最終更新日: 2012年11月28日
星出宇宙飛行士長期滞在総括
長期滞在の概要
射点にて、打上げ前の星出宇宙飛行士ら第32次/第33次長期滞在クルー(出典: JAXA/NASA/Carla Cioffi)
地球へ帰還し、笑顔で答える星出宇宙飛行士(出典: JAXA/NASA/GCTC/Andrey Shelepin)
星出宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)第32次/第33次長期滞在クルーとして、日本時間2012年7月17日から 2012年11月19日まで、ISSに約4ヶ月間滞在しました。
ISSに長期滞在した日本人宇宙飛行士としては、若田、野口、古川宇宙飛行士に続き、星出宇宙飛行士で4人目となりました。
星出宇宙飛行士は、長期滞在の間に、数多くの宇宙実験を実施し、ISSへの補給物資を運ぶ宇宙機に関わる作業や3回の船外活動を行うなどISSの維持管理の作業を実施しました。
宇宙服のリークチェックと、座席のフィットチェックを行う星出宇宙飛行士(出典: JAXA/NASA)
星出宇宙飛行士は、打上げ・帰還ともに、ソユーズTMA-05M宇宙船(31S)に搭乗しました。
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31Sミッション
■滞在日数およびソユーズTMA-05M宇宙船(31S)打上げ・帰還日時
項目 |
実績 |
打上げ日時
(打上げ場所: バイコヌール宇宙基地) |
2012年7月15日午前11時40分(日本時間)
2012年7月15日午前8時40分(バイコヌール時間)
2012年7月15日午前6時40分(モスクワ時間)
2012年7月14日午後9時40分(米国中部夏時間) |
ISSへのドッキング日時 |
2012年7月17日午後1時51分(日本時間)
2012年7月17日午前8時51分(モスクワ時間)
2012年7月16日午後11時51分(米国中部夏時間) |
ISSからの分離日時 |
2012年11月19日午前7時26分(日本時間)
2012年11月19日午前2時26分(モスクワ時間)
2012年11月18日午後4時26分(米国中部標準時間) |
軌道離脱噴射開始 |
2012年11月19日午前9時58分(日本時間) |
大気圏突入 |
2012年11月19日午前10時29分(日本時間) |
パラシュート展開 |
2012年11月19日午前10時38分(日本時間) |
帰還日時
(帰還場所: カザフスタン共和国) |
2012年11月19日午前10時56分(日本時間)
2012年11月19日午前5時56分(モスクワ時間)
2012年11月18日午後7時56分(米国中部標準時間) |
ISS滞在時間(ドッキング~分離) |
124日17時間35分 |
宇宙滞在時間(打上げ~着陸) |
126日23時間16分 |
着陸したソユーズTMA-05M宇宙船(31S)と捜索隊のトラック(出典: JAXA/NASA/Bill Ingalls)
ISS滞在中の主な活動
船外活動を行う星出宇宙飛行士
星出宇宙飛行士は、「きぼう」日本実験棟はもとより、ISSでの日本以外の宇宙実験にも数多く携わりました。
また、エアロックとロボットアームを合わせ持つ「きぼう」のユニークな機能を活用し、「きぼう」から小型衛星を宇宙空間に放出するという小型衛星放出技術実証ミッションを実施しました。
日本人宇宙飛行士としては、宇宙ステーション補給機「こうのとり」を初めて出迎えたほか、ドラゴン補給船運用1号機(SpX-1)の把持、係留、物資の搬入搬出、そして放出する運用にも関わりました。
欧州補給機(Automated Transfer Vehicle: ATV)3号機の物資の移送や固定作業、ISS内の不要品を回収して廃棄に備えて積み込む作業やプログレス補給船の到着時のサポートや物資の搬入作業等に関わりました。
ISS長期滞在中には、日本人宇宙飛行士の長期滞在中としては初となる船外活動を3回実施し、ISSの運用を継続する上で重要な船外機器の交換作業などを行いました。
その他、ロシアクルーによる船外活動の際には、エアロック操作などを支援しました。
広報活動としては、地上との交信やツイート、ラジオ番組への出演、ISSからの生放送など、様々なイベントに参加しました。
ISSでの実験
星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在中に以下の通り数多くの実験に携わりました。
タンパク質結晶の成長速度を詳細に測る“その場”観察実験(NanoStep)
NanoStep実験の準備作業を行う星出宇宙飛行士
ISSにおけるタンパク質結晶成長の“その場”観察を世界で初めて開始し、レーザー干渉計を使った宇宙での結晶成長速度測定を実施するためのサポートを行いました。
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タンパク質結晶の成長速度を詳細に測る“その場”観察実験を世界で初めて開始
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タンパク質結晶の成長速度を詳細に測る“その場”観察実験(NanoStep)
国際宇宙ステーション内における微生物動態に関する研究(Microbe)
