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2017年11月23日
かなり前にご紹介しましたが(コチラ)、宇宙ステーションを離れたソユーズ宇宙船は、飛行方向(進行方向)にメイン・エンジンを向けるような姿勢をとり、スピードを落とすようにエンジン噴射を行うことで地球に戻ってきます。
予定されている帰還地点に着陸するのに、周回軌道上の、どのタイミングで、どのくらいの時間、エンジン噴射が必要かどうかは事前に計算されて、制御コンピュータにインプットされています。
「時間通りにソユーズ宇宙船の姿勢制御が完了した」
シュカプレロフ船長が、モスクワの管制センターに報告します。
今日のシミュレーション訓練は、ここまで、不具合らしい不具合がなくて、逆にちょっと寂しい気がします。
「メイン・エンジン噴射、時間通りに開始」
船長の報告通り、メイン・エンジンの点火を示すランプが点灯し、ヘッドセットから「ゴ〜〜〜」というサウンドエフェクトが聞こえてきます。(芸が細かいです)
「エンジン・システム、すべて正常」
船長補佐役のティングル飛行士が冷静にエンジン・システムのデータを監視しています。
「30秒経過、推力に問題なし」
「エンジン・システム、すべて正常」
「1分経過、推力に問題なし」
「エンジン・システム、すべて正常」
船長と、船長補佐役が、交互に報告を行っていると、「ピーーー」という警告音が鳴り響き、赤い警告メッセージがパネルに表示されます。
「制御コンピュータの故障!」
ティングル飛行士の報告に、シュカプレロフ船長が落ち着いて応じます。
「補助コンピュータに自動的に切り替わるはずだ。よし、メイン・エンジンは変わらず噴射してるな。その他の機器も正常に働いていることを、手順書に沿ってチェックしよう」
「了解。その他の機器もすべて正常。エンジン・システムも、引き続き、すべて正常」
シュカプレロフ飛行士とティングル飛行士は、バックアップクルーとしても一緒にペアを組んで訓練を続けてきているので、息はぴったりです。
「4分経過、推力に問題なし」
「エンジン・システム、すべて正常」
予定されているメイン・エンジンの噴射時間は、4分41分。もう少しで噴射終了というところで、ティングル飛行士が鋭く声を上げました。
「エンジンシステムの圧が下がってきている!」
「そら来たぞ。もうすぐメイン・エンジンが止まるぞ」
船長の声と同時に、再び「ピーーー」という警告音。
「スコット、メイン・エンジンの停止コマンドを打て。制御コンピュータが故障しているから、手動制御で補助エンジンに切り替える。手動制御に切り替えろ」
「メイン・エンジン停止コマンドを入力。手動制御に切り替える・・・よし、切り替えた!」
「補助をエンジン点火しろ」
「了解、補助エンジン点火・・・完了!」
船長の指示に従って、リズム良く、ティングル飛行士がコマンドを入力していきます。
メイン・エンジンで予定通りに宇宙船のスピードを落としきれなかったので、小さな推力の補助エンジンを使って脱軌道噴射を完了させるのです。エンジンのパワーが小さいので、メインエンジンを使うよりもだいぶ時間がかかります。
「じゃあ、補助エンジンの噴射が終わる時刻を計算しようか」
船長の言葉に、クルー3人でチャートを使って、補助エンジンの停止予定時刻を計算します。制御コンピュータが故障してしまったので、手順書に付いている図表を使って手計算です。
「よーし、補助エンジンの停止時刻を求めたぞ。大気圏に突入するまで十分な時間があるから、このままノミナル(正常)の帰還の手順の継続でいいんだよな?」
船長の言葉に、それぞれ別々に同じ手計算を終えたティングル飛行士とわたしが、うなずいて同意を示します。
「オッケー、それじゃあスコット、補助エンジン停止のコマンドをよろしく。・・・5秒前、4、3、2、1、エンジン停止!」
「補助エンジン停止・・・完了!」
脱軌道噴射を終えて、これで地球を周回する軌道を外れて地球に帰還することができます。
あとは、大気圏に突入して着陸するような宇宙船の準備。通常ならば制御コンピュータで全自動・・・のハズですが、今回はコンピュータの故障があったのですべて手入力していかないといけません。
山場とも言える「脱軌道噴射」が終わっても、シミュレーション訓練は続きます。
(続く)
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