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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

2016年8月 9日

19日の船外活動に向けて準備の進むエアロック。宇宙服に取り付ける、緊急用の小型スラスター装置「SAFER(セイファー)」の取り換えを今日実施しました。


8/8

昨日の夜11時過ぎ、眠る前にトイレに行っておこうと思い自分の個室スペースを出ると、左手の「コロンバス」モジュールから明かりがもれているのに気付きました。
ジェフがいつも眠る前に各モジュールの電気を消しているのですが、消し忘れかなと思って覗いてみると、中にアナトーリがいました。

ヘッドフォンで何か聞きながら、手を空中で動かしていました。
(きっと明日の私の採血のサポートをする際の手順を確認しているに違いない)と思って、その場をそっと離れました。
よくパイロットもイメージフライトというのをやりますが、頭の中で手順を流しながら、ここでこういう動きをする、というのを実際に手を動かして、手に覚えこませるというものです。

彼が並外れた勉強家で努力家だというのは、ソユーズの訓練を通して知っていましたが、こうして夜中に人知れず1人で練習しているのは彼らしいなと、彼の責任感にちょっとした感動を覚えました。

翌日、目を覚ましてからは、「Fluid Shift(体液シフト)」研究の各種サンプル取りが始まりました。
まずは唾液、そして尿。
次にチューブ1本の採血だったのですが、アナトーリに手間をかける前に自分でやってしまおうと、自己採血開始。
前回自分でやろうとして失敗して、結局ケイトとジェフを巻き込んで4本針を刺して採血した苦い記憶が蘇ります。
どちらの腕に刺そうかとしばし悩んだ後、前回最終的にジェフが採血に成功した左腕の太い血管に決定。
私の血管は基本的にどれも非常に見えやすく、採血する側からすれば簡単なほうなのですが、その中でもいわば「エース」と言っても良い血管です。
「エース」は期待通りの働きで、見事に一発で成功(^^)v

続いて、トレーサーという特殊な液体を飲みます。
味は塩水のような味です。
これを飲んだ時間を秒単位で記録して、そこから3時間、5時間経ったところで再びサンプルを取ります。
そのサンプルの中にトレーサーの成分がどれくらい残っているかを調べることで、体液が体の中でどのように動いているかと知ろうというものです。

その間の尿は全てサンプリングするので、体外に排出されるトレーサーを時間経過で追うことができます。
トレーサー摂取3時間後に再度唾液と血液を取るのですが、それは20分間という限られた時間の中で行う必要があります。
これはかなりのプレッシャーです。

初回にいきなり「エース」を投入してしまったことを悔やみつつ、とりあえず腕を右腕に替えて3時間経過した瞬間を狙って採血開始。
「えいやっ」と針を刺したもののフラッシュ(針に血が入ってくること)がこず、しばらく針を皮膚の下で動かしてみるものの、その甲斐なく断念。
1本ミスると一気に緊張度が増してきます。
ここまで5分少々。
あと2回か3回のトライしかありません。
と、そこへアナトーリがやって来ました。
一瞬彼に頼もうか、という考えが頭をよぎりましたが、先週金曜に交わした会話もあり、彼も自信はないに違いないと、自分でやることを決断。

「もう一回やってみる。それでもダメだったら、お願いするね」

と、失敗した場合に備えて予め用意していた2セット目の針を使って、今度はまた左腕に戻って再トライ。
「エース」以外にも頼もしい血管が2本あります。
が、先ほどと同じでフラッシュが来ません。
ま、まずいっ(゜ε゜ )
微妙に血管の位置を外しているのでしょうか。
腕時計を見ると、既に10分以上経過しています。
このペースでいくと、残りのチャンスはあと1回・・・(; ・`д・´)ゴクリ
しかも、唾液の採取もしなければなりません。
これはスワブを4分以上口に含んでいないといけません。
藁にもすがる思いで、

「アナトーリ、お願い!次やってもらっていい?準備してて!」

と言うと、

「そのためにおれはここにいる」

とかっこいい一言。
私は自分の個室から唾液サンプル用のキットを取ってきて、並行して唾液の採取開始。
その間にアナトーリはテキパキと採血の準備。
手順書を時折確認しながらですが、動きに無駄がなく、落ち着いています。

私はどの血管に刺してもらおうかと思案。
右腕に1枚、左腕に2枚絆創膏が貼られています。
ここは右腕か。
一瞬迷いましたが、出した結論は「エース」の再登板ww
やはりこのピンチを切り抜けるにはコイツしかいない。
絆創膏をはがすと、朝イチの採血痕が。
そこより少し上流の方に刺してもらうようアナトーリにお願いしました。
アナトーリ、多分緊張していたに違いないのですが、表情にも出さず、

「こないだ話した、オレグの採血のときの話な。45分かかって最終的に成功させたのはおれだ」

と言って、針をぷすり。
いやー、この時ばかりはドキドキして刺すとこ見れませんでした、私も。
とにかく、頼む!と念じながら。
やがて。

「成功だ」 と、にっこりアナトーリが笑いました。
この時ばかりは、アナトーリが神様に見えましたよ。
ここぞというときに、しっかりと決める男、さすがです。

という、結局今日も針を4本刺したというお話でした。



 
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