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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

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大西宇宙飛行士ISS長期滞在ミッション報告会 ~「きぼう」利用で未来を拓く115日間の軌跡~(2017年2月28日)

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東京ドームシティホールに並ぶ来場者

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奥村JAXA理事長

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田野瀬文部科学大臣政務官


2月21日、東京ドームシティホール(東京都文京区)にて、大西宇宙飛行士国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会 ~「きぼう」利用で未来を拓く115日間の軌跡~ が開催されました。

強風が吹き付ける寒い日にも関わらず、開演前の早い時間から会場に駆け付けた多くの方々が待つ中、大西卓哉宇宙飛行士のミッション報告会が開幕しました。

開催にあたり、奥村直樹JAXA理事長から開会の挨拶が、田野瀬太道文部科学大臣政務官から来賓の挨拶が行われました。

【第一部】 大西宇宙飛行士によるミッション報告

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ステージでミッションの報告をする大西宇宙飛行士

大西宇宙飛行士のISS長期滞在ミッションを紹介する映画のオープニングのような映像の後、会場後方から大西宇宙飛行士が登場し、ステージへ向かう通路で会場の方々とハイタッチなどをしながら移動。途中、いったん立ち止まり会場全体へ向き直り深々と一礼すると、会場中から再び拍手が湧き上りました。

壇上にて挨拶の後、115日間のダイジェスト映像を流しながら、2016年7月7日七夕の新型ソユーズロケットMS-01宇宙船による打上げ、「きぼう」日本実験棟で携わった実験や研究、「きぼう」のエアロックを使用した超小型衛星放出、エアロックの遠隔運用化、シグナス補給船のキャプチャ(把持)、宇宙服を着て宇宙船の外で作業をする船外活動支援、簡単な道具を使って物理実験をするアジアン・トライ・ゼロG、ISSでの生活、地球への帰還、そして帰還後国内で実施した地球の環境に体を戻すためのリハビリまで大西宇宙飛行士による解説が行われました。


大西宇宙飛行士は、ISS第48次/第49次長期滞在期間に携わった200以上の研究の中から、「きぼう」日本実験棟で行ったものに焦点を当てて詳しく説明しました。


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小動物飼育ミッションに携わる大西宇宙飛行士

まず、多くの時間を投入して取り組んだミッションとして、12匹のマウスを35日間無重量環境で飼育する小動物の飼育ミッションを挙げました。

このミッションは、無重量環境において筋肉の委縮や骨の減少など加齢に似た現象が非常に早いスピードで進行するため、その原因を調べることでこれからの高齢者医療に活かそうという研究の一環として、12匹のマウスを6匹ずつ、人工重力を作り出した環境と無重量の環境、それぞれ2つの環境下で同時に飼育し、それらを比較することで重力の体に対する影響を純粋に抽出することができる点、12匹全てのマウスが生存して地上に帰還した点が世界初となった要素だと思い入れ深く語りました。


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大西宇宙飛行士と地球へ帰還したタンパク質結晶サンプル

2つ目に、新しい薬を作るための実験であるタンパク質結晶生成実験を挙げ、無重量環境では、熱による対流、比重の違いによる沈殿などが発生しないため、はっきりとした形の高品質の結晶が得られることを説明しました。
病気の基となるタンパク質と治療薬は、鍵穴と鍵に例えられ、無重量環境で生成したタンパク質の結晶のように鍵穴がはっきりとした形をしていることで、それに合う鍵、つまり治療薬を作ることができると日本のもっとも得意とする実験を分かりやすく伝えました。


研究や実験以外にも、ISSのリソースの中で課題となっている宇宙飛行士の作業時間を確保するためJAXAが積極的に取り組んだ、ISS船内からISS船外へ実験装置を搬出する際に使用する「きぼう」エアロックの操作を、軌道上の宇宙飛行士ではなく、地上から遠隔操作できるようにするテストを行ったことを、超小型衛星の放出などを例に、これからの船外利用に向けて非常に大きな意味を持つことだと紹介しました。

ISSへ物資を輸送するシグナス補給船のキャプチャについては、ロボットアームの操作は、飛行機の操縦とよく似ている、得意分野を生かして大役を果たせたことを嬉しく思っている、と語りました。
また、このシグナス補給船はアメリカの民間企業の開発した補給船で、ISSに近づいた時にISSと通信するシステムは日本の民間企業が開発したものを利用していることを紹介し、アメリカの企業が日本の技術を使って宇宙開発を行っていることは、日本の宇宙開発がそこまで高まった良い証なのではないかと思うと感慨深く述べました。

