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油井宇宙飛行士ミッション報告会~チームジャパンで挑んだ142日間の軌跡~
油井宇宙飛行士ミッション報告会の様子(3月16日撮影)
3月16日、東京ドームシティホール(東京都文京区)にて、油井宇宙飛行士国際宇宙ステーション長期滞在ミッション報告会が開催されました。
開催にあたり、奥村直樹JAXA理事長と豊田真由子文部科学大臣政務官から開会の挨拶が行われました。
展示コーナーに並べられたパネル類(3月16日撮影)
【第1部】ミッション報告
ダイジェスト映像を流しながらソユーズロケットによる打上げ、宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機のISSロボットアームでの把持、軌道上での科学実験や日常生活、ISSから見た様々な地球の光景、そして帰還まで油井宇宙飛行士による解説が行われました。
ISSの水再生システム(WRS)の交換用フィルタが底をつき、生活用品などの消耗品も乏しくなってきたところに、NASAからの緊急要請によって搭載することになったWRSの交換部品や補給物資を積んだ宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機(HTV5)が到着し、それを無事ISSのロボットアームで掴んだことで事なきを得たこと、この時ほど日本の技術を誇らしく思ったことはなかったこと、ISSから巨大な台風を見たときはこの規模をとにかく人々に伝えなければならないと感じたこと、日の出の富士山を見た感動がツイッターを通して多くの方と共有できたこと等について熱く語りました。
科学実験関連の活動では、タンパク質結晶成長実験や植物の重力による応答性を確認する実験(Plant Rotation)の実施、小動物飼育装置(MHU)の組み立てや機能確認、静電浮遊炉(ELF)の初期機能確認といった新しい実験装置の準備、「きぼう」ならではの超小型衛星の放出や材料などの簡易曝露実験(ExHAM)の実施など、初公開の映像も交えて紹介しました。
【第2部】ココでしか聞けない公開独占インタビュー
若林理沙アナウンサーが油井宇宙飛行士にインタビューしながらミッションを紐解いていく公開独占インタビューでは、事前にホームページで募集した質問も交えて次々と飛び出す質問に油井宇宙飛行士は裏話を交えながら笑顔で答えました。
ツイッターに多くの写真を投稿したことについて尋ねられると、「仕事中は忙しいので、夜寝る前の余暇の時間でツイッターの投稿に全て目を通し、1,2件ツイートするということを行いました。」「(写真撮影は)空いた時間を使って撮るということが非常に大変でした。平日昼間は分刻みのスケジュールで、トイレに行く時間はスケジュールに無いのでトイレに行くためには計画的に仕事を進め時間を作らなければなりません。そういうなかで先行的に仕事を進め、追加の仕事も行い、余暇時間に写真を撮るようにしていました。」と答えました。
そしてツイッターで最も伝えたかったことは、「地球の大気の薄さです。宇宙から見ると青い層が非常に薄く見えてその下に雲が見え、その下でしか人間は生活できないんだと思うと、地球を大切にしなければいけないと実感しました。」と答えました。
【第3部】左から室山NHK解説員、油井宇宙飛行士、山上IM、西島 持田製薬フェロー(3月16日撮影)
【第3部】「きぼう」の進化、成果最大化へ向けて
トークセッションでは、NHK解説員の室山哲也氏が司会を務め、油井宇宙飛行士、山上武尊JAXAインクリメントマネージャ(IM)、「きぼう」利用ユーザー代表として西島和三 持田製薬株式会社医薬開発本部フェローによって、なぜ、有人宇宙活動をしなければならないか、なぜ、「きぼう」日本実験棟が必要なのか、などを柱にトークを展開しました。
東京以外の5カ所の会場でのミッション報告会も全て終了いたしました。大勢のご参加ありがとうございました。
大西宇宙飛行士の訓練状況
ISS第48次/第49次長期滞在クルーの大西卓哉宇宙飛行士は、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)にて、長期滞在に向けた最終訓練を行っています。
ISSでの1日をシミュレーションする長時間の訓練も行いました。
