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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年8月15日

抜けがないように、手順書を穴があくくらい見つめますw(出展:JAXA)
(出展:JAXA)


今回のロシアでの訓練も佳境に入ってきました。
昨日の午後はソユーズのシミュレーション訓練です。
久しぶりに、アナトーリと2人だけで受けます。
最近はずっとケイトも一緒だったので、忙しい時など色々と彼女にサポートしてもらえたのですが、さてさて、今回はどうなるか。

シナリオは、ISSからのアンドッキングから始まり、地球に帰還するまでです。
少し途中を端折れば、2時間で1つのランを出来るので、今回は4時間で2本のランをやりました。

失敗した1本目のランについて書きます。
アンドッキングする前に、居住モジュールを少しだけ減圧して、帰還モジュールとの間にリークがないかを確認するのですが、その「少しだけ減圧」するはずの減圧が止まりません。
宇宙の真空に向けて開いたバルブがちゃんと閉じていないのかもという話になり、そのバルブを再度開け閉めするコマンドを送ると、減圧がやっと停止。

アンドッキングして、最初にISSから離れる方向にエンジンを噴いている途中でメインコンピューターが故障。
この場合エンジンも一旦止まってしまうので、手動操縦に切り替えて所定の時間に足りなかった分だけエンジンを噴きます。
それ以降のISS周辺の空域から離脱する噴射も手動で実施。

安全な距離まで離脱してホッと一息したところで、エンジンへ燃料を送るための加圧ガスシステムの圧力がどんどん低下していきます。
どうやら、ガスが宇宙空間に漏れているようです。
放っておくとガスが全部なくなってしまい、エンジンに燃料を送れなくなるので、緊急帰還の実施を決定。
緊急帰還というのは、もうずうっと前に1度お話ししたかと思いますが、予定された着陸地点へのゆっくりとした降下を行うのではなく、とにかく早く着陸可能な地点に降下するモードです。
最低限平坦な場所に降りられるように、各軌道周回ごとに軌道離脱噴射を行うタイミングが指定されていて、その時間に向けて慌しく準備をしていくことになります。
圧力の低下するペースから逆算すると、何とか圧力がまだ残っているうちに軌道離脱噴射を終えられそうです。

通常よりも短い準備時間しかないので、アナトーリと私とで仕事を分担しながら準備を進めていきます。
メインコンピューターは故障したままなので、アナトーリは手動でエンジン噴射のための姿勢を確立しなければなりません。
その間、私が居住モジュールの切り離しなどの操作をしていきます。
さすがにこの辺りの手順は、もうお互い慣れたもので、予定時間の5分くらい前には全ての準備を終わっていました。

ところが。
(お、今日はスムーズにいったぞ)
という油断があったのでしょうか。
いざ、軌道離脱噴射が始まると、宇宙船がグルグルと回転を始めています(汗)
アナトーリも私もあっけに取られ、とりあえずエンジンを停止させました。
軌道離脱噴射は決められた方向に、決められた時間噴かないといけないので、こんな宇宙船がスピンしている状態では、とても実施できません。

原因は、角速度センサーの故障でした。

角速度センサーというのは、理系の方でないとちょっと聞き覚えがないかもしれません。
簡単に言うと、姿勢の変化を検知するセンサーです。
スマートフォンやタブレットで、傾けると画面の向きが変わったり、画面上のものが動いたりするゲームなどがありますが、あれも姿勢を検知するセンサーが入っているからです。

ソユーズの場合、所定の姿勢を保ったり、姿勢をコントロールするために角速度センサーが使われています。
「超」がつくほどの重要なセンサーなので、3式搭載されています。

メインコンピューターが生きていれば、常にその3式の正常作動をモニターしていて、故障したセンサーは自動的に排除するようになっているのですが、メインコンピューターが故障している今回のようなケースでは、1式のセンサーしか使われず、それが故障した場合には手動で他のセンサーに切り替えてやる必要があるのです。

ただ、その故障したことに気付くのが、容易ではありません。
何かメッセージがディスプレイに表示されるわけではなく、いくつもあるディプレイの表示フォーマットのうちの1つの、そのセンサーがオンになっていることを示す小さいライトしか、手がかりがないのです。

故障した瞬間にそのフォーマットを丁度見ていれば、気付けた可能性が高いですが、他にも確認する項目が多いなか、ちょっと目を離した隙に壊されるとかなりの注意力が必要です。
何より、手順書に従って1度そのセンサーの作動を目視で確認していたこともあり、故障を疑う発想が頭にありませんでした。

完全に盲点をつかれました。

所定のタイミングでエンジンを噴射できませんでしたが、とりあえず故障した角速度センサーを切り替え、再度手動で姿勢を確立したのちに軌道離脱噴射を実施しました。
燃料加圧システムの問題も抱えていますから、次の周回まで待つということができないからです。
この間、3~4分要したでしょうか。
ソユーズは秒速8キロメートルで飛行しているので、着陸地点が1500~2000kmずれることになります。

そのあとも、メインエンジンの故障などが発生しましたが、これらには落ち着いて対処できて、何とか地上に帰還することができました。
(ただし、どんな所に降りたかはわかりません。もしかすると海の上だったり、山の中だったりするかもしれません)

訓練を終えて、シミュレーターから降りて開口一番インストラクターに、

「全然気付かなかったよ・・・いつから故障してたの?」

と聞くと、

「エンジン噴射する7分前かな。これはおれの一番好きな不具合なんだ
( ̄ー ̄)。今まで、どんなクルーもみんなハマった」

と、したり顔。

「メインコンピューターが故障した状態では、この角速度センサーが非常に重要になってくるんだ。
エンジン噴射の前に必ず状態を確認する癖をつけた方がいい」

と、アドバイスも忘れません。
いつも試練を与えてくれるインストラクターに感謝!
あなたのお陰で、アナトーリも私も、回を追うごとに成長することができます。

それでは皆さん、どうぞ良い週末を♪



 
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