【第二部】 大西宇宙飛行士×中野きぼうフライトディレクタ インタビュー

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ステージでインタビューを受ける大西宇宙飛行士と中野FD

松田理奈アナウンサーが大西宇宙飛行士と中野優理香きぼうフライトディレクタ(FD)にインタビューをしながら、ISSと地上で連携し成し遂げたミッションを紹介する第二部では、大西宇宙飛行士と中野FDが裏話などリアルな現場の話を交えながら答えました。以下にその一部をまとめた内容を紹介します。


―ミッションを成功させる秘訣は

大西宇宙飛行士:現場で宇宙飛行士が実施する作業、地上で運用管制チームが実施している作業、実験を主導している研究者の方々もいて大きなチームで作業しているためチームワークがとても大事で、一番重視していたのは信頼関係です。失敗を隠さないというのを意識してやっていました。人間だれでも失敗するので、それをごまかさずに自分が何をしたかを地上に伝えるように気を付けていました。

中野FD:大西さんは、隠さないと宣言していました。言わなければ地上には分からないことでも、間違えたことの素直な告白と次に間違えないようにどうすればよいかも伝えてくれました。

大西宇宙飛行士:失敗を地上と共有することは、当たり前の感覚としていました。前職のパイロットの世界では、自分が失敗したことは他の人も失敗する可能性があるので、失敗の共有は非常に大事なことでした。その考え方は非常に重要なことだと思いますし、宇宙飛行士の世界でも大切なことかなと思います。


―大変だったことは

大西宇宙飛行士:マウスの飼育ミッションは大変でした。世界初という要素が集まったミッションだったので、実際に宇宙で実施してみると地上では想定していなかったことや、地上でうまくいくと思っていた手順が宇宙でうまくできないことがあり、地上の運用管制チームと毎日情報共有し、どうしていくかを相談していました。

中野FD:毎日が戦いでした。通常、作業当日の3日前には作業を確定し、宇宙飛行士に予習の時間を設けるのが原則ですが、マウスの飼育ミッションでは、前日に翌日の作業を変えることが続きました。運用管制チームの手順書の準備も大変でしたし、大西さんにどう伝えるかも課題でした。

大西宇宙飛行士:前日のうちに次の日の手順を読み、必要なものなども集める前日予習型でした。事前に手順書を読み込んで、作業をイメージしておくことで、当日の作業が進むようにしていました。ところが、朝起きたらその日の計画が変わっていることもありました。(笑)
宇宙飛行士は2通りに分かれていて、事前に予習をきっちりするタイプと、当日の流れの中でうまく作業を実施していく当日勝負型がいます。


―プレッシャーの克服方法は

大西宇宙飛行士:プレッシャーやストレスはいろいろな場面であり、プレッシャーは大きいが、訓練が厳しかったということもあり、プレッシャーには、自然と精神的にも耐性がついていました。逆に言うと、訓練はそれぐらい厳しくないと意味がないのかなと思います。
ソユーズロケットの宇宙船のコックピットに座って打上げを待っている間、自分がどういう心境になるのかは実際にその場に行かなくては分からず、自分の中の疑問でもあり、知りたかったです。いざその時になり、いつもと変わらない、冷静で落ち着いている自分を見た時に、それを支えてくれたのは、それまでずっと何年間も厳しい訓練を実施してきた自信なのだと、その時になって初めて分かりました。

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ISSの説明をする大西宇宙飛行士と中野FD

中野FD:訓練をしてからも準備は必要で、運用に入る8時間のための99%は準備で決まると思っています。大きな実験がある時は、みんなで集まり、手順を最初から最後まで読み合わせをし、ウォークスルー(予習)しています。また、有人宇宙では"What if..."といい、「もしもこうだったら」、「もしもこれがこうならなかったら」というWhat if検討に膨大な時間を使い、何かあった時にすぐ対応できるように準備をしています。


―実際に宇宙飛行士、FDになってみて思ったことは

大西宇宙飛行士:宇宙飛行士は、地味な仕事です。(笑)職場が変わっているだけで、やっていることは"なんでも屋"です。宇宙飛行士としてJAXAに入って7~8年たちますが、宇宙に行っていたのは115日だけです。その他は、地道な作業を積み重ねて、宇宙に行った時のためにそれまでの時間準備している地味な仕事だと思います。(笑)