ISSのモックアップ(実物大模型)を使用して、始業のための地上との打合せから始まり、スケジュールに従ってISSのメンテナンスなどの作業を行い、問題があればヒューストンの管制チームと相談して対処し、実験に関する作業はハンツビルの管制チームと相談するという実際のISSでの1日に近い訓練を分刻みで行いました。
他にも、カメラやビデオの撮影訓練や、船外活動訓練など、打上げに向けた訓練が続きます。
ISSで使われている撮影機材 (出典:大西宇宙飛行士のGoogle+より)
バーチャルリアリティシステムを使用して船外活動でIDAとよばれる民間宇宙船がドッキングする機構の扱いを訓練している様子(出典:大西宇宙飛行士のGoogle+より)
今月のきぼう
「きぼう」船内実験室運用開始から2850日経過しました
宇宙環境における健康管理に向けた免疫・腸内環境の統合評価(Multi Omics)実験
宇宙医学分野の実験として、宇宙環境における健康管理に向けた免疫・腸内環境の統合評価(Multi Omics)実験を行っています。
宇宙飛行士にとって宇宙環境は、微小重力、閉鎖環境、宇宙放射線という特徴があり、骨量低下、筋委縮、睡眠障害、免疫障害などの生理的リスクを引き起こします。これらは老化と似た現象です。
この実験は、宇宙飛行士の糞便等を用いて、腸内細菌叢*や腸内代謝系といった腸内環境の変化を調べることで宇宙環境による免疫障害への影響を評価します。
*腸内に繁殖する菌の種類、量、割合、分布などの構成
今年1月からサンプル採取(採便、唾液)を始め今月は、3回目および4回目となるサンプル採取を行い、冷凍・冷蔵庫(MELFI)に保管しました。
採集したサンプルは今後地上に持ち帰り、口腔・腸内における細菌の分布・機能、分泌される代謝物の解析が行われます。
この実験の波及効果は、高齢者などの健康増進や疾病などに対する予防医学にも貢献すると考えられます。
このようにISSでは宇宙飛行士を被験者とし、実験装置を使わない実験や研究も行われています。
今月の国際宇宙ステーション
最初のISS構成要素打上げから6335日経過しました
続くミッション
●ソユーズ宇宙船(44S)帰還
国際宇宙ステーション(ISS)の第45次/第46次長期滞在クルーのセルゲイ・ヴォルコフ、第43次~第46次長期滞在クルーのスコット・ケリー、ミカエル・コニエンコ両宇宙飛行士の3人を乗せたソユーズTMA-18M宇宙船(44S)は、日本時間2016年3月2日午前10時02分にISSから分離し、同午後1時26分にカザフスタン共和国へ無事着陸しました。
1年滞在クルーのスコット・ケリー、ミカエル・コニエンコ両宇宙飛行士の宇宙滞在期間は340日でした。ケリー宇宙飛行士は米国人による1回の飛行で最長の宇宙滞在日数を記録し、また、現時点で米国人として最長の累積宇宙滞在日数520日を記録しました。
ケリー宇宙飛行士は、1年間の宇宙滞在ミッションに関する研究について、引き続き地上での研究に参加します。
およそ1年間宇宙に滞在したケリー、コニエンコ両宇宙飛行士(左から)(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)
●ソユーズ宇宙船(46S)打上げ
ソユーズ宇宙船(46S)の打上げ(出典:JAXA/NASA/Aubrey Gemignani)
ISS第47次/第48次長期滞在クルーのジェフリー・ウィリアムズ、オレッグ・スクリポチカ、アレクセイ・オブチニン宇宙飛行士の3人を乗せたソユーズTMA-20M宇宙船(46S)は、日本時間3月19日午前6時26分にバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、同3月19日午後0時09分にISSにドッキングしました。
3人は約半年間ISSに滞在します。
●シグナス補給船(OA-6)打上げ
シグナス補給船運用5号機の打上げ(出典:JAXA/NASA/Tony Gray & Kevin O'Connell )
シグナス補給船は、オービタル・サイエンシズ社(OSC)が開発した無人の補給船で、ISSへのランデブ・結合方法には、日本が開発した宇宙ステーション補給機「こうのとり」と同じ方式が採用されています。
運用5号機(OA-6)は、日本時間3月23日午後0時05分に米国フロリダ州ケープカナベラル空軍基地からアトラスVロケットに搭載して打ち上げられ、同3月26日夜にISSに結合される予定です。
今回搭載されているJAXA関連品は、フィリピンの超小型衛星DIWATA-1、簡易曝露実験装置(ExHAM)用の実験サンプルなどです。