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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年12月20日

(出展:JAXA)

ヒューストンに帰ってきました。
今回のロシア・カザフスタン滞在はこれまでで最長の8週間に亘りました。
最終試験からバックアップクルーミッションと、充実した8週間でした。

今日は打ち上げ当日の流れを振り返っていきたいと思います。
自分たちの本番の時は、とても克明に記す余裕はないと思うので、長文になりますがご容赦ください。

当日の打ち上げ予定時刻は、現地時間の17時03分。
これはラッキーな方です。
というのも、時差調整が必要なく、通常通りの時間に起床出来るからです。
打ち上げ時刻によっては、数日前から時差調整を行ったりしますが、今回は起床時刻は大体朝の8時で、この点はプライムクルーは喜んでいました。
とは言え、ISSとのドッキングは23時頃ですから、非常に長い勤務になるのは間違いありません。

プライムクルーは起床後、シャワーや全身のアルコール消毒など、打ち上げ当日独特の手順があります。
ソコル宇宙服用の下着を着て、その上からブルースーツを着込んでいます。
私たちバックアップクルーは、ホテルを出るところから合流です。

ホテルの方々に見送られて、訓練所へ。
ここで朝食をゆっくり摂ります。
10時40分からは、分刻みのスケジュールで動き始めます。

まずは、3階のかつてソユーズコマンダーが宿泊していた306号室で、出発前の乾杯です。
こじんまりとした部屋なので、参加者は限定されます。
クルー6名、プライムクルーの配偶者、各宇宙機関の代表1-2名というところです。
1人ずつ簡単にロシア語や英語でスピーチして、シャンパンで乾杯していきます。
クルーはさすがにグラスに口を付ける程度ですが。
正味15分ほどでしたが、このセレモニーは良かったですね。
プライムクルーへの激励や、これまでサポートしてくれた家族やスタッフへの感謝の言葉など。
また、これまで数週間の時間を共にした仲間へのお別れの時間でもあります。
これからいよいよ打ち上げへ向けて出発するという決意に満ちたプライムクルーを見ていると、グッとくるものがありました。

306号室を出て、恒例のドアへのサインです。
各自好きなドアを選んでサインしていましたが、やはり必然的に306号室が人気のようです。

そのあとホールへ出て、ロシア正教の聖職者の方から聖水で祝福を受けます。
聖杯に溜められた聖水に、大きな筆のようなものを浸して、それをプライムクルーの顔面目がけて振りかけます。
この聖水のかけ方がなかなか豪快なので、いつも映像で観るたびに笑ってしまうのですが、私も今回はプライムクルーの後ろに並んでいたので、思いきり被弾しました。

顔中水浸しになったプライムクルーにタオルが配られますが、みな笑っています。
ここで、「せっかくだからバックアップクルーもかけてもらえ」というありがたい言葉が上がり、私たちも筆の餌食に。

身だしなみを整え、訓練所からの出発時間きっちりに施設を出ます。
こういうところも験担ぎなのかもしれませんが、予定時間通りに動くことをとても気にしている様子でした。
施設を出るとき、なぜかテンション高めのロシアンロックミュージックがかかります。
施設のスタッフ、インストラクター、家族、友人ら多くの関係者に見送られながら、クルーはそれぞれのバスに乗り込みます。

パトカーに先導されながら一路、バイコヌール宇宙基地へ。

40分ほどで、先日フィットチェックを行った例の巨大な建物に到着します。
ここから先、バックアップクルーとしての仕事はありません。
ひたすら、プライムクルーに付いていくだけです。

小休憩のあと、プライムクルー1人ずつソコル宇宙服に着替えていきます。
ホテルで着込んだ下着から、またここで新しい下着に着替えます。
宇宙服のスペシャリストたちが丹念に、ソコル宇宙服を着させてくれます。
以前ご紹介しましたが、ソコル宇宙服はお腹のところを風船のように縛って気密性を確保するのですが、彼らの縛り方はさすがに場数を踏んでいて、芸術的な領域です。

全員着終ったところで、隣の部屋に移動して、リークチェック。
この部屋は真ん中がガラスで仕切られていて、クルーの様子を家族や関係者がガラス越しに見守っています。
1席だけ置かれたソユーズの座席に1人ずつ乗り込んで、グローブを着け、ヘルメットを閉めてリークチェックを行います。