中野FD:自身が思っていたことと違うことは、地味で泥臭いことです。(笑)何十時間という準備の期間があり、それを経て初めて超小型衛星の放出など、陽の目を見ることができます。運用準備には、計画、ルール、手順書という三種の神器があり、それらの調整や確認には、とても時間を要します。


―今後の目標について

大西宇宙飛行士:もう一度ISSに戻って仕事がしたいです。地上にいる間に新しいスキルを身に付けて、よりパワーアップした自分になって戻りたいです。
今具体的には、FDの仕事をやってみたいと本当に思っています。FDの仕事の重責や大変さ、宇宙飛行士から見えないことを地上の運用管制チームはしており、その世界を知ることで宇宙の現場の知識を運用管制チームへフィードバックすることもでき、運用管制チームの仕事を知ることで得ることを宇宙飛行士の仕事に生かすこともできると思います。「きぼう」のFDの仕事をやってみたいというのは直近の目標としてあります。

中野FD:FDは本当に充実した仕事です。「きぼう」の需要が増え、ミッションが増えてきているので、今与えられたミッションをFDとしてこなすということがまずひとつ目の目標です。加えて、こうのとりミッションのFDも次の号機から訓練が始まるので、それも頑張りたいと思っています。いずれ、FDで得た知識を生かせるといいなと思い、いつか自分でもISSに行ってみたいと思っています。


―宇宙関連の仕事に携わりたいみなさんへのメッセージ

中野FD:私の今のモットーは"攻めの姿勢"です。常に行動力を大切にしてほしいなと思います。何か自分がなりたいなと思ったことがあれば、とりあえずやってみるという気持ちを大切にしてもらいたいです。もちろん宇宙飛行士はかっこよく、大変な仕事で憧れますが、運用管制チームの仕事も同じくらい素敵な仕事なので、それをやりたいと思ってくれる子どもたちが増えるといいなと思います。

大西宇宙飛行士:自分の好きなことや得意なことは誰でも頑張れると思います。自分を成長させてくれたなと思うのは、苦手なこと、やりたくないこと、嫌いなことでも、一生懸命頑張ってきた経験です。好きなことだけでなく、嫌いなことや苦手なことでも、今やらなければならないことを頑張っていると、それが将来自分のやりたいことをやる時に、自分を助けてくれるという実感があります。

【第三部】 「きぼう」の意義・成果の価値がもたらす世界

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左より室山NHK解説委員、大西宇宙飛行士、白川技術領域主幹、高橋先生

トークセッションでは、NHK解説員の室山哲也氏が司会を務め、大西宇宙飛行士、JAXA有人宇宙技術部門 きぼう利用センター 白川正輝技術領域主幹、「きぼう」利用ユーザー代表として筑波大学 医学医療系教授 高橋智先生によって、次の3点を柱にディスカッションしました。以下にその一部をまとめた内容を紹介します。


ディスカッションに先立ち室山氏は、"なぜ今ISSや「きぼう」があり、なぜ重要なのか?"、"人類にとってISSはなぜ必要なのか?"、"日本にとって「きぼう」はなぜ必要なのか?"、"あったら何がいいのか?"、"これからどういう風な価値を作り出して私たちの生活を変えていくのか?"ということを聞いていきたいと、ディスカッションの目的を述べました。


―「きぼう」がますます重要化していると聞くが、どういう風に位置付ければよいか

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世界をリードする「きぼう」変革の3つの柱

白川技術領域主幹:「きぼう」の運用は2008年から始まり、9年目となりました。「きぼう」では多くの実験をしており、まさに今、その成果を刈り取る時期に来ています。成果の大きな柱として以下の3つを紹介させてもらえればと思います。

  • 健康医療 小動物飼育
  • 手が届く宇宙開発 超小型衛星放出
  • 創薬 タンパク質結晶生成実験


―地上ではなく宇宙でないとできない実験があるのか

高橋先生:何年か前に宇宙でマウスの飼育をしたいと思っていましたが、その時は無理でした。今は、日本の技術、積み重なった経験があり、初めてできるようになりました。宇宙という特別な環境で生命科学の研究をできるのは今だからこそだと思います。


―宇宙へ行って分かったことは地上のいろいろな問題を解く鍵になるのか

高橋先生:そうですね。例えば、非常に早く骨の減少や筋肉の委縮が起こるというのは特別な環境です。地上で同じことをやろうとしても基本的にはできないが、宇宙環境だとできます。また、重力がない環境は他にあり得ないので、その点でも生物研究としては他に得難い研究場所です。


