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宇宙医学とは?
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宇宙空間における生体変化
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フライトサージャン(Flight Surgeon;FS)
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宇宙飛行士の健康管理
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スピンオフ
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おわりに
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人類長年の夢であった有人宇宙飛行は1961年のガガーリンの飛行に始まり、アポロ11号のアームストロングらによる人類初の月面調査など、多くの足跡を宇宙に残してきました。宇宙に行った人も200名以上になり滞在期間も2時間から1年以上と長期におよんできています。そして今わたしたちは国際宇宙ステーション時代へ突入しました。これまで宇宙へと旅立ったのは宇宙飛行士と呼ばれるごく限られた人たちでしたが、21世紀中には誰もが宇宙に行くことができ、宇宙観光旅行、そしていずれ一般の人たちの宇宙での生活ができるようになるに違いありません。
しかし宇宙で安全に生活できるようになるまでには解決しなければならない問題がたくさんあります。それを医学的に可能にする学問が宇宙医学です。
2005年に宇宙医学研究の最重要課題等が設定されましたが、2007年に宇宙医学生物学研究室がJAXAに設置されたこと等を踏まえ、新たに最重要研究課題等が追加されています(最重要課題等をみる [PDF: 149KB])。
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1) 心循環器への影響  |
| 宇宙空間への移動による体液の移動とBody
Massの変化 | | (株)メディカルレビュー社
「THE BONE」 VOL.11 NO.2 1997.6より出典 |
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人間が地球上で生活するときに1日の約2/3の時間は立つか座るかの重力の影響を受けやすい状態で活動しています。重力の影響で血液をはじめとする体液は下半身へ引っぱられます。その一方、脳への血液の供給を保つよう、重力に逆らうさまざまなメカニズムがあります。0Gの環境にさらされると重力による影響が除かれ体液の量および分布の変化がおきます。これが体液の頭方移動(fluidshift)の概念です。
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左図は宇宙航空研究開発機構の向井千秋宇宙飛行士の地上と宇宙における顔写真です。宇宙滞在初期には眼の周りを中心とする顔のむくみ、頭の周囲の静脈が太くなります。主観的には鼻がつまる感じ、頭が重たい感じ、顔の腫れぼったい感じが体液移動により生じます。宇宙飛行の初期におきるこの体液移動で心臓の近くの中心静脈などの太い血管は拡張し、身体は体液が多すぎると判断します。この結果過剰状態を解消しようとする反応が引き起され体液量は減ります。
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宇宙環境における体液の頭方移動と引き続く体液量の減少があっても、そのまま宇宙にとどまる限り微小重力環境に適切に適応していると考えられますが、地上への帰還により重力が再びかかると頭部に移動した体液の多くが下半身に急激に移動するために、起立したときの血圧低下、さらには失神を生じることがあります。これを専門的には起立耐性の低下といいます。
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起立耐性低下及び体液量減少の予防のひとつとして下半身陰圧負荷(LBNP:lower
body negative pressure)があります。これはおへそから下を円筒形の筒に入れ密閉し真空ポンプでわずかづつ吸引することにより低圧にして上半身の体液を下半身へ移動させ血液の循環系に重力下での起立時と類似した負荷を与えることができる装置です。さらに帰還直前の生理食塩水投与と併用すると有用です。
起立耐性の低下や、帰還後の運動能力の低下は0Gの環境にさらされた生体の循環器系の変化全体がもたらすと考えられており、この過程をデコンデショニング(deconditioning)といいます。スペースシャトルは帰還時には再び重力がかかりますので、その時宇宙飛行士が失神しないように対策がなされています。
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2) 骨カルシウムへの影響
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骨は1Gの重力下で運動するために身体を支える組織として重要です。成人は体全体で1,000〜1,200gのカルシウムを持ちますがその99%以上はハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite)という形で骨にあります。またリンは体内に400〜500g存在し約85%は骨にあります。このように骨はカルシウムとリンの貯蔵庫です。しかし一旦重力の刺激が除かれると骨のカルシウムとリンは溶けだし尿や便中に過剰に排泄されます。約10日間の無重量下では平均3.2%の骨成分の喪失がおこるといわれています。尿中へのカルシウム喪失は過剰になると尿管結石を生じさせ激痛の原因となり、また骨量の減少は骨折をおこしやすくします。ですからその対策は不可欠です。
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骨量減少を予防する方法として飛行中の運動があります。運動はトレッドミル(ランニングマシーン)、エルゴメータ(自転車こぎ器)などを中心に行われています。将来は食事療法、薬物療法がおこなわれるかもしれません。これらの宇宙医学により進歩した骨カルシウムの研究は、地上において年々増加している骨粗鬆症の研究に貢献しています。
3) 筋肉への影響
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地上と違い無重量下において体は宙に浮かびます。ですから宇宙船室内ではわずかな力で壁を押して移動します。宇宙では筋肉組織を使う必要性が少なくなりますから容易に筋肉は衰えます。体の筋肉は大きく抗重力筋と呼ばれる姿勢を保つために使う筋肉とそれ以外の筋肉に分けられます。前者は緩筋、後者は速筋という種類の筋肉ですが、無重量下では抗重力筋の萎縮が著しく、また、速筋に変化していくのが特徴です。筋萎縮を予防する為の運動は萎縮する筋肉の特性から短時間の集中的トレーニングではなく、最大筋力の30%以下の力を長時間に渡って持続的に行うよう工夫する必要があります。もちろん国際宇宙ステーション時代に向けコンパクトで最大限の効果が得られるようさらに良いトレーニング方法を見つけなければなりません。
