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2017年11月13日
山ほどの実験機材と貨物を積んで、シグナス補給船が国際宇宙ステーションに向かって打ち上がりましたね。
2日後にはランデブーとキャプチャー(宇宙飛行士がカナダアーム2を使って宇宙船を捕まえるオペレーション)があり、その後、補給船がドッキングした後は、荷物の積み下ろしやら、新しい実験やらで、軌道上は大忙しとなることでしょう。
このシグナス補給船は、オービタルATK社という米国民間企業が開発し、運用を行っている民間宇宙船です。
一般の民間企業が、独自に宇宙ステーションに宇宙船を定期的に飛ばしてるというのは、何だか日本よりずいぶん進んでいるように感じますね。
JAXAも似たような「こうのとり」という補給船を定期的に宇宙ステーションに送っています。というか、そもそも宇宙ステーションに貨物を送るための補給船として、初めてランデブー&キャプチャーという方式を成功させたのは日本で、「こうのとり」こそ元祖です。後発の民間宇宙船が同じ方式を取ることになったので、以後、宇宙ステーションにおける標準方式となったのです。みなさま、よく覚えておいてください。
宇宙ステーションのロボットアームに把持された「こうのとり6号機」
さて、「こうのとり」の良いところは、「与圧部」と呼ばれる宇宙飛行士の入室する区画と、「曝露パレット」と呼ばれる、船外に取り付ける実験機器を積む区画とがあることです。
特に、「与圧部」の径が大きく、宇宙ステーション標準規格の「ラック」を積むことができる唯一の補給船なのです。つまり、新しい実験ラックを持って行ったり、古くなって不要になった実験ラックを廃棄するには、「こうのとり」を利用するしかありません。
「曝露パレット」で運ぶのは、船外に取り付ける実験機器だけではありません。宇宙ステーションの運用が少なくとも2024年まで継続されることが決まり、太陽電池で作った電力を一時的に蓄える蓄電池(バッテリー)を新しいものに交換するという数年がかりの大プロジェクトが始まっていますが、このバッテリーを輸送できるのも「こうのとり」だけなのです。
宇宙ステーションを続けていく上で、「こうのとり」しか運べないものが多く、モテモテなのは良いのですが、おかげで、今のデザインから大きく仕様を変更したり、新しい宇宙船を開発しにくいところが難しいところです。
しかし、こんな優れものの「こうのとり」ができない大きな仕事が一つあります。それは、宇宙ステーションで行った科学実験などの成果(サンプル)を「地上に持ち帰る」ことです。
「こうのとり」もシグナス宇宙船と同じように、宇宙ステーションに必要な物資を届けた後は、不要となった廃棄物を山ほど積んで大気圏に投入し、燃え尽きます。
一方、スペースX社の運用しているドラゴン補給船は、回収型カプセルで、宇宙飛行士が搭乗するソユーズ宇宙船のようにパラシュートで地上まで戻ってくることができるのです。
JAXAが行っているマウス飼育ミッションでは、世界で初めて生きたままの全てのサンプルを回収することに成功しましたが、それも、このドラゴン補給船の「貨物回収機能」のおかげなのです。
ドラゴン補給船は、打ち上がるときには、曝露区画に、船外に取り付ける実験機器を積んで行くこともできちゃいますので、やや小さいですが、何でもできるオールマイティーな宇宙船です。
ちなみに、このスペースX社も米国の民間企業です。宇宙船の打上げに使ったロケットの1段目をランチパッドに戻して再利用をしたり、この「貨物回収機能」をさらに高性能化して、宇宙飛行士が宇宙ステーションに行き帰りするための有人宇宙船の開発を急ピッチで行っていることでも有名ですね。
社長のイーロン・マスク氏は、自社の宇宙船やロケットを使った火星探査や宇宙移民構想など、とてもスケールの大きなビジョンを掲げて、すごいスピードで技術革新を進めています。
以上、3種類、それぞれの特色のある補給船ですが、われわれ宇宙飛行士の一番の腕の見せ所は、「キャプチャー」の部分です。つまり、カナダアーム2という、宇宙ステーションのロボットアーム(「きぼう」のロボットアームは使いません)を使って、宇宙ステーション近傍10メートルの距離にピタッと静止する宇宙船のグラップル・シャフトという把持部分を、アーム先端のスネア機構を使って掴むのです。
秒速約8キロメートルで並走する宇宙ステーションから補給船をキャプチャーするのは、例えてみれば、高速で並走する2台の車の窓から体を伸ばして、隣の車の窓から手を伸ばす相手の腕をがっつり掴んで、こちらの車に乗り込ませるような感じでしょうか。まるで映画のいちシーンですが、まさにそんな緊張のオペレーションです。
「きぼう・ロボットアーム」に限らず、「カナダアーム2」の運用も、そのほとんどは地上の管制官による遠隔運用となっていますが、この「キャプチャー」だけは、軌道上にいる宇宙飛行士の目と手でしか行うことのできない職人のワザなのです。
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