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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

ソユーズ軌道滞在(衣食住)

2017年12月30日

12月17日にソユーズ・ロケットで打ち上げられて、19日に宇宙ステーションに到着するまで二晩を宇宙船の中で過ごしましたが、特別に狭いとは感じませんでした。いや、確かに帰還モジュール(操縦室)は宇宙服に身を包んだ3人のクルーの肩と肩が触れ合うような座席配置ですし、居住モジュールも、貨物を搭載していることもあり、大人3人が入れば一杯になってしまいます。でも無重力のおかげで天井や壁も、まるで床のように使うことができるので、生活する上で、作業空間という観点での不便はありません。

むしろ、無重力空間では上下左右の感覚がなくなり目が回って気持ち悪くなる(宇宙酔いといわれます)ものですが、いきなり宇宙ステーションのような大きな空間で生活するよりは、狭くてどこにでも手が届くようなソユーズ宇宙船の内部で、しばらく体を慣らすことができて良かったように思います。

打上げ当日、宇宙船のシステムに異常がないことを確認して第1回目の軌道噴射を行った後は、軌道モジュールに移動して休憩です。座席のベルトを外すと、フワフワ浮き上がってビックリしました。文字通り、地に足がつかない、どうにも収まりの悪い感覚です。

スキューバ・ダイビングをしたことがある方は、初心の頃に、浮力の調整に失敗して体が浮き上がってしまいアタフタした経験があるのではないかと想像しますが、まさにあんな感じです。ただ水の中と違うのは、水のような抵抗がないので手足をバタバタしても体を安定させるのには何の役に立たないことです(本能的にバタバタしてしまいますが)。

狭くてどこにでも手が届く宇宙船の船内は、無重力での体の動かし方を練習するにはもってこいの環境でした。

宇宙服をぬいだら、まずはお手洗い。ファンを回して空気の流れを作り、ホースの先についた円錐型の吸い込み口に向かって行います。訓練通りにできました。意外と簡単です。空気で吸い取り切れないしずくが、表面張力でスライムのように体に付いたままなのに無重力を実感させられました。体に残った水分は、ティッシュペーパーで拭き取るのが、宇宙トイレのお作法です。

さてそのあとは、お待ちかねの食事です。朝に軽食をとっただけなので、腹ペコです。「腹が減っては戦(いくさ)はできぬ」と言いますが、シュカプレロフ船長はいつも英語で「Hungry Astronaut is Angry Astronaut, it's no good」とダジャレを飛ばします。

宇宙船の中にはドライフリーズ食品を戻す給湯器も、宇宙食を温めるヒーターもありませんので、そのまま食べれる缶詰と紙パックのジュースが夕食です。ロシアの宇宙食は、宇宙ステーションに到着してからも缶詰の食品が多いような印象ですが、お肉でも魚でも、どれも日本人の舌には美味しく感じます。

ジュースを飲むときには、初めは、逆立ちをしながら飲むような変な感じがして、飲み込んだ液体が、なかなか食道を下りていかないような気がしましたが、すぐに気にならなくなりました。打上げから数時間で、どんどん新しい環境に適応していく人間の体の調整力って、本当にスゴイと思います。

食事タイムが終わると、シュカプレロフ船長が、ゴソゴソと貨物の中から寝袋を取り出してくれました。次の軌道修正エンジン噴射まで仮眠をとります(ちなみに、ソユーズ宇宙船の中で使った寝袋は、宇宙ステーションに到着後は自分の寝室に持ち込んで半年間の宇宙滞在の寝床となります)。

エンジン噴射とエンジン噴射の間の待機時間は、ソユーズ宇宙船は左右舷に広げた太陽パネルにできる限り日の光が当たるようにソーラー・スピンという回転運動を行います。このときの回転方法が意外で、居住モジュールと帰還モジュールのつなぎ目くらいのところを中心に、船体がぐるぐると回ります(言葉で説明するのは難しいですが、下手なイラストを添付します)。

(出典:JAXA)

油井・大西の両画伯や、W大地のイラストにはだいぶ劣ります・・・


回転の外側に頭を向けると、遠心力で頭のほうに血が上って頭痛がしたり顔がむくんだりしやすくなるので、ティングル飛行士とわたしは寝袋は居住モジュールの天井から釣り下がるように吊り下げて、回転中心に頭を向けるようにして設置しました。船長の寝袋は、帰還モジュールの船長席に立つような恰好です。

なんだかコウモリやミノムシみたいなスタイルですね。打上げ翌日には、第2回目の軌道修正エンジン噴射を行い、モスクワの地上管制センターと情報のやり取りをしたのみで、再び長い待機時間。

2日間(36周回)ランデブーというのは、退屈な待ち時間が多いということを実感しました。



 
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