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4) 宇宙酔い
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無重量状態に入って数分から数時間以内に吐き気や嘔吐をおこす状態を宇宙酔いといいます。また同時に頭重感、倦怠感を伴い、嘔吐が突発的におこるのが特徴です。初回の宇宙飛行で宇宙飛行士の60〜70%が経験するこの宇宙酔いは宇宙にでて1日から2日でピークとなり3日目から5日目には消失するのが普通です。ではいったいこのような宇宙飛行士泣かせの酔いがどうしておきるのでしょうか?様々な仮説が挙げられていますが基本的には無重量空間での情報、特に耳の奥にある前庭器官という平衡感覚を司る器官を中心とした情報が地上と違う為発症するという中枢への情報の問題と、体液が無重量のために頭部にシフトするための2つが原因として発症すると考えられています。
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1960年代、旧ソ連やNASAでは宇宙酔い対策として回転椅子による動揺病(乗り物酔い)を誘発させ、これに慣れさせるという方法が飛行前に用いられていましたがあまり効果がないということから現在NASAでは用いられなくなりました。予防法は今も手探り状態で、バイオフィードバック療法やバーチャルリアリテイを利用した方法、又、水中トレーニングが試されています。実際に宇宙酔いになってしまった時にはプロメタジンというトラベルミンの約30倍の効果の薬が治療薬として用いられています。宇宙酔いのメカニズムを研究する過程で得られた知見は、地上におけるめまい、車酔いの研究に寄与しています。
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5) 血液・免疫への影響
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微小重力下において血液・免疫系の代表的変化に血液の主要成分である赤血球の変形があります。ふつうわれわれの赤血球の90%は両凹平円盤形いわゆる穴があいていないで凹んでいるドーナツの形ですが無重量下では一部が金平糖状、ボール状に変形します。しかし、長期飛行後でももとどおりに回復します。また宇宙滞在4日以内に赤血球の数が減るいわゆる貧血が始まります。3ヶ月の宇宙飛行ではおよそ15%減りますが自覚症状がでるほどではありませんし帰還後回復します。さらに細菌から体を守る白血球の働きがやや低下しますが実際上問題になることはまずありません。
6) 宇宙放射線による影響
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宇宙には宇宙放射線と呼ばれる放射線が存在します。地表では地球の厚い大気や地球の磁場に遮られているため、宇宙からの放射線はほとんど地表まで到達しませんが、宇宙空間では宇宙放射線を十分に遮るものがないため、地表より多い量の宇宙放射線が飛び交っています。そのため、宇宙放射線が宇宙飛行士に与える影響が問題になってきます。
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宇宙放射線には、主に、1)太陽系の外から飛来する銀河宇宙線、2)太陽を起源とする太陽放射線、3)地球磁場によって捉えられ地球の周りに滞留している捕捉放射線があります。これらの放射線の強さは常に一定というわけではなく、太陽の活動状態の変化にともなって絶えず変化しています。また、太陽の表面では時折、太陽フレアと呼ばれる爆発現象が起き、その際大量の太陽放射線が放出されることも知られており、宇宙飛行士の健康管理上大変重要となります。
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そのため、これら宇宙放射線を浴びる量(被ばく量)を最小限にするためには、常に宇宙放射線の強さや種類を宇宙船内で測定したり、地上から太陽の活動状態を観測したりすることによって宇宙放射線の強さを予測し、特に太陽フレアが起こった時などには宇宙船内の船壁の厚い場所に待避する等の処置をとれるようにしておくことが必要となります。同時に、宇宙放射線による障害を防止するため宇宙飛行の日数や回数を制限したり、また身体への影響をモニターし早期に対処できるような宇宙飛行士に対する健康管理手法を確立することも、重要な課題となっています。
これらの宇宙放射線に関わる宇宙飛行士健康管理のための研究/開発は、同じように宇宙放射線の影響を受ける旅客機パイロットの健康管理や、高エネルギー放射線を扱う施設における放射線利用及び遮蔽の研究等にも応用されていくことが期待されてます。
→宇宙放射線環境計測計画
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7) 閉鎖環境による精神心理面への影響
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国際宇宙ステーションは多国籍の乗員で3〜6ヶ月もの間、限られたスペースで共同生活、各種実験、宇宙船の運行をします。普通の環境と違うのは数ヶ月間同一の空間で滞在し同僚が他国の宇宙飛行士で、作業スケジュールは細かく刻まれており、自由に地球に戻れないといったところでしょうか。いわゆる長期間閉鎖環境でいろいろな国の人と作業しなければならず精神心理面への負担は著しいと推測されます。
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ですから宇宙飛行士には精神的ストレスでパニックなどにならないような人を選ばなければなりませんし、もちろん宇宙飛行士として合格した人たちが精神医学的に理想的チームを組めるような配慮が必要です。また要求されるリーダーシップも一様ではなく、短期間のミッションでは任務指向性のリーダーが求められますが、長期間のミッションでは民主的でメンバーへの気遣いや他人の感情に関心を持っているリーダーのほうが力を発揮します。いずれにしても宇宙飛行士の心理状況は作業能率、睡眠へも影響しミッション成功の大きな鍵となります。ソ連では滞在30日を過ぎてお互いに敵意を見せ始め口論になったこともありました。また地上との交信スイッチを切ってしまったこともあります。対策の一環として精神医学的カウンセリングを行ったり、定期的に配偶者や子息と無線で話をすることで乗り越えています。宇宙での長期滞在者が未だ少数であることから未知の部分が数多くありますが、無重量という点を除くと地上でも類似した実験は可能です。宇宙航空研究開発機構では閉鎖環境施設を作り'96年度から数名のボランテアにより閉鎖環境適応訓練の基礎的実験を始めています。このようにこれまで積み重ねられた心理学や精神医学の知識を宇宙環境における適応問題に利用しようと試みられています。
最終更新日:2009年4月22日
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