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2015年8月14日
今日の午前中は、チカロフスキという町にある減圧チャンバーまでみんなで行ってきました。
チカロフスキは、星の街から車で5分程度の距離にある町で、そこにある軍用の飛行場に行ってきました。
飛行場の中の古ぼけた1つの建物の中に、その減圧チャンバーはあります。
よくアクション映画で悪役がアジトにしている廃工場が出てきますが、それに近い何とも言えない趣のある建物です。
減圧チャンバーというのは、内部の圧力をコントロールできる大きな施設だと思って下さい。
ここのチャンバーがすごいのは、まず巨大さもさることながら、その中に宇宙ステーションのサービスモジュールの実物大のモックアップとソユーズの居住モジュールと帰還モジュールがあることです。
とてつもない大きさです。
正確に言うと、サービスモジュールの前身になっている、旧ソ連の「ミール」ステーションのモジュールのモックアップです。
以前はミール用の訓練が行われていたようですが、現在はISSの訓練のみに使用されています。
この施設を訓練に使う理由はただ1つ。
実際にモジュールを減圧(気圧を下げる)することによって、リアルに急減圧のシナリオの訓練ができることです。
さらに言うと、先日の投稿でお話したハッチを閉める際の「感触」を体験することです。
大西宇宙飛行士Google+日記(2015年8月5日)
写真を撮ることは禁止されているので、皆さんに実際のモジュール内の様子をお見せできないのが残念ですが、少しでも雰囲気が伝わるよう頑張ります。
最初にモックアップで訓練を実施する上での注意事項の説明があり、実際のサービスモジュールとの違いに関する説明があったあと、ソユーズのモックアップに移動する際の注意事項が説明されました。
何がすごいってこのソユーズ、サービスモジュールに対して垂直に下方からドッキングしているのです。
普通に水平方向にくっつけなかった理由がわかりませんが、お陰でサービスモジュールからソユーズへの移動はなかなかアスレチックでした。
ソユーズに入るためには、吊りハシゴを降りなければなりません。
またこのハシゴが小さくて、不安定なことこの上ないという。。。
高さは3m弱あるでしょうか、なかなかの高さです。
事前ブリーフィングが終わって、いよいよ訓練スタートです。
まずは色々と外側で準備が必要らしく、その間私たちは手順書の復習などをしてのんびり過ごしていました。
と、つばを飲み込んだ拍子に軽く耳が抜ける感覚があり、これは気圧が下がり始めたなと気圧計を確認すると、確かに数mmHg気圧が低下しています。
通常の大気圧は約760mmHgですが、そこからほんの2,3mmHg下がっただけで感知するのですから、私たちの体も非常に高性能なセンサーと言えるでしょう。
対応手順に従って行動を開始します。
まずは気圧が低下するテンポを測定します。
気圧計で測定したところ、40秒で1mmHg下がっています。
次にリークが発生しているモジュールを特定する為には、ハッチを閉めていってその時の「感触」と気圧計の変動でハッチのどちら側でリークが発生しているかを判断し、次第にその網を引き絞っていって容疑者を特定します。
今回の場合は、まずサービスモジュールとソユーズの間にあるハッチを閉めました。
このハッチはソユーズの方に向かって閉まります。
最初は手順どおり、5秒間だけハッチを手で閉めて、そのあと開きます。
もしリークが大きければ、この時点で既に何らかの感触が得られるはずですが、今回は5秒間では何も感じられませんでした。
次に、今度はハッチを閉めてさらにロックします。
そしてその状態で、1mmHg下がるのに要する時間の半分の時間を待ちます。
この場合は、40秒の半分で20秒です。
20秒が経過したら、ロックを解除してハッチを開けます。
ところが、20秒待った後にハッチのロックを解除しようとして、慣れない操作に少し戸惑ってしまい、多分30秒くらいかかったでしょうか。
その後、ハッチを開けようとしても、うんともすんとも言いません。
何か目に見えざる巨大な力でハッチが押されているかのように、びくともしません。
時間的にせいぜい数mmHgの気圧差がハッチの前後で生じているはずですが、たったそれだけの気圧差で、ハッチがびくともしないのはかなり衝撃でした。
この場合、ソユーズ側でリークが発生して圧力が低下している為に、サービスモジュール側との間に気圧差が生じて、その力がハッチを押しているわけです。
一旦こうなってしまうと、このハッチは人間の力では開けません。
開く為には、前後の気圧差をなくしてやるしかありません。
そのために、全てのハッチには空気が行き来できる通り道が用意されています。
バルブを1つ開くことで、気圧の高い側から低い側へ空気が流れて、圧力が同じになろうとします(均圧といいます)。
結局、そのバルブを開いて均圧が終わるまで待って、ようやくハッチを開くことができました。
その後、何度か同様の操作を繰り返して、最終的にソユーズの居住モジュールでリークが発生していることを突き止め、地球への緊急帰還を実施することを決定したところでシナリオ終了。
大掛かりな訓練でしたが、実際にハッチを閉めるときの「感触」を体験できたのは、非常に有意義でした。
それに、色々なバルブを実際に操作できたのも、かなりリアルな訓練だったと言えるでしょう。
訓練にいかにリアリティを持たせるかは、訓練を実施する側にとって最も悩ましい課題の1つだと思いますが、そういう意味では今回の訓練はかつてないほどリアリティがありましたね。
長くなったので、このあたりで今日はやめておきますが、午後はISSでの体重測定器や血液分析器、尿分析器の使用法についての訓練がありました。
写真は、体重測定器に乗っているところです。
無重力状態で体重を量るための原理については、また別の機会にご紹介できればと思います。
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