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2018年9月 3日
宇宙飛行士が、宇宙飛行士として本当の能力を発揮するのは、緊急事態対処ではないかと思います。
わたしは、自分で言うのも何ですが運が良く、医者として勤務していたときから、「(急患・急変に)当たらない」クチで、自身のミッションでも、まったくと言って良いほど、「緊急」と言える事態は起こりませんでした。
しかし、急を要する事態が発生したときに、頭で考えるより先に必要な処置を行うことができるというのがプロフェッショナルであり、実際に機会があるかどうかは別にして、すべての宇宙飛行士は、そのように訓練を受けています。
宇宙ステーションの壁に穴が開いて空気の圧が下がる「減圧」は、急を要する緊急事態の一つです。
軌道上にいる宇宙飛行士は、まずは身の安全を図るのが第一。自分の乗ってきたソユーズ宇宙船が係留されているドッキングポートに避難し、ハッチを閉めて、気密性が保たれていることを確認します。
自分の宇宙船の安全が確認できてさえいれば、最悪でも、安全に地上に帰還することができます。
宇宙船とドッキングポートの気密が保たれていれば、どこか別の場所に空気漏れが起こっていることになります。空気圧の低下スピードにもよりますが、小さな空気漏れで十分な時間があると判断されれば、今度は、宇宙ステーションを安全化するために、空気漏れの場所を探す手順に入ります。
手順は極めて単純で、宇宙ステーションを二分するように、前半分のアメリカ管理区画と後ろ半分のロシア管理区画との間にあるハッチを閉めて、どちら側の気圧が低下するか確認を行います。
ここで、例えば、アメリカ側で気圧が下がっているケースだと、日本の「きぼう」やヨーロッパの「コロンバス」といったモジュールのある前側と、その後方に位置するNASAの「USラボ」との間のハッチを閉めて、どちら側に空気漏れが起こっているか、さらに確認・・・と、順番に一つずつハッチを閉めて、空気漏れの起こっているモジュール(部屋)を探していくのです。
ここで大切なのは、常にソユーズ宇宙船への避難経路を確保しておくということ。閉めるハッチのどちら側にいるべきか、常に考えておかないと、空気漏れを起こしたモジュールの中に取り残されてしまったら大変です!
異常事態でも、焦ったり、パニックにならず、論理的に正しい行動をするには十分な訓練が必要です。
また宇宙飛行士同士でもダブルチェックをしながら、次にどのハッチを閉めるか、ハッチのどちら側に空気漏れがあるか、空気漏れの場所を引き続き捜索するのに安全と言える十分な時間があるのかなどを確認し合いながら行動します。
空気漏れを起こしているモジュールが特定されれば、まずは一安心。その区画のハッチを閉めて隔離してしまえば、宇宙ステーションの安全は保たれます。
空気漏れの量が極めて少なく、十分な余裕があると判断されれば、今度はさらにモジュール内で穴の開いた場所を探すことになります。
宇宙ステーションには、空気の流れる音(超音波)を検知する精密なポータブル集音機があります。ヘッドセットをつけて集音機を色々な方向に向けると、もし空気の流れを感知したときに、ピーピーピーと人に聞こえる音として検知してくれるのです。かなりの好感度で、目に見えないほどのスキマでも、実験機器や棚のウラであっても、空気の流れを見つけることができます。
空気漏れを起こしている場所を特定できれば、しめたものです。
空気漏れは、必ずしもはっきりとした「穴」が原因であるわけではなく、ときには真空に通じるバルブや窓の部品の継ぎ目などで起こる可能性もありますので、軌道上にはさまざまな補修キットや替えの部品などが備えられています。
万が一、補修がきかずに空気漏れを止められない場合でも、ハッチを閉めてモジュールを隔離すれば大丈夫、最悪でもソユーズ宇宙船に乗り込んで緊急帰還もできる・・・と、空気漏れの場所を特定するまでの過程で、何段階にも安全を確保できる条件が確認できていますので、落ち着いて、補修作業に集中することができます。
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