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トップページ > JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在 > 大西卓哉宇宙飛行士 > 大西宇宙飛行士ISS滞在日記 > 2016/11/03
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2016年11月 3日
ソユーズでの帰還について書きます。
10/29 Part 1
夕食までは当日の投稿をご覧ください。
夕食後は、私とアナトーリでソユーズのアンドッキングの準備を行うことになっていましたが、帰還モジュールへの荷物の搭載が予定より遅れていたため、アナトーリはそちらにかかりきりになっていて、私がほぼ1人で行いました。
ISSとソユーズの間の換気ダクトの取り外しや二酸化炭素除去用カートリッジのセットアップ、ISS電源からソユーズ太陽電池への電源切り替え、ソユーズの起動、各種パラメーターの確認などです。
ISSとドッキングしている間はISSのシステムに依存していた空調や電源システムを、ソユーズ単独での飛行に向けて、ソユーズのシステムに切り替えていくのが目的です。
4か月間眠っていたそれらの機能が、次々に目を醒ましていきます。
それらの作業を予定通りの21時までに終え、それから慌ただしく私は自分の個室に戻ってソコル宇宙服用の下着と圧縮下着のケンタウルスーツを着用しました。
ハッチクローズは21時半なので、21時15分からハッチクローズセレモニーが行われることになっています。
よく中継で皆さんもご覧になる、出発するクルーと残るクルーがお別れをする場面です。
体液が下半身に落ちるのを防ぐために下半身を圧迫するのがケンタウルスーツですが、それを両ふくらはぎ、腰の部分に装着して、その上から緑色の下着を着用します。
この下着はクルーによって色が異なるのですかね。
ジェフたちは青や灰色だったように思いますが、私たちのは緑でした。
第49次のミッションパッチの色に合わせたのかな。
21時05分頃には着替えを終えてホッと一息。
ソユーズの起動をもっと余裕を持って終わらせるつもりが、ぎりぎりになってしまったので、ここまでバタバタになってしまいました。
でも15分のセレモニーにはまだ十分間に合います。
最後に「きぼう」を見納めにと、船内実験室から船内保管室まで一通り目に焼き付けました。
ソユーズに戻ると、アナトーリがハッチを閉めるための準備をしています。
気密性を維持するためのパッキンをワイプで拭いて、ゴミを取り除いています。
私がソユーズの居住モジュールに必要なものが全て揃っていることを確認しているとケイトもやってきました。
ハッチの向こうでシェインがアナトーリをハグしています。
私はその様子を、ハッチクローズセレモニーまでにはまだもう少しあるのに気が早いなと見ておりました。
アナトーリがソユーズ内に戻ってきて、シェインが
「タク、またな!」
と手を振りました。
みんな気が早いなあと思いつつも、何だか周りのただならぬ雰囲気にこれはおかしいと私も胸騒ぎがし始め、ケイトに
「まだ時間あるよね?閉めないよね?」
と聞くと、
「もう行くわよ!」
と一言。
え? え? だってハッチクローズ30分のはず。
「いや、アナトーリはまだ下着も着替えてないよ」
と、この時点でまだ普段着のアナトーリの指さすと、そのアナトーリが(何を言っているんだ)とばかりに、
「おれの下着は、ほら、そこだ」
と指差す先には、いつの間にか居住モジュールの中に例の緑色の下着がちゃっかり1セット置かれてあります。
ええええええええーーーーーーーっ!???
と慌てる私をよそに、ハッチをいそいそと閉め始めるアナトーリ。
そ、そんな、シェインたちにハグはおろか、さよならも言っていません(;゛゜'ω゜')
そんなバカなことが・・・!!
とはいっても、今更閉まっていくハッチの向こう側に飛び出していくわけにもいかず、とにかくシェインたちに向かって手を振って
「またねー!」
と叫びましたがセルゲイやアンドレイには届いたかどうか・・・
ゴーンとハッチが閉まってアナトーリがそれにロックをかけて、彼らの姿は見えなくなってしまいました。
何たる不覚、というか何という後味の悪さ(; ̄ー ̄A
いやー、それにしてもバタバタのハッチクローズでした。
泣いても喚いても、閉まってしまったものはどうしようもありません。
それに、私たちには地球に還るという大切な仕事が待っています。
と、気持ちを切り替え、アンドッキングに向けた作業開始。
ハッチクローズからアンドッキングまでは3時間あるのですが、その間にやることは沢山あります。
まずは、ISSとソユーズの間のリークチェック。
ISS側とソユーズ側のハッチの両方を閉めた状態ですが、その間の空間の気密性をチェックします。
例えばISS側のハッチがしっかりと閉まっていなかった場合、ソユーズがそのままアンドッキングしてしまうと、ISS内の空気がどんどん宇宙に漏れていくことになります。
3人とも一旦帰還モジュール(カプセル)に入り、居住モジュールとの間のハッチを閉め、それからISSとソユーズの間の空気を抜きます。
当然その部分の空間の気圧はほぼ真空になりますが、その状態で30分程度気圧の上昇がないかとチェックします。
気圧が上昇すると、ISSかソユーズのどちらかから空気が漏れていることになります。
