ISS・きぼうマンスリーニュース第14号
最終更新日:2014年5月28日
トピックス
カザフスタン共和国の草原に着陸した、若田光一、ミハイル・チューリン、リチャード・マストラキオ宇宙飛行士と関係者。右奥はソユーズTMA-11M宇宙船(37S)。360度地平線が広がっている。(5月14日撮影)(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)
着地の直前、ソユーズ宇宙船の帰還カプセルが地上約80cmで衝撃緩和ロケットを噴射する様子(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)
若田宇宙飛行士がISSから帰還!
2014年5月14日午前10時58分、第38/39次長期滞在クルーの若田光一、ミハイル・チューリン、リチャード・マストラキオ宇宙飛行士を乗せたソユーズTMA-11M宇宙船(37S)が、カザフスタン共和国の草原に着陸しました。
若田宇宙飛行士らは188日間、ISSに滞在しました。
37Sの帰還に先立ち、5月13日、第39次長期滞在クルーの船長(コマンダー)を務めた若田宇宙飛行士から、第40次長期滞在の船長を務めるスティーブン・スワンソン宇宙飛行士にISSの指揮権が移譲されました。
帰還カプセルから姿を現した若田宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)
カラガンダ空港にて行われた帰還セレモニー(出典:JAXA/NASA/Bill Ingalls)
ISS長期滞在を振り返って ―
帰還2日前に若田宇宙飛行士がISS長期滞在を振り返って述べたメッセージをご紹介します。
この半年間、ISSの微小重力環境を利用した様々な実験や、ISSのシステムのメンテナンスや修理、ロボティクスによる船外活動の支援や貨物船の把持など、様々な作業に参加することができ、また、3月からの2カ月間はISSの船長の任務も担当し、非常に充実した半年間でした。
この間も世界各国の地上管制局との連携を綿密に計りながら作業を行ってきましたが、特に『きぼう』の運用を24時間体制で支える筑波の運用管制チームの技量の高さ、運用経験の豊かさを、はっきり感じながら仕事をさせてもらいました。
日本の有人宇宙活動が世界最高水準にあることを実感しています。いよいよ明後日ISSを離れ地上に帰還しますが、帰還後皆様と日本でお話しできることを楽しみにしています。
今回の宇宙飛行にあたり皆様の力強い応援ありがとうございました。
今月のきぼう
「きぼう」船内実験室運用開始から2183日経過しました
高品質タンパク質結晶生成実験(JAXA PCG)終了
微小重力環境を利用してタンパク質の精密な立体構造データを取得する高品質タンパク質結晶生成実験(JAXA PCG)の第2シリーズの1回目の実験が終了しました。実験は、2014年3月28日に開始され、若田宇宙飛行士が流体実験ラックの蛋白質結晶生成装置(PCRF)に実験サンプルが入ったキャニスタをセットしました。実験で得られたサンプルは、若田宇宙飛行士とともにソユーズTMA-11M宇宙船(37S)で地上に帰還し、回収されました。今後、地上での解析が行われます。
JAXA PCG実験で成果
サンプルの入ったキャニスタ(出典:JAXA/NASA)
DAP BIIの構造変化(左:単独、右:ペプチド結合時)(クレジット:岩手医科大学 阪本泰光 助教)
岩手医科大学薬学部の阪本泰光助教、昭和大学薬学部の田中信忠准教授、長岡技術科学大学工学部の小笠原渉准教授、JAXA太田和敬主任開発員らの研究グループは、多剤耐性菌や歯周病菌のペプチド代謝に重要な役割を果たす酵素と非常によく似た構造と機能を持つペプチド分解酵素 DAP BIIの立体構造とペプチド分解機構を解明し、論文「Scientific Reports」で発表しました。これは、2011年に古川宇宙飛行士がISS長期滞在時に行った実験の成果です。
多剤耐性菌は、複数の抗生物質に対して抵抗性を持つ細菌で、抵抗力の落ちている患者には脅威であり、院内感染症の原因のひとつとなっています。本研究の成果は、既存の抗菌薬とは異なる仕組みで多剤耐性菌や歯周病菌に対して作用する抗菌薬の開発に役立ちます。
今月の国際宇宙ステーション(ISS)
最初のISS構成要素打上げから5668日経過しました
第40次長期滞在開始、ドラゴン補給船により実験試料を回収
実験に関わる作業を行うスティーブン・スワンソン船長(出典:JAXA/NASA)
5月14日に若田宇宙飛行士ら第39次長期滞在クルーが帰還し、NASAのスティーブン・スワンソン宇宙飛行士を船長とする第40次長期滞在が始まりました。
5月18日には、地上に回収する実験試料などの物資を搭載したドラゴン補給船運用3号機がISSから出発し、5月19日午前4時05分にメキシコのバハ・カリフォルニア州沖約500kmの太平洋上に着水しました。
ドラゴン補給船で地上に回収された実験試料の中には、ISSの微小重力環境を活かして癌細胞の特性を調べるCellBox-Thyroidと呼ばれる実験のサンプルも含まれています。この実験は、微小重力環境が甲状腺癌細胞へ及ぼす影響を調べるとともに、新たなバイオマーカーを特定し、抗がん剤の開発に役立てられることが期待されています。
現在、ISSでは、野菜の栽培実験なども行われています。また、ISS船外に設置されたレーザを使用したデータの伝送実験装置(OPALS)の運用準備も着々と進められています。
一方、地上では、ソユーズTMA-13M宇宙船(39S)の打上げ準備が進められています。39Sは、ISSの新たなクルーとなるマキシム・スライエフ、リード・ワイズマン、アレクサンダー・ゲルスト宇宙飛行士の3名を乗せて、5月29日午前4時57分にカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられる予定です。
コラム:ソユーズ宇宙船の秘密
着地後横倒しになり底部を見せるソユーズ宇宙船(2008年着陸のTMA-11(15S))(出典:JAXA/NASA)
若田宇宙飛行士の帰還ライブ中継をご覧になった方は大勢いると思います。ライブで見ることで着地の瞬間まで緊張と興奮が止まらなかったと思います。
若田宇宙飛行士ら3名が搭乗して帰還したソユーズ宇宙船には、宇宙から無事に帰還するための工夫がいくつもあります。
今回はそのうちのひとつ、着地の瞬間についてご紹介します。
着地の直前にパッと土ぼこりが上がって着地の衝撃の凄まじさを思わせますが、実はソユーズ宇宙船の底部には放射性同位元素(セシウム137)を使用したガンマ線高度計があり、地表に約80cmまで近づくと、降下速度に応じて4~6基の固体ロケットモータを自動的に噴射させ、着地の衝撃を緩和するのです。
なお、カプセル底部には、ハッチを開けるための工具が設置されており、駆け付けた支援クルーがその工具を使ってハッチを開けます。