このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。
<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。
2017年11月24日
脱軌道噴射を終えて、地球周回軌道を離れたら、いやおうなく地球に帰還するしかありません。今日のシミュレーション訓練では、これまでに制御コンピュータやメイン・エンジンに不具合がありましたが、予定された時間に予定された推力の噴射を行うことができましたので、予定通りの着陸地点に降りることができます。
「じゃあ、着陸に向けてコマンドを入力していこう」
シュカプレロフ船長と、船長補佐役のティングル飛行士が、丁寧に手順書を1行ずつチェックしながらコマンドを入力していきます。本来なら制御コンピュータが自動的に行ってくれる作業ですが、今日は手入力をしていかないといけません。
ソユーズ宇宙船の右席には操作パネルはなく、右席のわたしができることは、船長と船長補佐(左席)の進めるステップを手順書で追いながら、抜けがないか確認することです。
「もうすぐカプセル分離時間!」
コマンド入力している2人に注意喚起をします。
だいぶ以前にご紹介しましたが(コチラ)、ソユーズ宇宙船は、「居住モジュール」、「帰還モジュール」、「推進モジュール」と、3つのお団子がつながったような構造をしていて、地球に帰還する直前に分離して、宇宙飛行士の乗った「帰還モジュール」だけが地上まで戻ってくる仕組みになっています(他のモジュールは燃え尽きてしまいます)。
「・・・分離なし。よしスコット、手動で分離コマンド入力」
「了解!」
ティングル飛行士がボタンを押すと、「居住モジュール」・「推進モジュール」が切り離されたことを示す表示が現れました。これも制御コンピュータが故障してしまったせいで、手動での分離も想定通りです。
「よし、じゃあ忘れずに酸素バルブを開けよう」
おっと、こっちはすっかり忘れてました。ありがとう、スコット!
シミュレーション訓練が始まってすぐに酸素漏れが見つかって、バルブを閉めていたのでした。酸素リークのスピードは遅かったので、今からバルブを開けるなら地上に到着するまで酸素量に十分な余裕があります。
「酸素バルブ開けた」
冷静を装って船長に報告します。ちなみに、ソユーズ船内の会話はフライトレコーダーにすべて記録されています。たとえ地上管制センターと通信がつながっていない時間帯でも、「いつ、何が起こって、どのように対処したか」をマイクを通して報告し、きちんと記録しておく必要があります。
「もうすぐ大気圏に突入するぞ」
モニターの数字を注意深く見守っていた船長が声を上げました。
すぐにシミュレーターの窓の外に設置してあるテレビスクリーンが火花を散らすような画像に切り替わりました。(芸が細かいです)
「今日もプラズマがきれいだなぁ」
ここまでくると、あまりやることもなく、ティングル飛行士ものんきに軽口を言い始めました。
「帰還モジュール」の底には「ヒートシールド」というものが取り付けらていて、大気圏突入時の摩擦熱から「帰還モジュール」とその中の宇宙飛行士を守ってくれるのです。
空気の抵抗が大きくなってくるにつれて、だんだん加速度がかかり、場合によりますが3G(体重の3倍)くらいの加重がかかります。実際には軽口を叩く余裕などないかもしれません。長期宇宙滞在で無重力に慣れた体への最初の洗礼、地球からの歓迎(?)です。
「パラシュート開傘、予定時刻まで、あと1分になった!舌を噛むなよ!」
船長が注意を喚起して、しばらくすると、パラシュートが開いたことを示すランプが点灯しました。
「パラシュート開傘!」
シミュレーターでは衝撃まで模擬してくれませんが、空からすごいスピードで落下中の「帰還モジュール」からパラシュートが飛び出すと、急にガクンと衝撃があり、その後は、ぐるんぐるんグラングラ〜ン・・・とジェットコースターのようなすごい回転が待っているのだとか。
ようやく地球に帰ってきたという安心感もあり、経験者はこの揺れが大変楽しいものだと言います。
「クルーの健康状態に異常なし。レスキューチーム、応答せよ」
「こちらレスキューチーム、帰還モジュールを視認している。現在の高度4000メートル」
船長の無線交信に対し、レスキューチーム役になって教官が答えてくれます。
「予定通り、船内の気圧が低下した。モニターの高度計、現在3500メートル」
宇宙空間にいるときには宇宙船の内部の圧力は1気圧。外の宇宙はもちろん0気圧で、内側の圧力がが高い分には、宇宙船はとても丈夫です。
でも、例えば火災などで船内の空気を抜いて0気圧にして地球に帰ってきた場合、宇宙船内部の気圧は0気圧、外の(地表の)気圧は1気圧となります。「帰還モジュール」は、このような、船外の方が圧力が高くなり過ぎる状態に耐える構造にはなっていませんので、人間が呼吸しても大丈夫な高度(でも外気圧がまだ低い状態)で、機械仕掛けのバルブが開いてカプセルの内外の気圧を一定にする機能がついているのです。
このバルブがきちんと作動したことを報告するのも船長の大事な仕事です。
「クルーの健康状態に異常なし。モニターの高度計、現在2500メートル」
船長が繰り返し報告を行う間に、毎秒10メートル以上の結構なスピードで高度はどんどん下がっていきます。
「肩と膝のストラップを締めろ」
船長の指示で肩と膝のストラップを締め上げます。
着陸時の衝撃でケガをしないためには、しっかりと座席に頭・首・背中・腰を密着させておかないといけないのです。
無重力でどんなにきつく座席ベルトを締めていても、締めきれるものではありませんので、着陸の前に最終的にストラップやベルトをピッチリと締めるのです。
「あと100メートル、もう口を開くな」
船長の注意から数秒後、
「ゴ〜〜〜」というサウンドエフェクト(芸が細かいです)とともに、「着陸」のランプが点灯しました。
実際には、「軟着陸システム」という、着陸用の小さなエンジンを噴射して着陸時の衝撃を緩和してくれるシステムが作動してくれるので、宇宙飛行士は安全に着陸することができるのです。・・・それでも着陸時の衝撃は、交通事故で車がクラッシュしたような感じ、というのが経験者の話ですが。
ともあれ、今日もこれで無事にシミュレーション訓練が終了です。
今回が、最終試験前の最後の訓練。来週には、いよいよ最終試験です。
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約 |