空気サンプリング装置とパーティクルカウンタと呼ばれる微粒子の大きさを計測する計測器を作動させて「きぼう」内の微生物を採取する作業や、サンプリング装置のフィルタに付着したサンプルを地上に持ち帰るために、密封バッグに入れる作業などを実施しました。
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国際宇宙ステーション内における微生物動態に関する研究(Microbe)
植物の抗重力反応機構-シグナル変換・伝達から応答まで(Resist Tubule)
シロイヌナズナの種が入れられた容器に給水するなど、シロイヌナズナを発芽させるための作業を行い、容器を細胞培養装置に移し、発芽後に微小重力環境に設置していたサンプルと疑似的な重力環境に設置していたサンプルを取り出し、化学固定して冷凍・冷蔵庫に保管する作業を実施しました。
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「植物の抗重力反応機構-シグナル変換・伝達から応答まで(Resist Tubule)」実験を開始
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植物の抗重力反応機構-シグナル変換・伝達から応答まで(Resist Tubule)
メダカにおける微小重力が破骨細胞に与える影響と重力感知機構の解析(Medaka Osteoclast)
Medaka Osteoclast実験の準備作業を行う星出宇宙飛行士
「こうのとり」3号機で運ばれた水棲生物実験装置(Aquatic Habitat: AQH)の組立作業を行い、メダカを搭載したソユーズ宇宙船(32S)が到着すると速やかにメダカをAQHに移し、長期飼育実験を開始しました。メダカを飼育する間、定期的に水槽内の水の水質検査や試料採取などを実施しました。
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メダカにおける微小重力が破骨細胞に与える影響と重力感知機構の解析を開始
ISS長期滞在中に被験者として実施した主な医学実験
ENERGY実験のデータ取得を行う星出宇宙飛行士
星出宇宙飛行士が被験者となり、食べた物を記録したり、定期的に自分の身体の様々なデータを取得してそのデータを地上に送ったり、サンプルとして髪の毛を冷凍・冷蔵庫に保存する等を行いました。
実験 |
実施 |
Astronaut's energy requirements for long-term space flights(ENERGY) |
ESA |
食事摂取から予想・予防できる宇宙飛行中および回復期間の骨代謝の変化(Pro K) |
NASA |
統合的心血管(Integrated Cardiovascular: ICV)実験 |
NASA |
長期宇宙滞在中の概日リズムの変化についての研究(Circadian Rhythms) |
ESA |
長期宇宙飛行時における心臓自律神経活動に関する研究(Biological Rhythms) |
日本 |
宇宙医学実験支援システムの機能検証(ODK) |
日本 |
宇宙飛行士の被曝線量計測(Crew PADLES) |
日本 |
長期宇宙滞在宇宙飛行士の毛髪分析による医学生物学的影響に関する研究(Hair) |
日本 |
長期滞在ミッション中、および その前後の酸素摂取量の変化を調査する研究(VO2max) |
NASA |
軌道上での効率的なエクササイズ方法の検証(Integrated Resistance and Aerobic Training Study: SPRINT) |
NASA |
周期的な健康状態に関する研究「PHS(Periodic Health Status)/Without Blood Labs exam」 |
NASA |
文化・人文社会科学利用パイロットミッション
◆ 宇宙でのびやかに暮らそうプロジェクト ~無重力下における心理・動作からみた宇宙建築の居室規模計画に関する基礎研究~
当実験は、「きぼう」日本実験棟において、星出宇宙飛行士とサニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士により実施されました。
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宇宙でのびやかに暮らそうプロジェクトが実施されました
◆ 手に取る宇宙 ~Message in a Bottle~
宇宙の真空を詰め込むボトルが入ったボトルカバーへ署名を入れ、メッセージビデオを撮影しました。(ボトルは、親アーム先端取付型実験プラットフォーム(Multi-Purpose Experiment Platform: MPEP)に取り付けて宇宙環境に曝露した後、船内に回収しました。)
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手に取る宇宙 ~Message in a Bottle~
小型衛星放出技術実証ミッション
星出宇宙飛行士は、エアロックとロボットアームを合わせ持つ「きぼう」日本実験棟の機能を活用して「きぼう」から小型衛星を宇宙空間に放出する運用手順を確立することを目的とした「小型衛星放出技術実証ミッション」を、「きぼう」の運用管制チームと連携しつつ遂行しました。
小型衛星放出技術実証ミッションの準備を行う星出宇宙飛行士
