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2015年8月22日
昨日、ヒューストンに帰ってきました。
7週間ぶりです。
相変わらず暑いですねー、ここは。
早速JAXAのヒューストン事務所に顔を出してきましたが、仕事仲間もみな元気そうでした。
さてさて、ロシアでの最後の訓練はソユーズのシミュレーション訓練でしたが、われわれはもちろん、インストラクターも最後と言うことで気合が入っていたのか、今までにない不具合の連続でなかなか興味深いシナリオでした。
ISSへのランデヴーのための準備段階から始まって、ISSにドッキングするというシナリオだったのですが、事の発端は船内の二酸化炭素濃度(CO2)の上昇でした。
ご存知の通り、CO2は私たち人間が呼吸することによって発生します。
通常の空気中では、その濃度は0.1%にも達しない量しか存在しないのでその毒性が注目されることはまずありませんが、これが2~3%とかのオーダーになってくると人によっては顕著な影響が現れます。
二酸化炭素中毒と呼ばれる症状です。
ソユーズ船内では、私たちの呼吸と共にこのCO2濃度は上がっていく一方なので、化学反応によってCO2を除去するフィルターが使用されていて、濃度が1%を超えるようなことはありません。
そのCO2がゆっくりと上昇しています。
考えられる原因は2つです。
CO2除去装置のファンが故障したか、フィルターのカートリッジの寿命切れです。
確認したところファンは動いているようです(ファンが作動しているととてもうるさいので、すぐにわかります)。
となるとカートリッジの寿命切れということになりますが、予備のカートリッジは居住モジュール内にあり、すぐに交換することは出来ません。
そこで、通常は閉めておく居住モジュールと帰還モジュール(私たちがランデヴー中いるところ)の間のハッチを開けておきました。
こうすることで、居住モジュールにも同様に設置されているCO2除去装置が代わりに働いてくれると言うわけです。
ISSとのドッキング時にはこのハッチは閉めなければいけないので、ドッキング直前に閉めるのをアナトーリと確認しあいました。
他にも様々な不具合が仕掛けられてきましたが、それら1つ1つに的確に対処しつつ、いざISSとのドッキングです。
メインコンピューターの故障でアナトーリが手動操縦でドッキングさせることになりましたが、これについても日々の訓練でしっかりと鍛えられているので問題ありません。
ドッキング前にハッチを閉めるのも忘れず、無事にISSにドッキングしました。
ドッキング後は、ISSとの結合システムが正常に作動中なのを確認しつつ、ソユーズの気密性をチェックします。
これはドッキング時の衝撃で、気密性が失われていないかをチェックする為です。
すると、居住モジュールの気圧がどんどん下がっているではありませんか。。。
アナトーリの操縦は見事だったので、ちょっと納得のいかない不具合ですが、まあ訓練なので仕方ありません(笑)
居住モジュールの気圧性が失われてしまうと、もうISSへ移ることは不可能です。
どうしてもそこを通って移動しなくてはならないからです。
残された選択肢は一つ。
このまま地上に帰還することです。
アナトーリも私もホッとしたのも束の間、すぐに帰還に向けた準備に取り掛かりましたが、ここで (゚o゚;) ハッ
居住モジュールとの間のハッチを閉めてから、当然CO2濃度が再度上昇を開始しています。
もう1%に達するかという勢いです。
原因は先ほど書いたとおり、カートリッジの寿命切れです。
このままCO2濃度が上昇していくと、人体に危険が及びます。
↓
その装置を復活させるためのカートリッジの予備は、居住モジュールにあります。
↓
その居住モジュールは、空気が漏れていて、どんどん気圧が下がっています。
↓
一番上に戻る
という見事な三すくみ!
そこで、アナトーリと私で話し合って出した結論は。。。
帰還モジュールと居住モジュールを一旦均圧化してハッチを開け、予備のカートリッジをダッシュで取ってきてすぐに帰還モジュールに戻りハッチを再度閉める。
というものでした。
空気の抜けていくモジュールに入り、必要なものをゲットしてすぐに戻ってくる。
まるでSFアクション映画のようです。
これが映画なら、コマンダーのアナトーリを抑えて「自分が行く!」と主人公の私(オイ)が名乗りを上げ、居住モジュールに潜入。
見事にカートリッジをゲットして帰還モジュールに戻る途中に宇宙服が挟まって身動きが取れなくなり、カートリッジだけをアナトーリに託して自分は親指を立てて微笑みながら向こう側からハッチを閉める、的な王道展開になるのでしょうが。
自分たちの案をモスクワの管制センターに伝えると、即答で
「それは許可できない」
という答えが返ってきました。
空気の漏れているモジュールにあえてクルーを進入させることはしない、リスクが高すぎる、というのがその理由でした。
最もな理由ですが、現実にこういう事態になったらどうするでしょうね。
なかなか興味深いケースです。
結局、ハッチを開けることはせず、このまま緊急帰還することに。
もちろんCO2濃度の問題は何とかしなければならないので、それに対しては帰還モジュールを手動で減圧させて空気を抜いてしまうことになりました。
これはつまり、帰還までずっとソコル宇宙服を生命維持装置として使用するということです。
宇宙服には、酸素タンクから100%酸素が供給されるので、CO2の心配もなくなります。
それはそれで、色々な別のリスクが出てきてしまうんですけどね。
こういう究極的な状況に置かれたときは、必ずしもこれが正解、というものはなく、想定されるリスクを天秤にかけて、迅速かつ的確な対応をすることが求められるのでしょう。
今回のロシア最後の訓練にふさわしい、とても内容の濃い4時間のシミュレーションでした。
それでは、皆さんどうぞ良い週末を♪
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