―揺れている世界の中で国を超えて人類として運用するISSはどういう意味があるか

大西宇宙飛行士:国際的なプロジェクトとして非常に意味があると思います。たくさんの国がひとつの目標に向かって、あれだけの大きなプロジェクトを行っていることにまず価値があります。日常的にお互い助け合っていて、生活の中でごく普通に国籍を超えて助け合っている姿は、ブログを通じてもいろいろな方々に発信したいなと思います。

健康医療 小動物飼育

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骨組織の変化に関する解析

―健康医療とはどういうことか

高橋先生:日本は少子高齢化に向かってどんどん進んでいます。若い人(生産人口)が減り、高齢者が増えていく中で様々な問題が出てくることが予想され、長く健康で働ける方が増えるよう、その解決に向けて研究をしています。

宇宙で長期間マウスを飼育すると、筋肉や骨に力が掛からないことにより、骨を使わなくていい環境のため強度が不要になりスカスカになってしまいます。これは地上の骨粗鬆症と同じ状態ですが、地上で宇宙と同じような骨の状態を作ろうとするとほとんど不可能で、宇宙だからこそ実現が可能なのです。

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筋肉の変化に関する解析

また、宇宙では筋肉を使わないため筋肉が減少していきますが、なぜ減少していくかを知るには、遺伝子を調べると分かります。調べた結果、約300位の遺伝子の使われ方が変わっていました。
遺伝子が元になり筋肉ができており、遺伝子からの作用の仕方のプロセスが1G(地上)と0G(宇宙)とでは違うということです。この原因を調べれば、なぜ筋肉が減少したのか分かり、それが分かれば、どうすれば止められるかということが分かります。


―骨も筋肉も重力のないところでは早く弱くなるということで、そのプロセスや仕組みを調べるとどうなるのか

高橋先生:筋肉や骨の減少に関する治療や予防ができます。

室山氏:地上でマウスを飼育しても顕著なプロセスが確認できないため、プロセスが顕著に現れる宇宙で飼育するからこそ医療に役立つということなのですね。

大西宇宙飛行士:宇宙で長期滞在し、自分の身をもって加齢現象を体験しました。骨や筋肉に影響を受けるため、毎日2時間30分の運動をしています。今の技術では、コアな筋肉や骨の密度は衰えずに地上に帰還することができます。ただ、鍛えることのできない小さな筋肉やバランス感覚は、115日間という短い滞在でも失われており、地球に帰還して一番苦労したのは車に乗り込む動作でした。地上ではあまり意識していませんでしたが、いろいろな体の複雑な機能を利用したとても高度な動きです。自身の祖父母の姿を思い出し、自身の体が長期滞在により加齢現象が進んだことを体感しました。


―高齢化が世界で一番進んでいる日本で加齢現象の研究をいち早く実施し、医療や予防医学に役立てることができれば、他の国のモデルになることができ、またリーダーになることができるという位置づけか

高橋先生:そう思います。「きぼう」という施設を日本が持っていることも含め、社会状況からも、今まさに日本で実施すべき研究であり、また実施できる研究だと思います。


―一見地味だが非常に興味深い研究のため、他の国の宇宙飛行士が見に来たりし、だいぶ注目していたと聞いた

大西宇宙飛行士:他の国の宇宙飛行士も大変関心を持ってフォローしており、食事の時も話題になりました。


手が届く宇宙開発 超小型衛星放出

―どういう意味か

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超小型衛星放出の拡大

白川技術領域主幹:「きぼう」のロボットアームから超小型衛星を放出するということを実施しています。これにより、手作りのため手軽に実現可能であり、放出の頻度として、これまでのようにロケット打上げの機会を待たなくてもISSの輸送船の打上げ機会を利用して柔軟に輸送が可能です。


―どの位小さいか

白川技術領域主幹:10cm角がひとつのユニットとなっています。


―今までの大型の衛星と比べて、超小型衛星でなければできないこと、どういうメリットがあるか

白川技術領域主幹:小型の衛星は手軽に打ち上げることができるので、例えば電気部品など、宇宙で初めて使用するものが本当に動作するか、あるいはメカニカルな点できちんと動くのかということも、試験的に実際に簡単に試すことができます。


