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2015年8月11日
今日はエネルギア社で、私たちのソユーズ宇宙船のフィットチェックがありました。
エネルギア社はロシアの宇宙開発の屋台骨とも言うべき巨大企業で、モスクワ郊外のカラリョフにあります。
カラリョフは、かの旧ソ連の宇宙開発を主導したセルゲイ・カラリョフにちなんで名付けられた町で、エネルギア社だけでなく、ロシアのミッションコントロールセンターもこの町にあります。
朝8時に星の街に出発した私たち一行は、予定通りモスクワ名物の渋滞に巻き込まれ、9時半ごろにエネルギアに到着しました。
私たち47Sソユーズの3名に加え、シミュレーション訓練のインストラクターや座学のインストラクターも同行しています。
厳重なセキュリティチェックを通過して、すぐにソユーズ宇宙船の待つ建物へ。
さすがに写真撮影は禁止されているので、残念ながら写真はなしです。
建物の中は巨大なクリーンルームになっていて、相当な大きさです。
良く東京ドーム何個分などどいう例えが使われますが、東京ドーム1個分の広さはあるのではないかと思います。
まず、組み立て用の枠組みに囲われた1基のソユーズ宇宙船が目に飛び込んで来ました。
「すわ、あれが私たちのソユーズか」と思いましたが、どうやらこれは12月に打ち上げが予定されている新型ソユーズ宇宙船MS型のようです。
ちなみに私たちの乗るソユーズは、TMA-M型の最終号機になる予定です。
てくてくと、巨大なクリーンルーム内を歩いて行くこと数分。
私たちのソユーズが見えてきました。
自然と、胸が高鳴ります。
来年5月には、あれに乗って宇宙へ旅立つのかと思うと、無理もありません。
先ほどのソユーズと同様、足組みに囲われて、既に居住モジュール、帰還モジュール、推進・アビオニクスモジュールの3つが結合された状態で鎮座しています。
この感情を例えるなら、新しい車を買ってそれがいよいよ納車されるような(笑)
まずはフライトスーツのまま、居住モジュールに乗り込みます。
まだ電源が接続されていないらしく、もしくは電子機器の寿命をセーブする為に不要な電源はオンにしていないのか、宇宙船の中はライトも点きません。
かわりにポータブルライトで中を照らしながら、クルー3人とエネルギア社のエンジニア1人が乗り込むと、それだけで居住モジュールはもう満員です。
ざっと見渡してみると、いくつかのものがまだ取り付けられていない他は、ほぼシミュレーターと同じです。
それぞれの機器のちょっと古びた感じや、重厚なデザイン・質感、手書きのラベリングまでそのままです。
匂いだけが独特で、それこそ新車に乗り込んだときのような匂いがしました。
確認事項が記載されたリストに従って、様々な機器の場所や使用方法をざっとクルー全員で確認していきます。
もちろんどの機器もまだ動きません。
二酸化炭素除去装置やコンセント、トイレ、ファンなどの機器を1つ1つ点検していきます。
次に、帰還モジュールに移動します。
ソユーズは垂直に立てられた状態なので、居住モジュールからハッチを通って降りるような感じで移動するのですが、下手に足を滑らせると落ちてしまいそうです。
高さ2メートルほどしかないはずですが、大切な宇宙船なので足の踏み下ろし場所1つとっても非常に慎重に選ばなければなりません。
ハッチにしても、これが帰還時に船内の気圧を保ってくれる生命線だと思うと、手で触れるのも何だかはばかられます。
窮屈なスペースを通って、何とか1人ずつ帰還モジュールに移動し、座席に収まりました。
訓練用のシミュレーターには、出入りを簡単にするために、ちょうど私たちの後ろに穴が開けられていて、そこから出入りすることが出来るのですが、その穴はありません。
代わりに色々なものが詰め込まれています。
それ以外は、ここもやはりシミュレーターとほとんど違いがありません。
手動操縦用のコントローラーや、各種バルブ、スイッチ類の点検をしました。
一旦、宇宙船の外に出て、今度はソコル宇宙服に着替えます。
そして再度、帰還モジュールへ。
宇宙服の厚みで、居住モジュールからの移動はさらに困難を極めます。
こうしてみると、ソユーズがいかに無駄な部分を削ぎ落として、人を宇宙に運ぶという目的に特化されているかを実感します。
まさに3人の人間を運ぶ為に必要最小限のスペースです。
座席に収まって、今度は全てのシートベルトの類を締めていきます。
これも慣れないと容易ではありません。
次に、先ほどの手動操縦用のコントローラーを引き出します。
宇宙服を着込んでいても、これらの動作が問題なくできるかを確認していきます。
最後に、座席が持ち上がった状態での動作性をチェック。
これは少し説明が必要でしょう。
ソユーズ宇宙船には、着陸時の衝撃を和らげる為のいくつかの機能が備わっていますが、その1つがこの座席です。
着陸前に座席が足の部分を支点にして数十センチ持ち上がるようになっていて、接地時にある一定以上の衝撃がかかったときに、座席が沈み込む動作でその衝撃を緩和するようになっているのです。
いわばダンパーの役割を座席が果たすことになります。
ただでさえ狭い船内ですから、普段から持ち上がった状態ではその他の操作に支障が出るので、着陸の前にこの持ち上げが発生します。
今回のチェックの目的は、この座席が持ち上がった状態を体験することです。
実際のフライトではこの持ち上げは一瞬のうちに終わりますが、今日は比較的ゆっくりと持ち上げられました。
普段の状態では、私の座るレフトシートから操作パネルまでは腕をまっすぐに伸ばしてちょうど届くくらいなのですが、座席が持ち上がった後は操作パネルがほんの目と鼻の先にあるような感じです。
以上で今日の全てのチェック項目を終了。
次にこのソユーズ宇宙船に会うのは、もう本当に打ち上げの直前、バイコヌールでのフィットチェックです。
その時に向けて、私たちクルーは訓練を、宇宙船は艤装を続けていくことになります。
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