HTV3で運ばれた放出する小型衛星の点検や小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer: J-SSOD)の組み立て、点検およびエアロックへ設置し搬出する作業などを行いました。
小型衛星放出技術実証ミッションでは、5機の小型衛星を2回に分けて放出しましたが、1回目の放出は、「きぼう」船内にいる星出宇宙飛行士がコマンドを送信しました。
2回目の小型衛星放出は、「きぼう」運用管制室からのコマンドにより実施され、星出宇宙飛行士はその様子をモニタしました。
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「きぼう」から小型衛星を放出
ISSでの運用
星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在中に以下の通り、船外活動や宇宙機への対応等、数多くの作業に携わりました。
船外活動
SSRMSの先端に乗って移動する星出宇宙飛行士
星出宇宙飛行士は、日本人宇宙飛行士の長期滞在中としては初めてとなる米国の船外活動を、NASAのサニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士と実施しました。
当初は1回の予定しかありませんでしたが、作業が完了しなかったため追加が行われ、帰還前にもう1回の追加実施が行われました。
実施回数として野口宇宙飛行士と並ぶ最多の3回、活動時間の合計は、日本人として最長となる21時間23分となりました。
◆ US EVA18
実施日: 日本時間8月30日~31日(作業時間: 8時間17分)
1回目の船外活動では、電力切替装置(Main Bus Switching Unit: MBSU)#1の交換作業を予定していました。ところが、MBSUの予備品を固定するボルトが規定通りに締まらない事態が発生しました。
星出宇宙飛行士は、地上スタッフに状況を伝えて対応策を試してみるもののそれもうまくいかず、仮留めを行い、次回に持ち越しとして、1回目の船外活動を終了しました。
(他に多目的研究モジュール(Multipurpose Laboratory Module: MLM)の到着に備えた電源ケーブルの敷設作業(予定していた2本のうち1本)などを実施)
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1回目の船外活動を開始
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1回目の船外活動を終了
US EVA18終了後、MBSUの取り付けを完了するための船外活動を、US EVA19として、日本時間9月5日から6日にかけて実施することが決定されました。
◆ US EVA19
実施日: 日本時間9月5日~6日(作業時間: 6時間28分)
2回目の船外活動では、ISSで制作した船外活動用工具「MBSU Cleaning Tools」を持って、未了となっていたMBSUの設置作業作業を開始しました。
まず、MBSU#1のボルトとボルトを受ける支柱の目視点検を行い、用意した4つの船外活動工具を順次使用して作業を進めました。付着していた微細な金属粉の清掃を行い、グリースによる潤滑を行い、ボルトにも潤滑を行うなど、状況を確認しつつ準備した作業手順によりボルトは正常に締結されました。その後、MBSU#1の起動が確認されたことにより、MBSU#1の取り付け作業は完了しました。
(他にISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)のカメラ・照明・雲台装置(Camera Light Pan/Tilt Assembly: CLPA)の交換を実施)
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2回目の船外活動で装置交換を完遂
☆ US EVA18とUS EVA19を振り返って(コラム)
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US EVA18とUS EVA19を振り返って(その1) (ページ下端)
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US EVA18とUS EVA19を振り返って(その2) (ページ下端)
◆ US EVA20
実施日: 日本時間11月2日(作業時間: 6時間38分)
P6トラスの電力系機器の熱制御システム(Photovoltaic Thermal Control System: PVTCS)で発生した微少な液体アンモニア漏れ(リーク)の対処として、リーク箇所の隔離を目的とした流体ラインの繋ぎ換えと代替として使うための予備のラジエータの展開作業などを実施しました。
(他に左舷側の太陽電池パドル回転機構(Solar Alpha Rotary Joint: SARJ)における外側レースリングの潤滑剤目視確認を実施)
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3回目の船外活動を終了
発着した宇宙機に関わる作業
◆ 「こうのとり」3号機(HTV3)
SSRMSに把持された「こうのとり」3号機