―性能としてはどうか

大西宇宙飛行士:小さいがきちんと衛星として機能します。
衛星に限らず、「きぼう」エアロックを利用し他の実験機器も船外へ搬出します。通常、小型衛星はロケットに搭載するため、打上げ時の騒音や振動に耐えられるような強度を持たせることが求められますが、「きぼう」エアロックを使用する場合、打ち上げる物は貨物船の中で緩衝剤に保護された状態で運ばれるため、物自体には強度は必要ありません。簡単な作りでも宇宙空間できちんと観測をしているので、新しい宇宙の利用の形だと思いました。

室山氏:新しい宇宙開発の扉が開いた感じがします。大きな衛星の時代も続いていますが、新しい小型の衛星を群れで飛ばし、同じものを違う角度から見たり、レベルの高い観測ができるようになったり、部品も民生品のレベルが高くなっているのでそれも使用できたり、ということになります。宇宙開発の敷居が高いと聞いたことがあり、大きな衛星を作るには、莫大な資金が必要で大きな企業しか手が出せず、開発期間が10年近く掛かり、開発が終わり打ち上げた時には技術が遅れていることもある中で、2~3年で開発が可能な超小型衛星が出てくることにより、どこの企業でも参加できるようになり、宇宙開発の敷居が下がり、様々な産業が参入し宇宙開発をすることができるようになりました。つまり宇宙開発の裾野が広がっているということですね。

大西宇宙飛行士:これまで独力では人工衛星を打ち上げることができなかった宇宙途上国もエアロックを使用することで衛星事業に参入できているので、いい形で盛り上がっていると思います。


―小型衛星の技術は日本の十八番ではないか

大西宇宙飛行士:日本のモノづくりのいい部分が現れていると思います。宇宙から見た小さな日本は資源も少ない中で、なぜ世界のいろいろな国を相手に先進国という立場を得ることができ、その原動力となったものは何かと考えた時に科学技術なのではないかと思いました。日本人の持っている几帳面さを生かし、技術だけは世界の中でもトップレベルを走っている国になったことが今の日本の豊かさをもたらしていると思います。そういった姿勢はこれからも持ち続けるべきだと思い、日本の個性、良さがいい形で表れているミッションだと思います。


―小型衛星は学生の教育にも使用可能か

白川技術領域主幹:ブラジルが教育目的で衛星を製作し「きぼう」から放出しました。人材育成や教育に非常に価値があると思います。


―子どもたちが小型衛星などを通し宇宙に興味を持ち、文化を繋いでいくことを繰り返すと、日本はアジアの中で重要な国になれるのではないか

大西宇宙飛行士:本当にそう思います。宇宙はただのきっかけで良いと思います。子どもたちが宇宙をきっかけとして、科学に興味を持ち、その子供たちが将来大人になり、日本の科学技術を底上げしてくれればいいなと思います。


創薬 タンパク質結晶生成実験

―タンパク質の結晶とは何か

白川技術領域主幹:体を構成しているのがタンパク質です。そのタンパク質がどのような形をしているかを結晶にすることでよく見ることができます。

大西宇宙飛行士:宇宙できれいな形の結晶を生成し、地上に持ち帰った後に解析します。


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創薬のためのタンパク質結晶生成実験

―宇宙だと大きなしっかりした形の結晶ができるので、どんな形のタンパク質かを調べやすくなるということか

白川技術領域主幹:宇宙で生成した結晶は大きくはっきりしているためどのような結晶か分かるが、地上で生成した結晶は小さく構造がぼやけておりよく見えない状態となります。
悪さをする病気の元となるタンパク質の活性中心部と同じ形の薬がぴったりと合致した場合、タンパク質の悪さがなくなります。宇宙で生成された結晶は大きくはっきりしているため合致する薬を見つけやすいが、地上で生成された結晶のようにぼやけていると、いろいろな形の薬を試さなければならないので手間が掛かります。
実際に成果として挙がっているのは歯周病治療薬で、今取り組んでいるのは人工血液です。


―科学者から見て創薬の研究はどの位のインパクトがあるか

高橋先生:地上で実施すると時間とお金が掛かるが、いい結晶がきっちりできるとそれだけ手間が少なくなります。探す時間が少なくなり答えがすぐに見つかるので、そういう意味では非常に大きいです。


