ISS・きぼうマンスリーニュース第21号
最終更新日:2014年12月26日
トピックス
ISSに1年間滞在するクルーが記者会見を実施
ISSに1年間滞在する予定のスコット・ケリー(左)とミカエル・コニエンコ(右)両宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
2015年3月に打上げ予定の第43次長期滞在クルー3名のうち2名(NASAのスコット・ケリー宇宙飛行士、ロシアのミカエル・コニエンコ宇宙飛行士)が、およそ1年間の国際宇宙ステーション(ISS)滞在を行います。
12月18日にはパリの国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)本部にてふたりの記者会見が行われました。
同席した野口聡一宇宙飛行士は、ISSでの1年滞在は、生物医学研究での大きな成果が期待できると同時に、将来の宇宙探査に向けても、全世界にとって有益なことだとコメントしました。
宇宙で工具を製造
ISSの3Dプリンタで製造したラチェット・スパナを持つバリー・ウィルモア宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
NASAは、宇宙で必要な道具を作り出す技術実証試験として、地上から設計データを伝送してISS内にある3Dプリンタで工具(ラチェット・スパナ)を製造することに成功しました。
スパナは、幅約3cm、長さ約11cmの大きさで、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS樹脂)という材質を104層重ねて作られたものです。
地球からは設計データを送るだけで宇宙で必要なものを作り出すことができれば、より長期間の宇宙滞在やより遠くへの宇宙探査の可能性を大きく広げることになります。
今回の小さなスパナは有人宇宙活動にとって大きな飛躍のひとつとなるかもしれません。
宇宙で製造したものは来年初めに地上に回収し、地上で製造したものと比較する予定です。
なお、3Dプリンタは9月にドラゴン補給船運用4号機(SpX-4)で運ばれました。
宙亀日記第2話公開
2015年5月からISSへの滞在が予定されている油井亀美也宇宙飛行士の宙亀日記第2話を公開しました。
みなさまのコメントを投稿することもできますので、是非お読みになって感想や応援メッセージを油井宇宙飛行士に伝えてください。
若田×星出 特別対談企画 第1夜
日本人初の国際宇宙ステーション船長に就任した若田光一、NASA宇宙環境模擬訓練(NEEMO)で船長に任命された星出彰彦。国際的な現場でリーダーを経験したふたりの宇宙飛行士による、オトナのための特別対談が実現。
現場で求められるリーダーシップやコミュニケーション術のほか、ミッションの秘話も飛び出す本音トークの一夜をお楽しみください。
今月のきぼう
「きぼう」船内実験室運用開始から2395日経過しました
「きぼう」で始まる新たな実験
「きぼう」日本実験棟では、「宇宙環境での線虫の経世代における環境適応の研究」(Epigenetics)と「植物における回旋転頭運動の重力応答依存性の検証(Plant Rotation)」の開始が2015年1月以降に予定されています。
Epigenetics実験のエピジェネティクスとは、DNAの塩基配列は変化していないにも関わらず遺伝子の働き(発現)に変化が生じ、その変化が子孫の細胞にも受け継がれる現象で、これが老化、生活習慣病、体質、ガン化などにも大きく影響していることが分かってきています。本実験は、宇宙で世代交代が繰り返されたとき、核やミトコンドリアのゲノム遺伝子のエピジェネティックな変化と宇宙環境への適応応答機構を明らかにすることが目的です。約4日間で成虫になる線虫の世代交代を行わせ、4世代分のサンプルを凍結して地上に回収します。
本実験の成果は、生物が宇宙で世代を重ねる場合に子孫に問題が生じた場合の対策法を開発することに繋がります。また、見つかった因子を応用して薬剤等の開発、メタボリック症候群や2型糖尿病など、さまざまな病気の予防にも貢献できることが期待されます。
線虫の顕微鏡写真。線虫は、からだが透明で、成虫で1mmの大きさ。
(出典:東北大学)
