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2015年10月17日
昨日の投稿の続きです。
減圧前の準備が終わったところまでお話ししましたね。
いよいよ真空状態への減圧に入ります。
テクニシャンの方々が、エアロック内の最終確認をして、異常がないことを確認したうえで、ハッチをクローズします。
その際、2つのものをエアロック内に置いていきました。
1つは水が少量張られたトレイです。
もう1つは、羽根のようなものと白いブロックのセット。
これらのものが何なのかはおいおいお話しします。
エアロックを減圧するということは、当たり前ですがエアロックを閉めきって、中の空気を全部抜いてしまうということです。
一番簡単なやり方は、宇宙空間に繋がるバルブを開いて、中の空気を外の真空状態に吸い出してしまえば良いのですが、全部を捨ててしまうのは非常にもったいないので、最初の段階ではエアロック内の空気をポンプを使って隣のモジュールに送ることによって圧力を下げていきます。
そうすることによって、その分の空気はそのままISSに残ることになります。
大体0.4気圧くらいまで、そのポンプを使って気圧を下げていきます。
そこで一旦減圧を止めて、宇宙服の最後のリークチェック(空気漏れのチェック)を行います。
先にも一度実施済みのチェックですが、念には念を入れて、最後にもう1度確認しておこうというわけです。
そこから先は、ポンプだけでは空気を吸い出す力が不十分になるので、宇宙空間に繋がるバルブを併用して圧力を下げます。
その間、宇宙服内の圧力も下がっていきますが、最終的には0.3気圧くらいを維持して止まります。
エアロック内の圧力がゼロに近づいてくると、先ほどの水を張ったトレイに変化が現れます。
最初に沸騰が始まります。
これは圧力の低下で沸点が0℃に近くなるからです。
次に残りの水が一気に凍ります。
これは水が沸騰する際に、多くの気化熱を奪っていくので、それによって残りの水が急激に冷やされて凍る・・・らしいです(^^;)
自分の置かれている環境が確かにほぼ真空状態になっていることを視覚で理解できるように、この水のトレイは置かれていったのですね。
次に、もう1つの羽根とブロックのセットを使って実験です。
無線でその2つの物体を、同時に手を放して落としてみるよう指示がありました。
言われたとおりに、厚手のグローブで注意深くその2つを手に取り、せーので同時に落としてみます。
かのガリレオ・ガリレイは、ピサの斜塔で重さの異なる2つの鉄球が、同時に地面に落ちるのを実験をしたと言われていますが、普通に1気圧の空気中で羽根とブロックを同時に放すと、羽根はひらひらと落ちていくぶん遅く地面に到達します。
これは空気抵抗によるものです。
では真空状態で、その2つを落とすとどうなるか。
答えは、「同時に落下した」です。
私もこの目ではっきりと確認しました。
空気がない世界、というのは私たちが普通に生きている世界の常識が通用しない世界のようです。
さあ、エアロック内が真空になりました。
実際に船外活動時に使用される手順書に従って、エアロックから宇宙空間に出ていくまでの流れを操作していきます。
1つ1つのスイッチやボタンを、注意深く確実に操作していきます。
エアロック内にいる間は、宇宙服はアンビリカルと呼ばれる太いケーブルで、操作パネルと繋がっています。
アンビリカルという言葉は英語で「へその緒」という意味なのですが、その言葉通り、お母さんから赤ちゃんに栄養分が送られるように、このアンビリカルを通してISSのシステムから宇宙服に酸素や冷却水、電力が供給されます。
船外活動に出ていくためには、このアンビリカルを外してやる必要があります。
そのあとは、宇宙服自体に装備されたリソースを使って、宇宙飛行士の生命維持が行われることになります。
そこからは、色々な不具合を想定した手順の確認をしていきました。
通信の途絶や、冷却機能の停止などを模擬して、それらへの対応手順を練習しました。
どれも左腕に取り付けられたチェックリストを参照しながら実施します。
一通り、それらの手順を確認した後、今度はこれまでの逆の操作で船外活動の終了手順に入りました。
まずはアンビリカルを宇宙服に接続して、エアロック内を加圧します。
加圧は、エアロックと隣のモジュールとの間にあるバルブを開いて、エアロック内に空気を送り込むことによって行われます。
圧力が高くなっていくときは、人間の耳というのは自然と外から中へ空気が入りにくくなっているので、耳抜きをしながら外と耳内の圧力を均衡させてやる必要があります。
ゆっくりと時間をかけて、圧力を1気圧に戻してやって、ようやくハッチを開けることが出来ます。
エアロックに入って来たテクニシャンの方々に手伝ってもらって、宇宙服を脱ぎました。
脱ぐのも、着るのと同じくらい大変です。
昼食も摂らず、朝から6時間近く宇宙服を着ていたことになります。
大きな作業をしたわけではありませんが、それでもやはり体がかなり疲れていたのは、緊張のせいもあったかも知れません。
私の心電図と心拍数は、常にセンサーによって外で待機していた医師の方に送られていたはずですが、真空状態に出た時にそれらのデータがどう変化したか、聞いてみたい気もしますね。
昨日今日とお世話になったインストラクターが近付いてきました。
「お疲れさん。長くて大変だったな。家に帰って、ゆっくり『帝国の逆襲』の続きでも観てくれ」
「まだこのあと英語の授業あるんだよね」
と言ったら、本気で驚いていましたww
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