ISS・きぼうマンスリーニュース第46号
最終更新日:2017年3月 7日
トピックス
第1部 大西宇宙飛行士によるミッション報告(2月21日)
大西宇宙飛行士ISS長期滞在ミッション報告会~「きぼう」利用で未来を拓く115日間の軌跡~
2月21日、東京ドームシティホール(東京都文京区)にて、大西宇宙飛行士国際宇宙ステーション長期滞在ミッション報告会が開催されました。
開催にあたり、奥村直樹JAXA理事長から開会の挨拶、田野瀬太道文部科学大臣政務官から来賓挨拶が行われました。
【第1部】大西宇宙飛行士によるミッション報告
ダイジェスト映像を流しながらソユーズロケットによる打上げ、「きぼう」のエアロックを使用した超小型衛星の放出、シグナス補給船の把持、軌道上での科学実験や日常生活、ISSから見た様々な地球の光景、地球への帰還、そして国内で実施した地球の環境に体を戻すためのリハビリまで大西宇宙飛行士による解説が行われました。
大西宇宙飛行士は、「きぼう」で行った特に思い入れの深い実験について、詳しく説明しました。
まず、12匹のマウスを35日間無重量環境で飼育する小動物の飼育ミッションを挙げました。12匹のマウスを6匹ずつ、人工重力環境と無重量の環境で飼育し、地球帰還後に比較調査することで、重力の影響のみを把握することができる点、全てのマウスを生きたまま地球に帰還できたことなど語りました。
次に日本が最も得意とするタンパク質結晶生成実験について紹介し、無重量環境ならではの高品質の結晶が得られることを説明しました。
ISSの運用に関わる話では、シグナス補給船をISSのロボットアームで把持したときは飛行機の操縦のようで得意分野が活かせたことを嬉しく思うと語りました。
【第2部】大西宇宙飛行士×中野きぼうフライトディレクタ インタビュー
第2部 大西宇宙飛行士×中野きぼうフライトディレクタ インタビュー(2月21日)
第2部は、松田理奈アナウンサーによる参加者から事前に募集した質問を大西宇宙飛行士と中野優理香きぼうフライトディレクタ(FD)へインタビューする形式で進められ、二人はISSと地上の信頼関係に基づく連携作業によって成し遂げた数々のミッションについて成功の秘訣、大変だったことなど、裏話を交えながら答えました。
大西宇宙飛行士は作業で失敗したことがあれば包み隠さず地上の運用管制チームに伝えることで今後同様の作業を行う時には失敗が起きないように、失敗を共有することが大切だと前職のパイロットとしての経験を踏まえ答えました。
中野FDは運用に入る8時間のための99%は準備で決まると、準備・予習の大切さを語りました。
また、ふたりは宇宙飛行士もフライトディレクタも地道な準備作業を重ねる地味な仕事であると笑顔で答えました。
【第3部】「きぼう」の意義・成果の価値がもたらす世界
第3部 トークセッション(2月21日)
トークセッションでは、NHK解説員の室山哲也氏が司会を務め、大西宇宙飛行士、JAXA有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 白川正輝技術領域主幹、「きぼう」利用ユーザー代表として筑波大学 医学医療系教授 高橋智先生によって、人類にとってISSはなぜ必要なのか、日本にとって「きぼう」はなぜ必要なのか、これからどのような価値を作り出していくのかなどを柱にスライドを使いながらディスカッションを進めました。
報告会の詳細についてはウェブサイトをご覧ください。
今月のきぼう
船内実験室運用開始から3197日経過
●「きぼう」で初の燃焼実験開始
液滴群が燃え広がる様子
2月17日、「きぼう」で初めての燃焼実験が始まりました。「ランダム分散液滴群の燃え広がりと群燃焼発現メカニズムの解明(通称Group Combustion:GCEM実験)」と呼ばれ、微小重力環境での多数の燃料液滴間での火炎の燃え広がり方を観察します。