Plant Rotation実験は、植物の茎や根の首振り運動と重力の関係を調べる実験です。植物の茎や根が首(先端部)を振り、回旋しながら伸長する「首振り運動」を行うことが知られています。この実験では微小重力環境においてイネとアサガオの首振り運動を観察することで重力の影響を調べます。
本実験の成果は、地球上での植物生産の効率的な成長制御法や、植物の姿勢を理想的に変化させる技術に応用することができます。また、宇宙での食糧維持システムの構築に貢献します。
米国の超小型衛星が「きぼう」から放出
放出されたSpinSat(出典:JAXA/NASA)
11月28日には米国のSpinSatと呼ばれる超小型衛星が「きぼう」から軌道上に放出されました。SpinSatは直径約56cm、重さ約50kgの球体の衛星で、NASAが開発したCyclopsと呼ばれる衛星放出機構に取り付けられた後、「きぼう」のエアロックを通じて船外に搬出され、「きぼう」のロボットアームにより放出位置まで移動されました。
今月の国際宇宙ステーション(ISS)
最初のISS構成要素打上げから5880日経過しました
第42次長期滞在クルー
バリー・ウィルモア(NASA)、アレクサンダー・サマクチャイエフ(ロシア)、エレナ・セロヴァ(ロシア)宇宙飛行士のISS滞在は91日経過しました。テリー・バーツ(NASA)、アントン・シュカプレロフ(ロシア)、サマンサ・クリストフォレッティ(ESA)宇宙飛行士のISS滞在は32日経過しました。
ドラゴン補給船運用5号機(SpX-5)打上げ迫る
第42次/第43次長期滞在クルーのサマンサ・クリストフォレッティ宇宙飛行士が撮影した地球の光景(12月9日撮影)(出典:JAXA/NASA)
ISSに接近するドラゴン補給船(写真は4号機)(出典:JAXA/NASA)
国際宇宙ステーション(ISS)では、第42次長期滞在クルーによって、さまざまな実験やシステム機器のメンテナンス作業が日々行われています。
NASAの実験のひとつとして、Astro Palateと呼ばれる、クルーの気分・ストレスと食事の関連性を調べる実験が行われています。この実験では、食事のメニューが選択可能かどうかや、一緒に食事を取る人数の違いによって、食事の摂取量や満足度に変化が表れるかどうかを調べています。気分やストレスは活動の質に影響するだけでなく、身体の健康にも関わってくることから、クルーが健全に活動する上で、食事を取る環境の面からもストレスを低減することが大切だと考えられています。
実験以外の作業としては、2015年1月に計画されている米国の船外活動に向けた準備が進められています。クルーは、船外活動ユニット(EMU)の事前のメンテナンス作業や、船外活動で使用する工具の動作確認などを行っています。
また、ドラゴン補給船運用5号機の打上げが間近に迫っていることから、ドラゴン補給船の到着に備えて、ISSに接近した補給船をISSのロボットアームで把持するシミュレーション訓練も行っています。
ドラゴン補給船運用5号機の打上げは、2015年1月6日以降に予定されています。
ドラゴン補給船では、JAXAの関連品として、「きぼう」日本実験棟で実施する「宇宙環境での線虫の経世代における環境適応の研究」の実験サンプルや「植物における回旋転頭運動の重力応答依存性の検証」の実験キットがISSに運ばれる予定です。
また、「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されるCATS(Cloud-Aerosol Transport System)と呼ばれる、大気中のエアロゾルや雲などを観測するNASAの装置も運ばれる予定です。
コラム:ISSでのクリスマス
クリスマス気分を味わうサマンサ・クリストフォレッティ宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
ISSでも飾り付けをしてクリスマスを楽しんでいます。そして最大の楽しみは補給船によって届けられるプレゼント、手紙、特別な宇宙食などでしょう。しかし打上げが延期になると年明けの到着となります。
昨年はシグナス補給船(Orb-1)の打上げが12月から1月に延期になりましたが、今年もドラゴン補給船(SpX-5)の打上げが12月から1月に延期になったため、プレゼントはお預けになったようです。
現在、ISSにあるクリスマスツリーは、2009年12月のソユーズ宇宙船(21S)に搭乗した野口宇宙飛行士達が運び込んだものが使われています。