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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2015年9月 4日

(出展:JAXA)

昨日は5時間のISS緊急事態対処訓練と、3時間の宇宙実験に関する訓練がありました。

アナトーリは1月までヒューストンに来る予定はありませんので、今回はケイトと私のための緊急事態対処訓練になるのですが、より現実に近いシチュエーションにするため、4人のゲストクルーが仲間に加わり、通常のISS6人クルー体制を模擬して行います。

6人クルー体制では、2機あるソユーズのうち、より滞在が長い方のソユーズクルー3名が主体となって緊急事態に対処します。
ISSのコマンダーも当然ながらこの3名の中にいますので、そのコマンダーが全体の指揮をとります。

今回の訓練では、アナトーリの代わりにインストラクターが1名入りコマンダー役を務め、他に3名の宇宙飛行士が別のソユーズのクルーとして一緒に訓練を受けました。
うち2名は既に宇宙飛行を複数回経験している大ベテランで、こういう方々に見守られながら訓練を受けるのは正直余計に緊張します。

以前書きましたが、火災・急減圧・アンモニア汚染というISSの3大緊急事態において、まず大原則となるのが自分の乗るソユーズの近くに避難するということです。
例えば火災が発生した場合、自分とソユーズの間にその火元があることがないように動かなければなりません。
ですので、2機のソユーズがあるということは、状況によっては2組のクルーがそれぞれ自分たちのソユーズの近くに避難して、別々の行動を取りながら途中で合流して1つのチームになる、ということも多々あり得ます。
そのようなケースでは、双方のチーム間で情報交換を密にしつつ、上手く連係して事態に対処することが大切になります。

今回は全部で4つのシナリオを実施しましたが、そのうち最初のシナリオについてご紹介しましょう。
この最初のシナリオに限り、6人ではなく3人クルー体制という設定でした。

「タク、あなたは『きぼう』に、ケイトはNode 3(ノードスリー)、アナトーリはロシア区画で作業中という設定でスタートするわよ」

と、インストラクターに居場所まで指示されて開始です。
もちろん、アナトーリは別人ですが。

指示通り、私は『きぼう』に入ってそこで「異変」が起こるのを待ち構えます。
最初のシナリオというのは、いつもどのケースが仕組まれるか全く予想がつきません。
これが3つ目や4つ目のシナリオとなると、消去法で何となく予想がつくのですが(笑)
『きぼう』はISS全体を俯瞰した場合、その端っこに位置しています。
また、ソユーズから最も遠いモジュールでもあります。
スタート地点としては、多少不利な場所に私はいます。

異変は隣のNode 2(ノードツー)と呼ばれるモジュールから始まりました。
Node 2内で煙が発生しています。
私が第一発見者なので、私が他のクルーと地上に火災の発生を伝えなければなりません。

「ヒューストン、こちら『きぼう』から。Node 2内に煙を確認。これから火災警報を作動させます」

と通信回線で一報してから、火災警報ボタンを押します。
この通信は当然他のモジュールでも聞くことが出来るので、これで何が起こっているかは他のクルーにも伝わったはずです。
火災警報ボタンを押すと、いくつかのシステムの自動処理が実行されます。
それらは例えば、換気システムを停止させることだったり、船内への酸素供給システムを停止することだったりします。
基本的には、火災がこれ以上燃え広がらないようにするのがその目的です。

次に考えなければならないのは、自分を安全な位置まで避難させることです。
この場合、端っこの『きぼう』にいる私とソユーズの間にあるNode 2で火災が発生していますので、まずは何よりも火災の向こう側へ避難しなければなりません。
その途中、煙の中を通って行かなくてはならないので、酸素マスクを着用します。

いざ、Node 2内へ。
煙の中を抜け、そのままその先のLAB(ラブ)と呼ばれるアメリカのメインモジュールへと移ろうとしたとき、その場にいたインストラクターの1人がラップトップコンピューターの所で赤い布きれをひらひらと振っているのに気付きました。

「・・・・・・」

どうやら、このコンピューターから火が出ている、と言いたいようです。
火元が特定できたら、直ちに消火活動を実施するというのが原則なので、LABモジュールにある消火器を取りに行きます。
そこで火災発生に伴いNode 3方面からやって来たケイトに会い事情を説明すると、私はすぐに近くの消火器をゲットしてNode 2へ。
コンピューターの所まで戻り、消火器を噴射(するふりを)します。
赤い布きれを振っていたインストラクターが、その布きれを引っ込めます。
どうやら、鎮火したようです(^^;)

あとはそのコンピューターが繋がっている電源コンセントをオフにして、念のためNode 2とLABモジュールの間のハッチを閉めて、LABモジュールに移動します。
そのころには、ロシア区画からアナトーリも合流してきていました。
LABモジュール内の空気が健全なのを確認したのち、酸素マスクを外したところでケースクローズです。

1つ1つのシナリオが終わるたびに、みんなで集まって、インストラクターからの講評、仲間内での振り返りを行います。
今回のシナリオでは、次のような点が指摘されました。

― 私の初動について。まず何よりも最優先すべきは自分の安全。地上への交信なんか後回しで良いので、すぐに酸素マスクを付けて火災の向こう側へ移動すること。ただし、火災警報ボタンはすぐに押した方が良い。それによって、火災の勢いが強まることのないようシステムが自動処置を行うから。

- クルー間での状況認識の共有について。今回、ロシア区画にいたアナトーリは、警報や私が行った地上との交信で火災の発生を知った。彼は、ケイトと私がそのまま安全地帯のロシア区画まで避難してくるだろうと思って、その場を動かず私たちを待っていた。ところがいつまで経っても私たちが来ないので、アメリカ区画まで様子を見に来たところ、消火活動に当たっていた私たちを発見した。クルー全員が同じ認識を持っているように心がけること。今回のケースでは、すぐに消火活動にあたることを決めた時点で、アナトーリにも状況を知らせるべきだった。

などなど。
インストラクターやケイトや私だけでなく、ゲストで来ている3人の宇宙飛行士も一緒になって、もっとここはこうすれば良かった、こんなやり方はどうか、といったことを意見交換します。
非常に有意義なデブリーフィングでした。


Node 2内の空気中の有害成分を測定中(出展:JAXA)
ISS船内の気圧が低下中!低下しているペースと現在の気圧から、あとどれくらいの猶予時間があるかを調べているところ(出展:JAXA)

発火しているラップトップコンピューターに消火器を噴射中(出展:JAXA)
Node 2内で煙が発生!(出展:JAXA)

Node 1内で発生した火災の火元を捜索中(出展:JAXA)
特定した火元に、二酸化炭素型の消火器を噴射(出展:JAXA)

マスク越しの通信は、かなり大きな声でハッキリと話す必要があります(出展:JAXA)


 
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