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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年11月11日

自分が選んだチケットにサイン(出展:JAXA)

ソユーズの手動ドッキングの試験が終わりました。

結果を先に書いてしまうのは、推理小説や映画好きな私としてはちょっとどうかなとも思うのですが、書いてしまった方が話を進めやすいので先にネタバレを。

1科目で減点されてしまい、残念ながら満点での通過はなりませんでしたが、無事に試験には合格しました!

今回の試験もアナトーリと一緒に受けたのですが、前回の地球への降下操作の試験とは違い、今日は1人ずつチケットを選びます。
用意されたチケットは前回と同じく4枚。
これはそういう決まりでもあるのですかね。
まずアナトーリが一番右のチケットを選んで、サイン。
私も同じ封筒にサインしようとしたら、「違う違う、君も自分で1枚選ぶんだ」と言われ、残りの3枚の中から一番自分に近かった左のチケットを。
こういうのは迷っても仕方がないと思うたちで、だいたい自分の一番近くのものを選びますね、私は。
今回の試験もまた、大観衆の見守る中での試験になります。

前半はアナトーリが操縦する番で、私は左席でそれをサポートする役目です。
必要に応じて手順書を読み上げたり、コマンドを送信したりします。
人の試験だと思うと、余計に緊張します。

1時間半ほどでアナトーリの試験が無事に終わり、休憩をはさんでいよいよ私の番です。
私が中央のコマンダー席に座り、アナトーリが左席に座るのはなんだかとても新鮮でした。

試験の科目は4種目です。
①あるドッキングポートから別のドッキングポートへの移動
②自動操縦での最終進入中に機器の故障
③フライアラウンド中に機器の故障
④異常に早い速度でISSに接近中に機器の故障
各種目は、それぞれ5点満点で採点されるのですが、評価されるのは大きく分けて2つです。

1つ目は、ドッキング時の宇宙船の安定性、ドッキングの正確性で、これはドッキング時の速度は一定の範囲に入っているかだとか、ドッキングターゲットとの位置の誤差が許容範囲内に入っているかなどです。
ここは要注意な項目で、例えばドッキング時の速度が規定より速いと一発フェイル、つまり試験は不合格になります。

2つ目は、種目を達成する上で消費した燃料と時間です。
これはある一定以上の燃料や時間を消費した段階で減点されていきます。
ただ、科目によってはこれらについて評価されないものもあります。
例えば4種目目の高速でISSに接近中に機器が故障するケースでは、燃料や時間の制限はありません。
何よりもISSとの衝突を回避することが最優先であり、その目的を達成しさえすれば良いのです。

私が減点されたのは3種目目の、フライアラウンド中の機器の故障です。
フライアラウンド(Fly Around)というのは、専門用語になるのですが、ISSから400m以内の距離に近付いたソユーズが、ドッキングするポートの正面に回り込む操作を言います。
ISSからの安全距離を保ちながら周りを飛行するので、Fly Aroundと呼ばれます。
科目はまず、自動操縦でフライアラウンドを行っているところからスタートします。
ほどなく、ISSとの距離や相対速度、方位を測る航法装置が故障したことを知らせる警報が。
すぐに手動操縦に切り替えて、自分の操作でフライアラウンドを継続します。

このフライアラウンド中に、ISSとの距離がある一定以下になってしまうと、これまた危険ということで一発フェイルです。
無理もありません。
ISSにぶつかるような事態だけは、避けなければいけませんからね。
私はそれを警戒して、今日はいつもより少し安全サイド、つまり距離を遠くとってISSの周りを飛行していました。
この間、目視でISSとの距離を推定するのですが、その目測が甘かったようで、自分で思っているよりも遠いところを周っていたようです。
そうすると何が起こるかというと、いつもと同じ速度でISSの周りをまわっているわけですから、距離が遠くなると、その分ソユーズが飛行する円弧の長さも長くなるわけで、つまりは時間をいつもより使ってしまうことになります。

私は普段の訓練中、この時間制限に引っかかったことがなかったので、正直に言ってこれまであまり気にしたことがありませんでした。
それがこの試験で、気付いた時には壁となって私の前に立ちはだかっていたのです。

与えられた制限時間は22分。
それを過ぎると、減点になります。

ドッキングポートの正面に回り込むまでに、相当な時間をロスしていたようです。
と言っても、そこまで遅かったわけでもないので、元々時間制限が結構シビアだったと言うべきでしょう。
試験と言うことで、いつも以上に慎重な操作を心がけていたせいもあるでしょう。
色々な要因が重なって、気付いた時には追い込まれている自分がいました。

ISSとの距離はまだ200m近くあります。

アナトーリが横から、「残り○分」と知らせてくれます。

普通にやってギリギリ、というタイミングです。

ここで、いつもより速めの速度でISSに接近するという選択肢は、確かにありました。
あとのデブリーフィングでも、その点は指摘されました。
もちろん、速いと言っても許容範囲内の速度を使うわけですが。

私はそれをしませんでした。

いつも自分がやるように、いつもと同じ速度で、いつもと同じやり方でISSに接近し、残り時間に追われる中、規定通りに3m手前で静止して最後の状態をチェックして、そのうえでISSにドッキングさせました。

結果、22分という制限時間を20秒オーバーしました。

この項目で減点され、目標にしていた満点は達成できず、それでも4種目目はきっちりとこなして試験を終えたので、その点は良かったです。

デブリーフィングでは、フライアラウンド中の距離の遠さと、最終進入中にもう少し速めでも良かった、というコメントを頂きました。
個人的には前者が全てかなと、思っています。
時間制限というのは、あくまで試験のためのものであって、その条件を満たすためにいつもより速い速度で進入するというのは、安全性を考えた場合、マイナスだと思います。
そうすれば結果的に上手くいって、満点で合格することが恐らく出来たでしょうが、それをしなかったのは私の判断であり、今回の結果には満足しています。

来年打ち上げ前にプライムクルーとして試験に臨むときは、時間制限を気にする必要がないように、フライアラウンドの段階からきっちりとやってみせます!

これで2つ終わりました。
あとは4つです。



 
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