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トップページ > JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在 > 大西卓哉宇宙飛行士 > 大西宇宙飛行士ISS滞在日記 > 2016/07/30
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2016年7月30日
7/29
ここ数日、多くの方々に地上からISSをご覧頂いたようで嬉しいです。 応援本当にありがとうございます。
それに関連して、昨日書き忘れたことがありました。
昨日のお昼過ぎ、約2日半ぶりに夜が訪れました。
26日の深夜1時前に日が沈んでから、28日の13時過ぎまで、完全に空が暗くなることがなかったのです。
業界用語で「ハイベータ期間」というのがあるのですが、今はその期間で、これはどういうことかと言うと、ベータ角と呼ばれる角度が高い期間のことです。←そのまんま
上手く説明するのが難しいのですが、ISSは地球の赤道に対して50度ちょっと傾いた軌道を飛んでいます。
また、地球の軸も太陽に対して20度ちょっと傾いています。
そのせいで、1年のうち限られた期間、こういったことが起こります。
ISSが太陽からの光が完全に届かないエリアを飛ぶことがなくなるんですね。
地上でも高緯度地方で白夜という現象が起こりますが、それと似たような感じです。
これは逆に言うと、地上からISSを見る絶好の好機になります。
地上が夜でも、ISSには太陽の光が当たっている状態なので、その光を反射してよく見えるというわけです。
もうベータ角のピークは越えたようですが、まだISSを見るチャンスはしばらくあると思うので、ぜひご覧下さい。
意外と速いですよ(^^)
ただ、残念ながら日本が夜の間はISSでは勤務時間のことがほとんどなので、私はなかなか日本を見られていません。
ISSではグリニッジ標準時で生活しています。
今日のISSも忙しい1日でした。
ジェフは、来月の船外活動に向けた準備や来週のFluid Shift実験の準備、ケイトはNASAの細胞実験、私は来週行われるAirway Monitoring(エアウェイ・モニタリング)という実験の下準備がメインでした。
ケイトのやっている細胞実験、非常に面白そうです。
アメリカの実験棟にあるグローブボックスと呼ばれる密閉された空間の中でグローブ越しにサンプルを取り扱う実験用の設備で行うのですが、人間の心臓細胞などを培養しています。
私も画像を見せてもらいましたが、細胞が鼓動のように脈打ってるんですよね。
宇宙飛行士になる前は生化学の研究者だっただけに、本当に嬉しそうに実験に携わっています。
ただ、一度スイッチが入って実験について熱く語り始めると、内容が高度すぎてとても私にはついていけなくなるんですよね。
今度もっと簡単な言葉で実験の意義などを教えてもらわないと。
と、そんなことを書いてうちに個室の外から声がすると思ったらジェフでした。
深夜1時近いのですが、ISSのシステムの警報が鳴って起こされたようです。
地上と交信して、大事ではないようです。
クルーの就寝中は、警報システムはISSコマンダーの個室のスピーカーしか鳴らないようになっています。
警報の中には、クルーにとっては影響のないものも多いからです。
もちろん、緊急事態が起こった場合は全クルーの個室のスピーカーが鳴ります。
コマンダーは夜も大変です。
さて、私が準備していたエアウェイ・モニタリングという研究ですが、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が今回の長期滞在の主研究と位置づけている、非常に大掛かりなものです。
宇宙でほこりなどによる気管支炎や肺の炎症などの呼吸器系の疾患を、呼気中の一酸化窒素濃度を測定することで診断できないかという可能性を探るものです。
そうして得られた知見は、地上での同種の病気の診断や治療にも役立てられることが期待されています。
何が大掛かりかというと、エアロックを使用して減圧した状態のデータを取ることになっています。
このエアロックは、もちろん人間用のエアロックで、「きぼう」のものとは異なります。
これは将来の有人宇宙探査を見据えたもので、そこで使用される宇宙船は船内圧力が1気圧よりも低い圧力に保たれる可能性があるからです。
今日はまずこのエアロックを実験用のコンフィギュレーションに変更するために約2時間。
実験機器を搬入するためのスペースを確保するために、予備の船外活動服などをコロンバスモジュールに移したり、エアロック内の荷物を整理しました。
続いて、実験機器のセットアップにこれまた2時間。
非常に複雑なセットアップで、宇宙飛行士の中でも悪名高い手順です。
実際に担当してみると、確かに手順書を追っていくのも大変です。
これは手順書に問題があるというより、装置そのものが複雑なので仕方がないでしょう。
ケーブルの配線を間違えないように、慎重に慎重に何度も確認しながら進めました。
最終的にセットアップを完了し、ミュンヘンの管制センターが地上から機能チェックを始めました。
数時間後の定例交信でミュンヘンから「機能チェックが正常に完了した」という連絡があったときは、思わずガッツポーズでした(^^)
月曜日は、実際のエアロックを減圧し、この実験機器で測定を行うことになっています。
それでは皆さん、どうぞ良い週末を。
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