ISS・きぼうマンスリーニュース第15号
最終更新日:2014年6月25日
トピックス
NASAから日本の研究テーマが表彰される
高高度放電発光現象の発生形態
JEM-GLIMSが収められているポート共有実験装置(MCE)(出典:JAXA/NASA)
NASAは、現地時間6月19日、2013年に行われたISSでの研究のうち、もっとも技術的な達成を成し遂げた研究14件を発表しました。そのうち「新発見による成果」の部門で、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置されているポート共有実験装置(Multi-mission Consolidated Equipment: MCE)に搭載された「スプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(JEM-GLIMS)」での研究が受賞しました。
これは、シカゴで開催された第3回ISS研究開発会議で大学、産業界、政府の研究の中で最も優れた研究実績として選出されたものです。
受賞理由として、JEM-GLIMSによる雷放電の光学と電磁観測により、スプライト(高高度放電発光現象)の位置とスプライトが引き起こす雷放電時の物理的なパラメータの特定を可能にし、地球のオゾン層にスプライトが与える影響についてより定量的に理解できるようになったことが挙げられています。
ISSでもサッカーワールドカップ観戦
ワールドカップ生中継を見るISS長期滞在クルー(出典:JAXA/NASA)
NASAのリード・ワイズマン、スティーブン・スワンソン両宇宙飛行士と、欧州宇宙機関(ESA)のアレクサンダー・ゲルスト宇宙飛行士は、実験の合間に休憩をとって10分程ワールドカップ生中継を見ました。
クルー同士普段は良好な協力関係にありますが、この時は米独で小さな競争を感じたことでしょう。
ISSの中でサッカーを行う長期滞在クルー(出典:JAXA/NASA)
今月のきぼう
「きぼう」船内実験室運用開始から2211日経過しました
「きぼう」で始まる新しい実験
「きぼう」日本実験棟では、物質・物理科学分野の実験のひとつである「その場観察による溶液中のソーレ効果の解明(Soret-Facet)」が開始される予定です。
ソーレ効果とは、熱拡散などとも呼ばれ、混合溶液に温度勾配を与えると(溶液の両端に温度差をつけること)、それによって溶液の成分が移動し、溶液中に濃度勾配が形成される現象のことです。
一般的には、溶液中、濃度の高い成分が低温のほうへ、低い成分が高温のほうへ移動することが多いのですが、地上では熱対流の影響が大きく、高い精度のソーレ係数の測定が行われていません。そこで、熱対流の影響が生じない微小重力環境で、溶液(2種類の液体の混合物)の温度と濃度を高精度で測定し、ソーレ係数を測定します。その結果から、ソーレ係数を予測するための方法を確立することが目的です。
実験は、過去に行ったファセットセル実験で使用した供試体を「きぼう」の溶液結晶化観察装置(Solution Crystallization Observation Facility: SCOF)に入れて行います。そのため、新たに装置を追加することなく実施できます。実験の成果は、地上でのソーレ係数の研究を加速させ、石油など液体の精製プロセスの改良や、半導体などの材料の凝固プロセスの改良に繋がります。
ソーレ効果のイメージ(溶液に温度勾配をかけ一定時間おくと温度差による濃度差が生じる。2種類の混合溶液の場合、溶液の性質によって分布が異なる)
過去の実験で使用した供試体(上:外観、下:内部)
「きぼう」船内実験室の流体実験ラック(赤枠内はSCOF)(出典:JAXA/NASA)
今月の国際宇宙ステーション(ISS)
最初のISS構成要素打上げから5696日経過しました
第40次長期滞在クルー6名体制へ
船外活動を行うオレッグ・アルテミエフ宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
5月29日、マキシム・スライエフ、リード・ワイズマン、アレクサンダー・ゲルスト宇宙飛行士の3名を乗せたソユーズTMA-13M宇宙船(39S)が、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。同日、39SはISSにドッキングし、ISS第40次長期滞在クルーは6名体制となりました。現在、6名のクルーは、さまざまな科学実験や医学実験に取り組んでいます。
6月上旬からは、ISS船外に設置された米国のレーザ光通信実験装置(Optical Payload for Lasercomm Science: OPALS)の試験運用が開始されました。レーザを使用して映像などのデータを地上に伝送する試験が数回に渡り行われています。
6月11日、予期しない事態がISSで起こりました。午前3時37分、クルーから「ズヴェズダ」(ロシアのサービスモジュール)内の機器から煙が出ていることが報告されました。クルーはすぐに地上の管制官と協力しながら緊急時の対応手順に従って煙の除去作業や原因究明作業にあたりました。煙の発生元となった飲料水供給装置の故障したヒータは交換され、ISSの運用を脅かす問題には発展しませんでした。
6月19日には、ロシアの船外活動が7時間23分に渡って実施されました。この船外活動は、アレクサンダー・スクボルソフ、オレッグ・アルテミエフ両宇宙飛行士が担当し、通信用のアンテナの設置や、プラズマと磁場を観測するロシアの実験装置の移設、ズヴェズダの窓から付着物をサンプリングする作業などが行われました。
一方地上では、米国バージニア州のNASAワロップス飛行施設で、シグナス補給船の打上げに向けた準備が進められています。ISSへの補給物資を搭載したシグナス補給船は、米国時間7月10日以降に打ち上げられる予定です。