このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。
<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。
スプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(Global Lightning and sprIte MeasurementS on JEM-EF: JEM-GLIMS)は、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに設置されているポート共有実験装置(Multi-mission Consolidated Equipment: MCE)に搭載されています。本年7月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられた宇宙ステーション補給機「こうのとり」3号機(HTV3)によってISSに送られ、8月9日に日本実験棟「きぼう」の船外プラットフォームに宇宙飛行士によって取り付けられ、この度、初の観測データを取得しました。
大阪大学・北海道大学・近畿大学・スタンフォード大学・極地研究所・大阪府立大学・東北大学・電気通信大学が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発したJEM-GLIMSは、高空間分解能をもつCMOSカメラ、高時間分解能をもつ測光器(フォトメタ)、VLF帯・VHF帯電波受信器によって、雷放電とスプライトを世界に先駆けて真上から継続的に観測します。この真上観測によって、地上観測データからの導出が困難であった雷放電とスプライトの水平方向の空間分布と時間的な発達過程を、詳細に調べることができます。さらに宇宙空間から真上観測することによって、地球大気による吸収・散乱の影響をほとんど受けることが無いため、発光強度を精度高く求めることができます。これまでJEM-GLIMS各機器の初期機能確認を終え、全ての観測装置の状態が正常であることを確認しています。
下図は、2012年11月27日午後11時51分44.408秒(日本時間)にJEM-GLIMSが観測した、マレーシア上空で発生した雷放電発光を真上からとらえたCMOSカメラ画像データです。雷放電発光は、空間的に非一様な複雑な分布をしており、約20 kmの空間的拡がりをもっていることが分かります。さらに、この雷放電では近紫外線の強い発光が波長150-280nmのチャネルで検出されています。雷放電が発する高度20 km以下からの近紫外線の光は、大気中のオゾンなどによってほとんど吸収されてしまい、国際宇宙ステーションが飛翔する高度400 kmには到達しません。このため、近紫外線が検出されたことは、雷放電よりもより高い高度での発光、つまり、高高度放電発光現象の発生を示唆しています。この妥当性を今後の研究によって検証していく予定です。このように、雷放電と高高度放電発光を高精度に真上観測するのは、JEM-GLIMSが世界で初めてです。
今回お知らせする観測例は、データの品質検証を行う前のものです。JEM-GLIMS研究チームとJAXAは、今後も連続的な観測を継続し、スプライトなどの高高度放電発光現象の検出を目指します。また、地上雷放電観測データとの比較によって、JEM-GLIMSで観測した高高度放電発光現象を引き起こした雷放電の電気的特性を明らかにしていきます。さらに、世界各国の研究者と連携し、JEM-GLIMSと地上光学観測器による高高度放電発光現象の同時観測も実施する計画です。
【牛尾知雄 大阪大学・准教授(JEM-GLIMS代表研究者)のコメント】
JEM-GLIMSミッションは、2007年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォーム第二期ポート共有利用ミッションの一つとして選定されて、本年7月に無事打ち上げることができました。関係者の方々には感謝したく思います。今回の初期観測により機器の正常動作を確認することができ、またそれらのデータには非常に興味深い点が含まれています。今後、本ミッションにより、雷放電および高高度放電発光現象に関する大きな成果が期待されます。
JEM-GLIMSが観測ターゲットとしているのは、高度約10 km以下の対流圏で発生する「雷放電」と、雷放電に伴って、高度約20-90 kmで発生するスプライト、エルブス、巨大ジェットなどとよばれる「高高度放電発光現象」です。高高度放電発光現象は、約20年前に発見されましたが、カラム型やキャロット型などの違いを生む原因、雷放電の真上からの位置のずれを生じる原因、カラム型スプライトの本数を決める原因など、これら「スプライトの発生条件と発生メカニズム」については未だに謎とされています。これを解決する最も有効な手段が、高高度放電発光現象を宇宙空間から真上から観測する方法です。この手法によって、地上からの光学観測では推定が困難であった、雷放電や高高度放電発光現象の、空間分布や時間的な発展、親雷放電との位置関係などを容易に明らかにすることができるからです。
さらに、国際宇宙ステーションが飛翔する南緯51度から北緯51度の領域をJEM-GLIMSによってくまなく掃引観測することによって、TRMM衛星搭載LISの雷観測で得られた結果のように、高高度放電発光現象の発生分布と頻度を高い精度で求めることが出来ます。これによって、高高度放電発光現象が地球の大気組成の変化やオゾン化学に対してどのような影響を及ぼしているかを定量的に推定できると期待されます。
JEM-GLIMSの観測装置を図6に示します。JEM-GLIMSは大きく分けて、2式の光学観測器と、2式の電波受信器、およびそれらを制御する制御ユニット1式で構成されます。光学観測器は、CMOSセンサーを用いた雷放電・スプライト観測カメラ(LSI)2台と、光電子増倍管およびフォトダイオードを用いたフォトメタ(PH)6台で構成されています。 LSIは500 m/pixの空間分解能で、主に雷放電と高高度放電発光現象の発生形態をとらえるのに対し、PHは0.05 msの高い時間分解能で絶対発光強度を測定します。これらによって、雷放電と高高度放電発光現象の時間・空間変化を精密観測します。
一方、電波受信器は、VLF帯電波受信器(VLFR)1台と、2台のアンテナ部と1台のエレクトロニクス部で構成されるVHF帯電波受信器(VITF)で構成されます。VLFRは、雷放電起源のVLF波動が電離圏で伝搬モードが変換され、ISS高度まで伝播するホイッスラー波となり観測されます。VITFは、約1.5m離れて設置した2台のアンテナによって雷放電励起のVHF帯電波パルスを受信し、干渉計として用いることで波動の放射源を特定することができます。VITFのアンテナ部の写真を図7に示します。これらの理学観測機器の電源制御、データ取得、イベントトリガ、データ圧縮を行い、上流機器とのコマンド受信、テレメトリ送信、データ転送などのインタフェースを担う機器が、理学機器制御ユニット(SHU)です。JEM-GLIMS全体のシステム構成図を、図8に示します。
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency | SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約 |