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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年3月31日

(出典:JAXA)

今回のロシア訓練、最後の1週間が始まりました。
また寒さが戻ってきて、しかも強風とあって、ひと際寒さを感じる1日でした。
つくばでは桜が咲き始めているとか。
私が帰国するまで、もつといいなー
筑波宇宙センターの桜は、とっても綺麗ですよ(^^)

今日の午前中は、ロシア語の授業とソユーズのシミュレーション訓練の事前準備。
午後はそのままシミュレーション訓練がありました。
今回もクルー3人です。

ISSからアンドッキングして、軌道離脱噴射を行って地球に帰還する流れをシミュレーションしたのですが、比較的不具合も少なく、割とスムーズに2時間くらいで還ってこれちゃいました。
実際はもうちょっと時間がかかるのですが、訓練では何もイベントがない時間帯は時間を早送りしてしまうので、これくらいで終わってしまいます。

デブリーフィングを行って、それでもまだ1時間半くらい残っていたので、それじゃあ緊急帰還の手順でも追加で練習しようか、という話になり、再度シミュレーターに。
今度はさらに端折って、アンドッキングが既に終わって軌道離脱噴射のタイミングを待っているところからスタートです。

緊急帰還の手順というからには、何らかの緊急事態が発生するのは当然なのですが、今回は宇宙船の酸素タンクから酸素がどんどん漏れていく(リークする)、というシチュエーションでした。
一口にリークと言っても、どこから漏れているかで緊急度も対応も変わってくるのですが、今日のは最悪です。
一番おおもとの所(上流)からのリークなので、止める術もなければ、時間が経つとタンク内の全ての酸素が枯渇してしまいます。
というわけで、緊急帰還決定。

ちなみに、この酸素タンクが空になっても、ソユーズカプセルの中には空気が充満していますし、カプセル内には容量は小さいもののもう1つ酸素タンクがあるので、全て漏れた時点でアウトというわけではありません。
この酸素タンクは、軌道離脱噴射のあと、カプセルが他のモジュールと分離した後にカプセル内に酸素を供給する為のもので、使う時間が限られているので容量も小さくなっているのです。

緊急帰還の準備をしている最中もリークは進行し、もうタンク内の酸素が残りわずか、となった時点でふと、

「これ、どうせ漏れちゃうなら、全部漏れちゃう前にできるだけカプセル内に詰め込んだ方がいいんじゃない?」

ということに気付き、アナトーリにその話をすると、それは是非やろうと彼も同意してくれたので、バルブを操作して残りの酸素を全てカプセル内に詰め込んじゃいました。
これでとりあえず、モジュール分離までは十分にカプセル内に充満している空気だけで酸素がもちそうです。

やれやれ、一安心。

そうして始まった軌道離脱噴射。
噴射が始まって2分ほど経過した頃でしょうか。
今度は船内に、『カプセル内急減圧』の警報が鳴り響きます。
「そうは問屋がおろさんよ」というインストラクターの顔が目に浮かんでくるようでした。
つまり、頼みにしていたカプセル内の空気が、外に漏れていってます。
結構速いテンポで、すぐにカプセル内の空気は全部宇宙空間に吸い出されてしまうでしょう。

通常、急減圧の発生時は、最初にご紹介した酸素タンク内の酸素を使って時間を稼ぎながら地上に緊急帰還するのですが、今回の場合その酸素タンクはもう空になっています!!

既に不具合対処について記された手順書にも書かれていない状況になっています。
「想定外」などど言っている場合ではありません。
何とかしなければいけません。
「まだだ、まだ終わらんよ」と心の中でつぶやきます。
手元に残されたカードは、カプセル内の小型タンク内の酸素だけです。

本来、他のモジュールを分離したあと用に取ってある酸素ですが、これを使う以外に道はありません。
そのタンクから酸素をソコル宇宙服内に供給するには・・・、と頭の中で一生懸命去年習ったソユーズの生命維持システムの系統図を思い描きます。
これとこのバルブを開けば酸素が流れるはず、というバルブを手動で開きました。

・・・・成功です、酸素が供給され始めました。
あとは、地上に帰還するまで酸素がもってくれることを祈るばかりです。
タンク内の酸素が減っていくテンポから残りの時間を割り出すと、どうやら10分弱くらいの酸素が何とか残りそうです。
今度こそ、ピンチを脱しました。
(実はこの間にも、メインエンジンの出力低下などが起こっていて、そちらはアナトーリが対応していました)

このシミュレーションは、これまでの中でもかなり難しいものでした。
デブリーフィングでも、やっぱりこの時の対応についての話が話題のほとんどを占めましたが、とりあえず私たちの取った対応が間違いだったということはないようです。
ただ、これを書いている今も、もっと他にうまいやり方があったのではないか、という気がしてなりません。
先ほどの系統図を目の前に並べて、色々と考えながらこれを書いていたら、いつもより随分時間を使ってしまいました(^^;)
明日も訓練がありますので、今日のところはこの辺で。



 
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