―新しい薬を見つけるのに、短距離で行けるということか

高橋先生:そうです。近道を通ることができます。


―今見た3つの柱はどれも日本がこれから大きな成果を上げ、成長戦略や世界の中での位置付けなどにおいて、どれも大きなカードになるという見方でいいか

白川技術領域主幹:その通りです。「きぼう」がこれまで蓄積してきた技術やユニークな機能をうまく使い、成長戦略や世界と対等な協力ができるということになります。


―「きぼう」がどういう世界を切り開くのか

大西宇宙飛行士:宇宙へ行った瞬間から感じるが、とてもユニークな実験環境でこんな実験環境は世界中のどこを探してもないので、それを利用し、これから「きぼう」でますます有意義な実験、研究が進むのではないかと思います。
マウスの研究にしても、「きぼう」の運用で得た宇宙で実験を行う際の独特のテクニックなどの蓄積が今回の成功につながったと思います。これからいろいろな研究成果が出てくることで、また興味を喚起して、これまでとは違うアイディアを呼び込み、それがいい意味で柔軟になることで、「きぼう」が活性化していくのではないかと思います。


―創薬の話は地上の人類のための開発だったが最後に話したいということは

白川技術領域主幹:マウスの研究で使用した遠心機は、「きぼう」にしかない動物用の遠心機だが、速度を緩めることにより月や火星の重力を作ることができます。月に長く居た時にどのような体の変化が起きるかなどを調べることで、宇宙人のための医学として、新しい発見ができるのではないかと思っています。


―これは人類が地球を離れて惑星や深宇宙へ展開していくことを想定しているのか

白川技術領域主幹:そうです。長期に地球と異なる環境に住んだ時にどんな体の変化が起こるかが分かるのではないかということです。ただ宇宙人のためだけでなく、生物の本来持っている隠された機能や環境適応能力、健康医療など、地球人のための医学にも生かせると考えています。


―宇宙での研究が地球へフィードバックすることだと思うがどうか

高橋先生:同じものだけ見ていても違いは分からないです。違いは何か対象があって初めて分かるので、宇宙でいろいろなものを調べたことにより、地上のいろいろな生物の対応の仕方が分かる可能性があります。
個人的な興味としては、マウスが宇宙にずっといた時にどんな進化を遂げていくか、非常に興味があります。「きぼう」の飼育装置を使用すればより長期な飼育ができるので、その時にさらにどんな変化が起きてくるのか非常に興味があります。


―ニュータイプの可能性は

高橋先生:環境の影響を受けて生き物は変わっていくので、あってもいいような気がします。

まとめ

室山氏:何か新しい扉が開きそうなことは分かりました。それには「きぼう」が足がかりになっていきそうなことも分かりました。

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左より大西宇宙飛行士、白川技術領域主幹、高橋先生

―「きぼう」に期待すること、JAXAに期待すること

高橋先生:日本の研究を推進していくことは必要だが、海外からも使いたいという声があります。マウスの飼育装置を使って、国際貢献を是非していただきたいです。

白川技術領域主幹:国際貢献という点では、アジアの国に対して日本の貢献が非常に大きいと思うので、「きぼう」が果たす役割が大きいのではないかと思います。


―人間がなぜ宇宙を目指すのか

大西宇宙飛行士:人間はより高いところ、より遠いところ、行ったことがないところへ行く、知らないことを知る好奇心、探究心が原動力になって今の文明を築いてきた生き物だと思っています。私たちの生活は便利になっているが、探究心を忘れると人間という種の進化が止まると思っています。なので、種として進化していき続けるためには、本能である探究心は常に持ち続けていかなければならないと思い、それを今ひとつの形として行っているのが宇宙開発だと思うので、これからもぜひ長い目で応援していただければいいなと強く思っています。


―会場の子どもたちへひとこと

大西宇宙飛行士:将来の宇宙開発を支えているのは君たちです。


室山氏:ある数学者が、次元が上がると問題が解決するよと言っていました。線の上でぶつかり合う問題は面にするとぶつからなくなって問題が解決する。面の上で出てきた問題は立体にすると解決する。つまり次元をひとつ上げると問題は解決するという理論です。
地上にはいろいろな問題があるが、宇宙という視点を加味した時に、何かが解決するかもしれないという感じがとてもします。それを探しているのではないかと思います。そういう目で一個一個耕して、どれが役に立つのかということを、地球を繋いでいくような作業を、日本がひとつひとつやっていったら、これは大した国になるぞと思います。ビジョンがしっかりと打ち立てられることを願いたいなと一市民として今日聞いていて思いました。

【クロージング】

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浜崎JAXA有人宇宙技術部門長

最後にJAXA有人宇宙技術部門長の浜崎敬理事より閉会の挨拶が行われました。


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展示パネル

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宇宙実験VR体験
KIBO SCIENCE 360

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船外活動ユニット(EMU)


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