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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

L-19:ロシア区画試験

2017年11月28日

いよいよ本日(11/28)は、打上げに向けた最終試験の初日。まずはロシア区画でのオペレーションに関する試験です。引き続いて、ソユーズ宇宙船に関する試験は2日目の11/29に行われます。なお、バックアップクルーは、初日がソユーズ試験、2日目にロシア区画の試験を行うのがお決まりのパターンです。

ロシア人宇宙飛行士のシュカプレロフ船長は別ですが、NASAのティングル飛行士と日本人のわたしは、ロシアの管理する区画では「ユーザー」という資格で任務を行うことになっています。これは簡単に言うと、「その区画で普通に生活するのはオッケーだけど、保守・点検といったメンテナンス作業や、何か故障や不具合があった場合の修理は担当しない」というレベルです。

われわれ「ユーザー」資格者は、実物大のモックアップ(訓練用のロシア区画の模型で、宇宙飛行士はその中に入って訓練を行います。内部には、管制官(=実際には訓練担当教官)との無線通信など、宇宙ステーションで運用するさまざまな機器が備え付けられています)の中でシミュレーション訓練を行う際に、何らかの不具合に遭遇した場合には、ロシア人クルーに状況を報告し、その指示を仰ぐことが求められます。

ロシア区画の試験は、ソユーズ宇宙船の試験と同じように1日がかりで行われますが、1日フルで作業をするのはロシアのシュカプレロフ船長のみ。ティングル飛行士とわたしは午後から半日だけ合流します。
「ユーザー」のわれわれは、それでは、半日どのような活動をするのでしょうか?

ロシア区画での試験は、一般に「デイリー・オペレーション」と称されるもので、あたかも宇宙ステーションのロシア区画で半日、作業をしながら日常の生活を送るような作業がスケジュールされます。
たとえば、食事をするためにロシアの宇宙食の準備をします。缶詰を温めたり、粉末状のジュースに水を加えて飲める状態に戻したりするには、宇宙食加熱器や給水器の扱いを知っていないといけません。

また、アメリカ側のトイレが故障した際には、ロシアの側のトイレを借りて使うことになりますので、その使い方をマスターしている必要があります。ただし、トイレに何らかの異常があって赤い警告ランプが点灯した場合には、速やかにロシア人のクルーに報告して指示を受けないといけません。
さきほど、「保守・点検などのメンテナンス作業はできない」と書きましたが、トイレからの排泄物を溜める小型タンクの組み立ては「ユーザー」資格者も行うことになっていて、試験中には、こういった作業も割り当てられます。

ちょっと大変なのは、インタビューや地上との交信イベントで、ロシア語での質問やインタビューに、たどたどしいロシア語を駆使して何とか対応しなくてはいけません。あくまで模擬の広報イベントですから、無線の向こうの相手は、本物のジャーナリストや子どもたちではないのですが、それでも緊張で冷汗の出る作業です。

試験の評価を行うコミッション(評価委員)は別室で、モックアップの内部に備え付けられたカメラを使って、われわれが正しい方法で作業を行っているかを厳しくチェックしています。
減点方式で、「トイレを使うときに、蓋を閉める前にファンのスイッチを切ったのは手順を間違っているので−10ポイント」とか、「無線交信をするときにヘッドセットをきちんと頭に被らずに、手に持ったまま通話したのは正しい使い方ではないので−5ポイント」などと、かなり細かいところまで見られるので、受験生の立場としては気を使います。

一日がかりの最終試験のクラマックスは、必ず緊急事態(火災・緊急減圧、アンモニア漏れ)が発生するのが定番です。
・・・といっても、緊急事態対処に関しては、最終試験とは別に、ヒューストンおよび星の街で大きな「最終訓練」済ませていますので、ロシア区画の最終試験は、定められた手順を問題なくこなせることの確認に過ぎません。

結局のところ、「宇宙食を準備する機材の使い方」、「ロシアのトイレの使い方」、「無線での交信方法」、「緊急事態の対処法」などとといった、宇宙滞在を行う上での基本事項について、きちんとマスターしていることを、試験評価委員の前で実演して見せるというのが最終試験の目的です。
ソユーズ宇宙船の試験と合わせて2日間に渡る最終試験を経て、これから宇宙に向けて打ち上がるというクルーの技量を確認できると、コミッションから、「打上げに向けてクルーの準備は整っている」との正式な声明が発表され、いよいよバイコヌール宇宙基地に旅立つことになるのです。



 
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