火炎の燃え広がる速度・火炎が広がる限界距離を支配する法則に関する仮説を検証することができれば、燃料を噴霧して燃焼させる各種エンジンの開発に必要な数値シミュレーションの高度化が進められ、新たな機器が効率良く開発できる可能性があります。
本実験では、多目的実験ラック(MSPR)のワークボリューム(WV)に設置した、燃焼実験チャンバ(CCE)、液滴群燃焼実験供試体(GCEM)を用いて2次元の格子上に配置された最大150個以上の燃料液滴が燃え広がる様子を複数のカメラで観察します。
このGCEMの組み立て、CCEのセッティングは、昨年ISSに滞在していた大西宇宙飛行士が担当しました。
●タンパク質の4℃結晶化実験(LTPCG#1)開始
米国のドラゴン補給船運用10号機(SpX-10)にて、高品質タンパク質結晶生成実験「4℃での結晶化実験:LTPCG#1(Low Temperature Protein Crystal Growth: LTPCG)」試料がISSに運ばれ、「きぼう」船内実験室で実験が開始されました。
結晶化の温度は4℃と20℃が一般的でしたが、これまでのタンパク質結晶生成実験では20℃のみでした。利用需要に応えるべく、28年度から4℃結晶化技術の実証実験を行い、今回米国の輸送手段を用いて、第1回目となる4℃結晶化実験を開始しました。
これより、ロシアと米国の2つの輸送手段が利用可能となり、タンパク質結晶実験における機会増加と柔軟な選択が可能になりました。また、4℃の結晶化により、これまで20℃では不安定な膜タンパク質の結晶化に対応可能となり、創薬研究に重要なタンパク質の範囲が広がります。
成長したタンパク質結晶は、SpX-10にて地上に回収されます。
●宇宙飛行士の免疫機能、腸内環境への効果研究
株式会社ヤクルトとJAXAは平成26年度から共同で、閉鎖微小重力環境下におけるプロバイオティクス※の継続摂取による免疫機能及び腸内環境に及ぼす効果に係る共同研究に取り組んできました。地上研究、「きぼう」での搭載影響評価実験を通して、宇宙実験に向けた準備を進め、世界に先駆けてISSにてプロバイオティクスの宇宙飛行士による継続摂取実験を行うことが可能となりました。
平成29年度からISSに長期滞在する宇宙飛行士がプロバイオティクスを継続摂取し、宇宙環境での免疫機能及び腸内環境に及ぼす効果を科学的に検証する、世界初の宇宙実験を開始します。
※プロバイオティクス: 腸内環境を改善し、人などに有益な作用をもたらす生きた微生物(善玉菌)やそれを含む食品
今月の国際宇宙ステーション
最初のISS構成要素打上げから6682日経過
●ドラゴン補給船運用10号機(SpX-10)打上げ
ISSに接近するドラゴン補給船運用10号機(SpX-10)(出典:JAXA/NASA)
米スペースX社が開発したドラゴン補給船の運用10号機(SpX-10)が、フロリダ州ケネディ宇宙センターから2月19日に打ち上げられ、2月23日にISSに到着し、ISSのロボットアーム(SSRMS)によって、ISSの「ハーモニー」(第2結合部)地球側ポートに結合されました。
SpX-10によって、「きぼう」搭載用ポータブル極低温冷凍庫(FROST2)や低温高品質タンパク質結晶生成実験(LTPCG)試料を始め、日本の実験に関連する機材がISSに届けられました。
インフォメーション
●大西宇宙飛行士ISS長期滞在ミッション報告会
各地のミッション報告会の参加者を募集中です。貴重な機会ですので是非ご応募ください。
●宇宙医学研究センターJ-CASMHR平成28年度 研究開発報告会
JAXA宇宙医学研究センター(J-CASMHR)では、JAXAの研究支援を受けて宇宙医学研究に参加している研究者とJAXA役職員の情報共有および意見交換を目的とし、年に一度、研究開発報告会を実施しております。
日時 |
2017年3月14日(火) |
場所 |
大手町ファーストスクエア |
事前登録締切 |
2017年3月13日(月)17時まで |
参加費 |
無料 |
プログラム等詳細 |