そのチェックと並行して、交替ごうたいでソコル宇宙服を着用していきます。
まず最初にケイト。
ところが、先のリークチェックの経過があまりパッとしません。
最初のチェックで15mmhgだった気圧が、10分程度で16mmhgまで上がりました。
気密性ありと見なす基準である、30分で1mmhg以下の気圧上昇を、最初の10分で使い切った勘定になります。
これは空気が漏れているのか?という疑念が頭をよぎります。
案の定、20分時点での気圧上昇は1.5mmhgと、基準を上回ってしまいました。
セオリーでは、ISSとソユーズの間の空間を再加圧して、一旦両方のハッチを開けて、再度しっかりと閉めなおすことになります。
そうすれば、シェインたちに改めてちゃんとお別れが出来るな、という思いが一瞬頭をかすめましたが、いやいや、それをやっていてはとても予定の時刻にアンドッキングすることは出来ません。
モスクワの管制センターの判断は、「そのままリークチェック継続」でした。
念のため10分時間を延長して、40分後の気圧を再確認したところ、合計で2mmhgの上昇でした。
その結果を受けてのモスクワの判断も、やはり「継続」です。
元々の1mmhgという基準は、かなり安全サイドで設定された値のはずなので、まあ妥当な判断でしょう。
リークチェックの経過が不透明だったので遅れ気味だったソコル宇宙服の着用を再開しました。
ケイトの次に私です。
着る前に、最後の塩タブレットを摂取して、合わせて酔い止めの薬を服用。
ちなみにこの酔い止めは、地上に降りてから用のものです。
それとトイレも済ませておきました。
これから着陸まで5時間以上トイレを使うことは出来ません。
アナトーリの助けを受けながら、狭い居住モジュール内でソコル宇宙服の着用を終えました。
最後にアナトーリが着替え。
3人が着替え終わった頃には、予定時刻を10分ほどオーバーしていました。
リークチェックがすんなりいかなかったので、致し方ありません。
ソコル宇宙服に身を包んで、3人とも帰還モジュールに着座します。
アナトーリが、居住モジュールとの間のハッチを閉めました。
このあと、全てが順調に行けば、このハッチが次に開くのは着陸後です。
地上の救援チーム隊が開けてくれることになるでしょう。
アンドッキングに向けた準備を進め、ソコル宇宙服の気密性を確認し、3人とも異常なし。
次に行うのは、先ほどアナトーリが閉めたハッチのリークチェックです。
そのハッチがしっかりと閉まっているか、居住モジュールの空気を少し抜いて、これまた時間をおいて確認することになっています。
大気圏に突入する時は、この帰還モジュールだけになりますからね。
このハッチが生命線です。
幸い、こちらのリークチェックは全く問題なく通過し、これでほぼアンドッキングに向けた準備は終了したことになります。
ソコル宇宙服に身を包んでいると暑く、汗が次から次へと沸いてきました。
アンドッキングまでの残りの時間で、音声通信で今後のデータを地上の管制センターからもらいます。
ちなみに、管制センターで通信官を務めてくれているのは、星の街でずっと私たちのクルーを担当してくれたインストラクターのスラヴァさんです。
馴染みの声を聞けるので、緊張感のある場面でも不思議と安心感があります。
このロシア式のやり方はとても好きですね。
最新の軌道情報や気象情報に基づく、軌道離脱噴射の時刻やエンジンの噴射時間、パラシュート展開予定時刻など、膨大な量のデータを音声で受信し、私たちはそれをひたすら手順書に書き込んでいくことになります。
私はISSにいる間に全て書き写していたので、この場ではダブルチェックだけをしていきました。
そうこうしているうちに、もうアンドッキングの時間が迫っていました。
3時間あったはずの時間はどこへやらです。
私の座る席の左手についている窓から、角度はありますがかろうじてISSが見えます。
アンドッキングすると外を見ている余裕はないので、今のうちにその姿を目に焼き付けておこうと、窓の日除けを上げました。
4か月前、7月9日に同じようにこの窓から見たままの姿でISSが見えました。
あの、初めてISSをこの目で見た時の感動は、私は一生忘れないと思います。
アンドッキングの時間になり、私が操作パネルからドッキング機構のフックを外すコマンドを送ります。
ジーーーーーッというゼンマイのような音がカプセル内に響き渡り、ISSとソユーズを4か月間繋いでいたアンビリカルが外れていきます。
コマンドを送ってから1,2分だったでしょうか。
短いような、長いような時間が経ち、ゴトッという音と共にソユーズがフワリと漂ったのがわかりました。
ほとんど加速は感じませんでしたが、バネに押されて秒速10センチほどのゆっくりしたスピードでISSから遠ざかり始めました。
(続く)
すみません、一気に着陸まで書くつもりでしたが、今日もリハビリで鬼コーチにしごかれたのでこれで落ちます。
懸垂から腕立て伏せへのコンボでやられました。
他には、つい数週間前にISSでやったVascular Echo研究の帰還後データ取りがありました。
これは難易度の高い超音波検査で、ISSでは苦戦しましたが今日は研究者の方が検査をしてくれるので私は寝ているだけで済みました。
とは言っても、いまはベッドで寝ていたり椅子に座っているだけでも背中やお尻が痛くなりますが。
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