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2017年10月30日
製造業や建設業など、危険を伴う業種では、「安全第一」という標語を掲げて注意喚起を図っていますが、有人宇宙開発の現場ほど、これを徹底しているところはないのではないかと感じます。
宇宙飛行士の訓練を受けるようになってから、もう8年になりますが、訓練を始めるにあたって、建物の緊急避難経路の確認、足場の悪い場所の注意喚起、階段を使う際に手すりを利用する注意など、基本的な安全確認がおろそかにされたことは一度たりともなく、その徹底ぶりに、いつも感心しています。
この「安全第一」の考え方は、ミッション中でも変わりありません。
想定していない不具合や事故が発生した場合に、第一に確保すべきは、クルー(宇宙飛行士)の安全で、その後に宇宙船(宇宙ステーション)の保全を考え、最後に、ミッション(宇宙実験)の保護を行います。この優先順位が入れ替わることはありません。
例えば、「宇宙飛行士が命がけで、火災を起こしたモジュールの中から実験サンプルを回収する」というと、映画の主人公のようで格好良く聞こえますが、最優先であるはずの身の危険を冒して、優先度の低い宇宙実験を守るというのは本末転倒で、実際にはあり得ません。
その時々で、何が大切なのか、優先順位をつけて適切に行動することは、宇宙飛行士の日ごろの訓練の中でも、特に重要視されています。例えば練習航空機による飛行訓練では、「Aviation(操縦)、Navigation(ナビゲーション)、Communication(コミュニケーション)」と、最初に基本を教わります。
航空機の運航は、操縦をしながら、飛行経路を確認しつつ、地上管制官と交信を同時に行うという「マルチタスク」(いくつもの作業を同時にこなすこと)で、何か一つの作業にばかり気を取られてしまうと、他の作業が疎かになってしまいがちです。管制官の指示が分かりづらく何度も聞き直しているうちに飛行経路のコースや高度が徐々にずれたり、指示されたスピードとは違う速さで飛行してしまうこともありますし、ナビゲーションシステムに飛行経路をインプットしている間に、接近してくる別の飛行機の存在を見逃してしまう可能性もあります。
そこで、致命的なミスを犯さないように、複数の作業を同時に処理するにあたって、絶対的な優先順位をつけて行動するようにします。これが、(1)まず自分の操縦する飛行機のコントロール(Aviation)、(2)続いて飛行経路(Navigation)、(3)最後にコミュニケーション(Communication)という順序なのです。
飛行中は、近くを飛行する他の航空機や障害物の存在など、常にコクピットの外に気を配り、必要となれば、予定している飛行経路を外れても自分の安全を守ることが、まずは第一に重要です。
その次に重要なのが管制官から指示された飛行経路や高度を保つことです。例えば交通量の多い空港での離陸・着陸の際には、長々と管制官とやり取りしている余裕はありませんので、与えられた指示にただちに従うことが必要です。なぜそのような指示があったのか、理由を明確にする必要があれば、それは状況が落ち着いて、後から行うようにします。
このように、日々の訓練を通して、安全を守るための優先順位づけが習い性になっていますので、どの宇宙飛行士や管制官とチームを組んでも、緊急事態においては混乱なく、同じように行動を取ることができるのです。
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