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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年11月26日

(出展:JAXA)

先週木曜日に行われた私たちバックアップクルーのソユーズ最終試験について書きますね(^^)

当日は朝8時からまずはソコル宇宙服に着替えるところから始まるのですが、7時半過ぎには行って、出来る準備は全てしておきました。
例えば、事前のシミュレーターの点検です。
場合によっては、バルブやスイッチが最後に使われたときの状態のままになっていることがあるので、それらを全て初期状態に戻しておきます。
もちろん、手順で打ち上げ前に全て確認することになっているのですが、万が一に越したことはありません。
それから重要なのは自分の座席の点検です。
座席には、4点式のシートベルトだけでなく、通信用のケーブル、脈拍などの医療データ用のケーブル、足留めなどが装備されているので、これを自分が装着しやすいように事前に配置しておきます。
ソコル宇宙服を着て座席に収まると、手の届く範囲が限られ、視認できる範囲すら制限されるので、どこに何があるかを把握しておくことはとても重要です。

予定通り8時から、ソコル宇宙服への着替え。
試験なので普段はやらない、ヘッドセットの通信チェックも行います。
これはどういうことかと言うと、地上や他のクルーとの会話はヘッドセット越しに行うのですが、ヘッドセットのケーブルは首元からソコル宇宙服の中に入れて、お腹の辺りでコネクターに接続します。
そのコネクターから繋がる別のケーブルが右脇腹の辺りでソコル宇宙服の外側に貫通していて、もう一端を先ほどの座席の通信ケーブルと接続するわけです。
宇宙服を着込むときに、このコネクターの接続部が緩んでしまう可能性があるので、着終わった時点で一旦テスト用のケーブルを宇宙服に接続して、通信がちゃんと出来るかを確認するのです。
いざ宇宙船に乗り込んで、通信テストを行ったらダメでした、では済みませんからね。
そうなると、一度宇宙船から出て、せっかく閉じた宇宙服のお腹をまた開けてやって接続をやり直す必要が出てくるからです。
宇宙服を着た時点で一度チェックをしておくて、安心です。
ちなみに、ヘルメットを開けた状態では、クルー同士で直接会話をすることも可能ではあります。
ただ、宇宙船内はファンの音など結構うるさいので、大声を出す必要がありますが。

私たちが宇宙服を着ている頃、シミュレーターのある大きなホールに人が沢山集まってきます。
試験の監督者(コミッションと呼ばれます)やインストラクター、その他大勢のスタッフたちです。
8時20分になると、3人でクルールームから出て行って、居並ぶコミッションの方々に挨拶、その後自分たちの運命を握るチケットを選びます。
1枚のチケットには、それぞれ6つの不具合が記されています。
どのタイミングで、どんな不具合が起こるかです。
机の上に並べられた5枚のチケットから、アナトーリが迷わず真ん中のチケットを選びました。
一人ずつ、チケットの入った封筒にサインをして、いざ、シミュレーターへ。

シミュレーターの前で簡単なインタビューがあって、それからシミュレーターに乗り込みます。
順番は必ずレフトシーターの私から、次にライトシーターのケイト、コマンダーは一番最後です。

試験は3部に分けて実施されます。
まず、打ち上げ前準備から始まって、4回の軌道調整噴射を行うまで。
このあと、ソコル宇宙服を脱いでブルースーツに着替え、ISSとのランデヴーからドッキングまで。
昼食休憩を挟んで再びソコルに身を包み、ISSからのアンドッキングに始まり地上に帰還するまで、の3つです。

第1部が終わった時点で、投入された不具合は1つだけ。
通信機の故障で、地上との交信が出来なくなるというものでした。
定められた手順に従って、バックアップの装置に切り替えると回復しました。

続いて第2部。
いまかいまかと不具合に警戒しながら、通常の手順を進めていきますが、なかなか異変は起こりません。
ISSまで約400mに近付いてフライアラウンドが始まったところで、ようやく無線航法装置が故障しました。
これはまあ、定番中の定番と言うべき不具合で、そこから手動操縦に切り替えてアナトーリがISSにドッキングさせます。
訓練で何度も何度も実施している不具合です。

第2部が終わる頃には、はや午後1時をまわろうとしていました。
約45分の昼食休憩です。
3人で昼食を取りながら、作戦会議です。
火災が起きたらこうする、急減圧が起きたらこうする、というのをクルーで再確認しあいます。
出来れば第2部までに、3つの不具合を処理しておきたいところでした。
不具合の数は合計6つ。
ここまで投入された不具合はまだ2つですので、このあとの第3部で4つの不具合が発生することが確定しており、かなり忙しくなりそうだなという思いが頭をよぎります。

ソコル宇宙服に再度腕を通し、午後2時から試験再開。
予想が的中して、第3部は冒頭から忙しくなりました。

ISSからアンドッキングを開始するまであと3分というところで、燃料を加圧するためのガスタンクの圧力が低下を始めました。
ガスがどこかから漏れていっています。
ソユーズのメインエンジンは、ガスの圧力がある程度まで下がると正常に噴射出来なくなってしまうので、ガスが漏れるテンポを計って、それから圧力が正常値から外れるまでの時間を計算します。
その結果、当初の予定通りの時間に軌道離脱噴射を行うのでは間に合わないことがわかりました。

緊急帰還の手順を踏む必要があります。

そうこうしているうちに、ISSからのアンドッキングが始まったのですが、その途中で今度はメインコンピューターの故障に見舞われます。
手動操縦に切り替えて、アンドッキングを継続。

ISSのエリアから離脱したあと、バタバタと緊急帰還の手順に入りつつ、心の中では(あと2つ)としっかりカウントしています。

メインコンピューターは壊れたままなので、エンジン噴射のための姿勢も手動で確立してやる必要があり、アナトーリが潜望鏡を見ながらそれを行っている間、私が他の必要な手順を実施していきます。
居住モジュールの減圧から切り離し、システム状態の確認、必要なコマンドの送信などなど。

燃料加圧ガスの圧力がまだ最低限必要な分残っているのを確認して、軌道離脱のためのエンジン噴射開始。
アナトーリが噴射時間や加速度、得られた速度変化を読み上げていきます。
私は主にエンジン系統のパラメーターのチェック。

と、燃焼室前の圧力センサーの値が低下。
同時に加速度も低下しています。
これらはメインエンジンフェイルの兆候なので、手順に従いメインエンジンを停止させ、補助エンジンに切り替えて点火。
無事に軌道離脱噴射を終えました。

最後の不具合は、大気圏突入時に起こりました。
そこで自動的に始まるはずのカプセルの回転が始まりません。
他の操作と重なったため少し対応が遅れてしまいましたが、回転を開始させるボタンを押して、強制的に回転を開始しました。

第3部はバタバタでしたが、何とか無事に地球に帰還。
時計は既に午後4時になろうとしていました。

ソコル宇宙服を脱いで、3人でデブリーフィングに向かいます。
デブリーフィングでは、クルーの行った操作で適当でないと思われるものについては、なぜそういった操作を行ったか問われます。
その回答次第で、それが評価の減点に繋がるかどうかが決まります。
理由が妥当だと判断されれば減点対象になりませんし、クルーのミスと判断されればミスの程度に応じて既定のポイントが引かれる仕組みになっています。

そのコミッションとのデブリーフィングの結果、私たちバックアップクルーは良好な成績で無事に試験に合格出来ました。
個人的には、いくつか反省点があったので、プライムクルーとして試験に臨む際にはそこを修正できればなと思います。




 
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