トピックス
油井亀美也宇宙飛行士最新状況
遠心加速器を使用したソユーズ宇宙船のマニュアル操作での帰還訓練(出典:油井宇宙飛行士のツイッターより)
ISSで各種実験を行うため、運動能力、バランス能力等基礎データを測定(出典:油井宇宙飛行士のツイッターより)
第44次/第45次長期滞在クルーの油井亀美也宇宙飛行士の訓練も最終仕上げの段階にきています。4月最初の週は米国のNASAジョンソン宇宙センター(JSC)で米国最後の訓練を行い、2週目は欧州宇宙機関(ESA)にて、筋萎縮抵抗研究・運動システム(MARES)などの訓練を行いました。MARESは、国際宇宙ステーション(ISS)の「コロンバス」(欧州実験棟)に設置されている装置で、筋肉・骨格組織に関する微小重力環境での人間生理学研究に使用されます。
3週目からはロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(GCTC)にてソユーズ宇宙船、ISSロシアモジュールに関する最終的な訓練を行っています。
今後各種試験や最終評価試験、記者会見、伝統的なセレモニーを行った後、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地へ移動する予定です。
大西卓哉宇宙飛行士最新状況
「きぼう」の訓練用モックアップ内でシステムの復習訓練を行う大西宇宙飛行士(出典:大西宇宙飛行士のGoogle+より)
第48次/第49次長期滞在クルーの大西卓哉宇宙飛行士は、一時帰国し、「きぼう」日本実験棟のシステムの復習訓練、そして4月18日の筑波宇宙センター特別公開で講演を行いました。講演ではソユーズ宇宙船を中心に、ISSへ行ってから帰るまでの流れについて紹介しました。狭い船内の様子や、着地直前に衝撃緩和用固体ロケットモータを噴射する様子などに来場者は興味深く見入っていました。質問コーナでは、宇宙へ行ったら何をしたいか、今どんな訓練を行っているのか、ISSの次はどこへ行きたいかなど、次々と質問が寄せられ、質問者の目の前で丁寧に答えました。
特別公開にて講演を行う大西宇宙飛行士
質問コーナでは、自らマイクランナーとなり、来場者と触れ合いました。
今月のきぼう
「きぼう」船内実験室運用開始から2512日経過しました
線虫を使用したライフサイエンス実験2テーマを開始しました
線虫を培養する仕組み
蛍光タンパク質で可視化された線虫の筋繊維(提供:東北大学)
4月18日、線虫をISSまで運び 「きぼう」日本実験棟で培養するライフサイエンス実験がふたつ開始されました。線虫は、実験に適した性質をもつことからモデル生物として広く利用されており、線虫の機能する遺伝子のうち約70%はヒトと同じであることもわかっています。これまでにも線虫を使ったISSでの実験は複数回行われており、今回の実験は過去の実験の結果をふまえ、さらに発展させる実験です。
ひとつめの実験である「宇宙環境における線虫の老化研究」(Space Aging)は、これまでISSに滞在した線虫の体内で不活性になった7遺伝子について、これらの遺伝子を働かなくさせた地上の線虫の寿命が通常の線虫よりも長くなったという実験結果をもとに、実際に微小重力下での線虫の寿命を計測します。卵を産めないように制御した線虫をISSへ運び、最大70日間観察します。なお、同じく制御された線虫の地上での寿命は約50日です。
宇宙での筋萎縮を調べる「線虫Cエレガンスを用いた微小重力による筋繊維変化の解析」(Nematode Muscles)は、ISSで培養される線虫の細胞を地上から観察して、微小重力環境下での筋繊維や細胞骨格の変化を確認します。それらの変化には、環境などの情報を伝達するシグナル伝達の経路が関与するのかも調べます。これまでの線虫を使用した実験の結果もふまえ、「微小重力がひとつひとつの細胞レベルで影響を及ぼし、個々の筋細胞において筋肉タンパク質の発現が抑制され、最終的に萎縮に至る」という仮説を検証します。
ふたつの実験はともに観察のためのカメラを備えた線虫観察用供試体の中にセットされます。細胞培養装置の微小重力区画と模擬重力を付加できる回転テーブルのついた区画でそれぞれ20℃で培養されます。実験の成果は、老化に伴って起こる病気を予防するゲノム創薬やヒトのロコモティブ症候群(運動器の衰えなどにより要介護になるリスクが高まる状態になること)の研究に役立つと期待されます。
今月の国際宇宙ステーション(ISS)
最初のISS構成要素打上げから5997日経過しました
第43次長期滞在クルー
テリー・バーツ(NASA)、アントン・シュカプレロフ(ロシア)、サマンサ・クリストフォレッティ(ESA)宇宙飛行士のISS滞在は149日経過しました。スコット・ケリー(NASA)、ミカエル・コニエンコ(ロシア)、ゲナディ・パダルカ(ロシア)宇宙飛行士のISS滞在は25日経過しました。
1年長期滞在ミッション開始
42Sクルーの入室(左:ミカエル・コニエンコ、右:スコット・ケリー)(出典:JAXA/NASA)
ドラゴン補給船運用6号機を搭載したファルコン9ロケットの打上げ(出典:JAXA/NASA/Kim Shiflett )
ISSのロボットアームで把持されるドラゴン補給船運用6号機(出典:JAXA/NASA)
ISSから撮影した発光する大気(米国時間4月11日撮影)(出典:JAXA/NASA)
ゲナディ・パダルカ、スコット・ケリー、ミカエル・コニエンコ宇宙飛行士の3名を乗せたソユーズTMA-16M宇宙船(42S)が、3月28日、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、同日、ISSにドッキングしました。
ケリー、コニエンコ両宇宙飛行士は、およそ1年間ISSに滞在し、主に医学・心理学・生物医学などの分野の研究に被験者として携わります。NASAの実験では、微小重力環境での長期滞在がヒトの脳に影響を及ぼすかどうかを調べるNeuromappingと呼ばれる実験や、微細運動能力の変化を調べるFine Motor Skillsと呼ばれる実験が開始されています。
Neuromappingでは、メンタルローテーション(2次元または3次元の物体を頭の中でイメージして回転させる)、感覚運動やマルチタスクなどの能力をテストし、その変化を記録します。
Fine Motor Skillsでは、タブレットを利用して、タップやドラッグ、図形をなぞるなどの動作を行い、微細運動能力をテストします。
これらの実験の他に、1年間の滞在期間中に、視力の変化に関する実験なども行われます。これまでISSに長期滞在した宇宙飛行士の一部に、視力の変化が認められています。微小重力環境下では、体液が下半身から上半身へ移動する体液シフトが起こります。視力の変化は、体液シフトによって頭蓋内圧が上昇し、視神経乳頭浮腫が発症することで起こると考えられています。
NASAのFluid Shiftsと呼ばれる実験では、下半身から上半身に移動する体液の量を測定し、頭蓋内圧上昇や視力の変化との関連性を調べます。この分野のテーマには、日本の実験も採択されています。「無重力での視力変化等に影響する頭蓋内圧の簡便な評価法の確立(IPVI)」(代表研究者 日本大学 岩崎賢一)では、針などを使用しない非侵襲的な方法で簡単に頭蓋内圧を推定できる手法の確立を目指します。
4月15日には、ドラゴン補給船運用6号機が米国フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。ドラゴン補給船は4月17日にISSに到着し、JAXA関連の実験の試料・機材を含む、2,015kgの物資をISSに届けました。