このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。
<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。
2015年3月10日
今日は先週木曜に引き続き、ロボットアームのリフレッシャー訓練がありました。
水曜はいよいよ技量確認テストです。
前回は船外活動支援タスクのリフレッシャーでしたが、今日はフリーフライヤーキャプチャーです。
業界用語になりますが、日本のISS補給機HTV(愛称こうのとり)やアメリカSpace-X社のドラゴン宇宙船、Orbital Sciences社のシグナス宇宙船などを総称して、Free-Flyer(フリーフライヤー)と呼びます。
そして、それらのフリーフライヤーが自力でISSのすぐ近くまで飛行してきたのを、ロボットアームで捕まえることを「キャプチャーする」と言います。
今日の訓練ではフリーフライヤーとしてHTVを使用しました。なんと言ってもISSでフリーフライヤーキャプチャーが行われるようになった元祖ですので、一般的にその技量を磨くための訓練では、HTVが使用されます。
実際のミッションが近付いて、その期間中に自分がキャプチャーする宇宙船が具体的に決まると、その宇宙船を用いたミッション固有の訓練が始まる仕組みです。
フリーフライヤーキャプチャーは通常2人のクルーによって行われるタスクです。
1人がロボットアームの操作、もう1人が操作者のアシスト、地上との交信、システムの監視、コマンド送信、カメラ操作などを行います。
訓練ではその両方の役目を交替で実施しますが、より重点が置かれるのはやはりロボットアームの操作です。
というのも、操作者のスキルがタスクの成否を左右する重要な要素だからです。
訓練には2パターンあって、HTVまで5mのところからスタートするパターンと、2mのパターンがあります。
前者はキャプチャー全体の手順の練習や2人のクルーの掛け合いの練習、後者はアーム操作に特化した練習が目的です。
HTVがISSに対して相対的にほぼ静止していないとキャプチャーはできません。
これは高速で走っている車に、もう1台がピタリと並走して横付けするようなものです。
ここでいう高速というのが、時速28800キロメートルの世界なので、改めて私たち人間の科学技術のすごさというのを感じずにいられません。
ISSに対してほぼ静止している状態を保つためには、HTVは都度スラスターを噴いてやって姿勢と位置をコントロールしてやる必要があります。
軌道力学の観点から厳密に言うと、ISSの下方(地球側)から近付いてくるHTVが、何もせずに相対位置をキープし続けることは不可能なのです。
より具体的に言うと、軌道力学によってHTVの方がISSより前方へ前方へ出ようとします。
このあたりの話はとっても難しいので、これ以上突っ込みませんし質問もご遠慮願います(笑)
ご興味のある方はネットで検索検索♪
とは言っても、いざアームでHTVを捕まえようとする瞬間にスラスターを噴かれたのではたまりません。
下手をするとアームに構造的ダメージを起こす可能性すらあります。
なのでキャプチャーの直前に、HTVがこれ以上スラスターを噴かないようにするコマンド(命令)を送ってやります。
HTVは姿勢コントロールを止め、その時点での慣性で宇宙空間を漂うことになるので、この状態のことをFree Drift(フリードリフト)と呼びます。
HTVの場合、このフリードリフトになった状態から99秒以内にキャプチャーしてやる必要があります。
その限られた時間内に、安定したアーム操作でHTVをキャプチャーするところがクルーの腕の見せ所です。
訓練は写真のようなシミュレーターを使用しますが、操作に使うハンドコントローラーは本物と同じ仕様です。
ハンドコントローラーは2つあり、これを両手で持って操作します。
向かって右のコントローラーでアームの向き(姿勢と言っても良いです)をコントロールし、左のコントローラーでアームの前後左右上下の動きを操作します。
皆さんも、手で何かを掴むとき、手を所望の位置に持っていきつつ、手のひらをその物体の方に向けますよね。
その、私たちが無意識のうちに行っている2種類の動作を、2つのハンドコントローラーで操作するのです。
シミュレーターには4つの難易度があって、それぞれEasy, Medium, Hard, Out of specの順に難しくなります。
EasyだとHTVはほとんど静止して動きませんが、難易度が上がるにつれてHTVの動きが激しくなり、最高難度のOut of specともなると、さながらじゃじゃ馬のように画面内を暴れ回ります。
では実際はどうなのかと言うと、私はHTV4号機のキャプチャーの際にフライトコントローラーの一員としてミッションコントロールルームでその場面を見ていたのですが、その時に抱いた感想は、
「あたかも正座してキャプチャーされるのを待っているかのようなお行儀の良さ」
というものでした。
日頃の厳しい訓練があるからこそ、本番で自信を持ってタスクに臨めるのだろうとその時思ったのを覚えています。
訓練の内容うんぬんよりも、フリーフライヤーキャプチャーとはなんぞや?という話がメインになってしまいました。
ロボットアーム訓練は大好きな訓練の1つなので、ついつい長々と書いてしまいましたが、機会があればまたご紹介したいと思います。
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約 |