リークチェックはソコル宇宙服を加圧して、所定の圧力に達するまでの時間を測って行います。
その時間が規定内であれば、十分な気密性が確保されていると見なされます。
宇宙服のサイズによって、多少時間にバラつきがあります。
もちろん、小さい宇宙服ほど加圧に要する時間は短くなります。
プライムクルーのコマンダーのユーリ・マレンチェンコ飛行士が、他の2人の飛行士にそれぞれどれだけの時間がかかったかを確認していたのが印象的でした。
ユーリは穏やかで寡黙な人で、普段から必要以上のことはあまりしゃべらない人ですが、この時は表情が完全にコマンダーになっていました。

3人のリークチェックが無事に終わり、このあとガラス越しに家族と少し会話する時間が与えられます。
3人は終始穏やかな様子でした。

家族が退室した後、今度はエネルギア社やロスコスモスの幹部が入れ替わりに部屋に入って、それらの人々にもガラス越しに挨拶をします。
それが終わると、隣室に戻ってロケットの発射台への出発時間までしばし休憩です。
プライムクルー3人とも、穏やかな表情の中にも打ち上げに向けた決意のようなものが感じられ、みな良い顔をしています。

出発時間になりました。

3人は建物の外に出て、そこに待っていてくれた多くの方々からの大声援を受けながら、中央に並んだエネルギア社の幹部の前へ進んでいきます。
イギリスの国旗が何枚もはためいています。
幹部と最後の挨拶を済ませると、発射台へ向かうバスへ。
バスの中から、見送りの人々へ手を振るプライムクルー。
私たちはそれを隣の別のバスから見ています。
ユーリの小さな娘さん、ティム・ピークの2人の男の子が、付き添いの人の肩車をしてもらいながら、それぞれのお父さんを呼んでいました。
感動的な光景です。

ゆっくりとバスが動き出し、私たちのバスもそれに続きます。

いくつか角を曲がって、発射台へ向かっていきます。
ところどころ沿道に立つ警備兵の方々が、敬礼してバスを見送っています。
すれ違う民間人の方々は、みな一様に手を振ってくれています。

遠くに発射台が見えてきました。

最終コーナーを回って、恐らく数kmあると思われる発射台への最終ストレートへ。
と、ここでプライムクルーのバスがチカチカとハザートを点灯させ、おもむろに道の路肩に寄せて停車しました。

私たちの乗っているバスの助手席に座っていたスタッフが立ち上がり、運転席へ通じる扉を閉めます。
そして、向かって右側のブラインドを全て下ろし始めました。
下ろし終えると、運転席への扉の前に仁王立ち。
扉のガラス窓を塞ぐようにして、立ちはだかります。

これから、ソユーズ打ち上げ前の一連の験担ぎ、その最後を飾る「立ち小便」が始まるのです。

50年以上前に、同じ発射台から人類初の宇宙飛行へ飛びたったユーリ・ガガーリン飛行士は、同じく発射台へ向かいながらここで尿意をもよおし、バスを降りて後輪に立ち小便をしたのでした。
それ以後、続けられてきた慣習。
実際、このあと宇宙船に乗り込むと数時間トイレには行けませんから、極めて現実的な必要性も兼ねていると言えるでしょう。

しかしまあ、どうしても笑いが込み上げてきてしまいます
(;´∀`)

先ほど念入りにスペシャリストが縛り上げたソコル宇宙服。
リークチェックを行って気密性が確認されたソコル宇宙服。
その紐を解いて、立ち小便をするクルー。

リークチェック台無しやんwww

けれど、宇宙船に乗り込んでからもリークチェックはもう1度行いますし、きっとさっきのは宇宙服に致命的な欠陥がないかどうかを見るためのものだったのでしょう。
穴が開いてしまってたりすると、宇宙船では直せませんからね。
次にリークチェックが上手くいかないとすると、それは例えばヘルメットを閉めるときにケーブルが挟まってしまったりとか、グローブがきっちりとロックされていなかったりということが原因、つまりすぐに修正可能な原因のはずです。
だから、ここでソコルの紐を解いてもちっとも問題はないのです。
きっとそうに違いありません!

立ち小便が終わった模様です。
ブラインドが上げられました。

しばし待つこと数分。
きっとプライムクルーのバスでは、再度スペシャリストたちが3人のソコル宇宙服を縛っていることでしょう。

そのあと、私たちに前のプライムクルーのバスに移って良いという指示が出ました。
自分たちのバスを降り、プライムクルーのバスへ。
バスは真ん中に昇降口があって、そこから前と後ろの2区画に分かれています。
前方の区画に入って、ソコルを着直した3人とお別れをします。
ユーリ、ティム&ティムのそれぞれに激励の言葉をかけ、それから色々と教えてくれたことへの感謝の気持ちを伝え、がっちりと抱擁して握手を交わします。
彼らは2時間半後には、宇宙に飛び立っていくのです。
そう思うと、胸に迫るものがありました。

