわけです。
これには、ジェフと2人してデブリーフィングで反省会でした。
ジェフからすれば、事前にアンカーの設置点をしっかりと確認しておかなかった自分のミスだということになり、私からすれば、思い込みで機械的に体を動かしていた自分のミスだ、となるわけです。
いずれにしても、2人でしっかりとその部分を話し合っていれば、防げたミスであることには違いありません。
幸い、その後にすぐ気持ちを切り替えて、最後までしっかりと作業が出来たのは、良かったと思います。
今回も多くのことを学べた、良い訓練でした。
お忙しいところ、最後まで読んで下さってありがとうございます。
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