「こうのとり」3号機の到着時は、星出宇宙飛行士は、ジョセフ・アカバ宇宙飛行士らとともにISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)で「こうのとり」3号機を把持する作業に携わりました。係留中は、船内、船外の物資の移送を実施しました。放出前には、再突入データ収集装置(i-Ball)を与圧部内に設置し、起動スイッチを押しました。放出は、星出宇宙飛行士がSSRMSを操作して把持してISSから分離し、ISS下方の放出ポイントへ移動して放出しました。
◆ ドラゴン補給船運用1号機(SpX-1)
SSRMSによりISSから放出されるドラゴン補給船運用1号機(SpX-1)
星出宇宙飛行士は、SSRMSを操作し、ドラゴン補給船運用1号機を把持しました(ハーモニーに結合させる作業は、ウィリアムズ宇宙飛行士が担当)。係留中は、船内の物資の移送を実施しました。放出は、星出、ウィリアムズ両宇宙飛行士で行われました。
■星出宇宙飛行士がISS長期滞在中に関わった宇宙機
(日付は全て日本時間です。)
「きぼう」に関わる作業(実験以外)
◆ 「きぼう」ロボットアームによるHTVの曝露パレットの取付け、収納、及びポート共有実験装置(MCE)の取付け
星出宇宙飛行士は、8月6日、「きぼう」ロボットアームを操作して、ISSのロボットアーム(SSRMS)から宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle: HTV)3号機に搭載された曝露パレットを受け取り、船外実験プラットフォームに取り付けました。
8月9日、HTVの曝露パレットからポート共有実験装置(Multi-mission Consolidated Equipment: MCE)を船外実験プラットフォームの装置交換機構8番に取り付けました。
実験装置を移設した後、HTVの曝露パレットは、8月10日にHTVに戻されました。
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HTVの曝露パレットの取付け
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ポート共有実験装置(MCE)の取付け
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HTVの曝露パレットのHTVへの収納
◆ 低温冷却水系ポンプ交換作業
星出宇宙飛行士は、3月に故障し運用を停止していた、低温冷却水系循環ポンプを「こうのとり」3号機に搭載されてISSへ運ばれたスペア品と交換し、8月3日に低温冷却水系を通常の運用形態に復帰させました。
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低温冷却水系ポンプ交換
広報・普及活動など
星出宇宙飛行士は、さまざまな実験やISSの維持・管理の作業の合間をぬって、広報・普及活動などを行いました。
星出宇宙飛行士が、ISS長期滞在中に着用する募集デザインのTシャツを着用
Tシャツを着て実験の準備を行う星出宇宙飛行士(星出宇宙飛行士のツイッターより)
星出宇宙飛行士は、宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中、皆様からデザイン画を募集し、選ばせていただいたデザインがプリントされたTシャツを着用して作業を行いました。
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星出宇宙飛行士のTシャツ着用ショット
ARISS(Amateur Radio on the International Space Station)
アマチュア無線を使って地上の様々な国の学生などと交信しました。
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ARISS
YouTube スペースラボ(9/13)
星出宇宙飛行士は、YouTube スペースラボでの宇宙実験のアイデア応募の審査員の一員として参加し、世界中から選ばれた2つの実験がISSで実施されました。
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宇宙教育実験「スペースラボ」、ライブイベントを9月13日に実施!
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YouTube スペースラボ
ISS滞在テーマソング「あぁ無重力ココロがはずむ」、及びコメント(8/15)
星出宇宙飛行士のテーマソング「あぁ無重力ココロがはずむ」が制作され、星出宇宙飛行士からコメントが寄せられました。
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「あぁ無重力ココロがはずむ」への星出宇宙飛行士からのコメント
ISS長期滞在ライブ交信イベント ~秋の夜長は、サイエンス・カフェ@筑波宇宙センター~(11/14)
宇宙分野に関わりのある大学生、大学院生とともにリアルタイム交信を行い、今まで宇宙に興味を持っていなかった若者たちが今後、宇宙に興味を持つきっかけ作りになるようにと情報発信を行いました。
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星出宇宙飛行士との交信イベントの様子
(特に断りの無い限り、画像の出典はJAXA/NASAです)