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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

無重力、体感

2018年8月14日

先週は、地球に帰還してから、重力環境に再適応するのが、いかにしんどかったかをご紹介しましたが、宇宙に行ったときには、宇宙酔いもほとんどなく、すぐに微小重力環境に慣れることができたので、「帰るときも、きっと同じように大丈夫だろう」と、甘く見ていたのが原因だったかもしれません。

上下左右の感覚がなくなることによる宇宙酔いや、体液シフトにともなう顔のむくみなど、どれほど不快な症状だろうか?...と心配しきりでしたが、航空宇宙医師(フライトサージャン)に出してもらった酔い止めを内服すれば気持ち悪くなることも少ないですし、体液シフトの「頭に血が上ったような症状」といっても、逆立ちをしたときほどには辛いものではなく、すこし顔がふっくらして、鼻声になる程度のものでしたので、ほとんど気になりませんでした。(人によって症状の出方は異なるハズなので、わたしは症状が特に軽い部類だった可能性はありますが)

宇宙ステーションに到着して、翌日からすぐに山ほどの仕事を申し付けられ大変ではありましたが、体調も良好で、フワフワと体やモノが浮く環境を楽しむことができました。
地上で例えるのは難しいのですが、ダイビングや素潜りをして、水中でフワフワと漂う感覚が一番近いような気がします。水中と違って水の抵抗がありませんので、手や足で体を押すことで魚のように素早く移動することができます。

モノがフワフワと浮いて重さを感じないということは、自分の体の重さも感じないということです。
例えば、居合道のワザのように横一文字に手刀で切り払うような動作をすると、目を開けていれば視覚で補正されて、真横に手を払うことはできるのですが、面白いことに、目を閉じると斜め上に切り上がる形となってしまいました。
さらに興味深いのは、宇宙滞在を始めて1ヶ月ほど経過すると、「自分の腕の重さを感じない状態」が体の感覚の新しい基準となり、目を閉じていても、自然に真横に手を振ることができるようになったことです。
人間の感覚の適応力はすごいと、感心してしまいました。

武道のお稽古をしていると、おへその下にある「丹田(たんでん)」を中心に、立ったり歩いたり、動くことを習いますが、無重力環境で、手や足で体を押して移動する際には、体の重心が胸の真ん中(両肩を結んだ線の真ん中)にあって、そこを中心に体が動くような感覚がありました。
宇宙で生活すると、体を動かすための重心が頭の方に移動するんだなぁ...と、面白く感じていたのですが、これも宇宙生活を始めて4ヶ月くらい、かなり長い時間が経ってから、地上にいるときと同じようにおへそのやや下あたりに重心を置いて、かなり自在に動けるようになっていることに気づきました。
振り返ってみると、宇宙に到着したばかりの頃、胸の真ん中あたりに重心を置いて動いていたときには、効率的な体の動かし方はできておらず、はたから見ると、ぎこちない、たどたどしい動きであったかもしれません。

ところで、無重力環境では、自由に宙返りできそうに思えるかもしれませんが、実は、自分のいる位置を変えずに、その場でクルっと回転するのは、テクニックが必要です(回転するときに、つい床を蹴ってしまって、体が浮かび上がってしまいます)。
でも、ミッションも後半になって、いつの間にか地上にいたときとほぼ変わらない重心で、自在に動けるようになった頃には、地上との交信イベントなどで、自信をもって宙返りをご披露できるようなった気がします。



 
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