お別れを済ませ、私たちはバスの後ろの区画に移ります。
さらに待つこと数分。
あくまで時間ピッタリに発射台に着くつもりのようです。

ようやくバスが動き出しました。
発射台に向けて真っすぐに伸びる直線を、バスが進んでいきます。

やがて、2日前に私たちが立ち上げを見守ったソユーズロケットの、本当に目の前でバスが停まりました。
2日前と異なるのは、既に極低温の液体燃料が搭載され、ロケットの下部からもうもうと冷気が上がっている点と、第1段ロケットエンジンの周りに霜がびっしりとついて白色になっている点です。

ロケットの前に、ロスコスモスの長官を始めとする見送りの一行が並んでいます。
プライムクルーがバスを降りて、そこに向かっていくのを私たちはバスから見守ります。
その後、一団がロケットのエレベーターに向かって動き出したのを見計らって、私たちもバスを降ります。
エレベーターに向かって続く階段の途中に立って、3人が手を振っているのが見えました。
私も大きく手を振り返しました。

すぐに3人はエレベーターの中へと消えていきました。
下に立って見上げると、エレベーターはかなり上の方まで続いています。
宇宙船はロケットの最上段に載っていますから、当然です。
今頃は、レフトシーターのティム・コープラ飛行士がまず宇宙船に乗り込もうとしているに違いありません。

自分たちのバスに戻り、発射台を離れました。
そこから約1.5㎞離れた、展望デッキに移動して、その時を待ちます。

展望デッキに隣接する形で、小さな2階建ての建物が建っていて、その中が緊急時のレスキューチームの司令塔になっています。
私たちはその建物の屋上から、打ち上げを見ました。

そのエリアからは、ソユーズロケットは鉛筆くらいの大きさに見えます。
だだっ広い荒野に、ポツンとロケットが立っているのが良く見えます。
外にいるので、打ち上げのカウントダウンは聞こえません。
その時間になると、おもむろに打ち上げのシーケンスが始まります。

打ち上げの約30秒前に、まずロケットに接続されていたタワーが1本外れていきました。
いよいよです。

エンジンの予備噴射が始まると、ロケットの下部に噴煙が上がるのが見えました。
少し遅れて、空気を切り裂くような爆音が聞こえてきます。
空気が、びりびりと振動するのを肌で感じることが出来ます。
エンジンの出力が全開まで上げられると、音も振動もさらに大きくなりました。
ゆっくりと、ロケットが上昇を始めました。
まぶしいほどの光を放ちながら、ロケットはグイグイと上昇速度を上げていき、あっという間に小さくなっていきます。
天気は快晴ですが、ロケットの排気が雲になって、そこから一条の影が地上に伸びています。
第1段エンジンの切り離しは、少なくとも私の肉眼では確認できませんでした。
その前に、ロケットの姿は小さくなってもう見えなくなっていました。
あとで拡大映像を見ると、綺麗に四方に切り離されていくエンジンの様子が、はっきりと確認することが出来ました。

本当に、美しい打ち上げでした。

ロケットが目視できなくなったので、建物の中に移ります。
そこでは、レスキューチームが無線と電話で各所と連絡を取りながら、地図の上でロケットの行方を追っていました。

打ち上げから、528秒後。
ロケットから無事に宇宙船が切り離されたという無線が入り、部屋の中に拍手と歓声が溢れました。
すぐにワインが用意され、打ち上げの成功を祝ってロシア式乾杯の開始
(;´∀`)
自分たちの出番がなかったことを喜び合うレスキューチーム。
晴れて、バックアップクルーからプライムクルーになった私たち。
今頃は、クルーは最初のエンジン噴射に向け、忙しく作業を開始しているに違いありません。
ユーリ、ティム&ティム、打ち上げ成功本当におめでとう!

その夜のうちに星の街に帰るため、ほどなくして私たちは「プライムクルー用のバス」に乗り込み、帰路についたのでした。


リークチェックを実施中のティム・コープラ飛行士。エネルギア社の撮影。(出展:JAXA)
(出展:JAXA)

(出展:JAXA)
エネルギア社幹部への宣誓式。エネルギア社の撮影。(出展:JAXA)
(出展:JAXA)
(出展:JAXA)

一路、ロケット発射台へ向かうプライムクルーの乗るバス(出展:JAXA)

ロシア宇宙庁ロスコスモス長官に宣誓するプライムクルー(出展:JAXA)
(出展:JAXA)

エレベーターに乗り込むプライムクルー(出展:JAXA)
(出展:JAXA)

(出展:JAXA)
(出展:JAXA)

(出展:JAXA)


 
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