実施状況および結果
分離後のディスカバリー号から撮影されたISS
スペースシャトル「ディスカバリー号」によるSTS-120ミッションでは、国際宇宙ステーション(ISS)の新たな構成要素、「ハーモニー」(第2結合部)が打ち上げられました。ハーモニーは、次回のスペースシャトルミッションで打ち上げられる「コロンバス」(欧州実験棟)と来年2月から順次打ち上げられる「きぼう」日本実験棟の結合部となるとても重要な構成要素です。STS-120ミッションで「ユニティ」(第1結合部)に仮設置されたハーモニーは、STS-120ミッション後、11月14日に恒久的な取り付け場所である「デスティニー」(米国実験棟)前方へ移設されました。
そして、今回のミッションでは、今後のISS組立てに備え、ISSの排熱を担う外部能動熱制御系機器(External Active Thermal Control System: EATCS)のラジエータが展開されました。EATCSのラジエータはS1、P1トラスに各3枚設置されており、既に各1枚ずつ展開されていました。STS-120ミッションでは、S1トラスの残り2枚のラジエータが展開され、P1トラスの残り2枚のラジエータの展開準備が行われました。P1トラスのラジエータは、次のスペースシャトルミッション前までに展開されます。
ユニティに取り付けられたハーモニー(ISSの下方側から撮影)
また、STS-97ミッション(2000年)でISSのZ1トラスに設置されたP6トラスが、恒久的な取付け場所であるP5トラスの先端に移設されました。移設後には、移設のため収納されていた太陽電池パドル(Solar Array Wing: SAW)と熱制御システム(Photovoltaic Thermal Control System: PVTCS)のラジエータが再び展開されました。なお、SAWの展開途中で、SAWの破損が確認されたため、一時展開作業が中断されましたが、船外活動で補強することにより、SAWを完全に展開することができました。
破損したP6トラスのSAW
また、ここ最近摩擦が増加している右舷側の太陽電池パドル回転機構(Solar Alpha Rotary Joint: SARJ)の点検作業が、ミッション中に追加されました。
STS-120ミッションでは、ISS長期滞在クルーの交代も行われました。2007年6月のSTS-117ミッションで打ち上げられて以来、第15次、第16次長期滞在クルーとして滞在していたクレイトン・アンダーソン宇宙飛行士に代わり、STS-120ミッションで打ち上げられたダニエル・タニ宇宙飛行士が第16次長期滞在クルーに加わりました。
また、ISSのコマンダーをペギー・ウィットソン宇宙飛行士が、ディスカバリー号のコマンダーをパメラ・アン・メルロイ宇宙飛行士が務め、ISSとスペースシャトルそれぞれのコマンダーを初めて女性が同時に務めました。
ミッション概要
打上げと帰還
ディスカバリー号の打上げ
ディスカバリー号はNASAケネディ宇宙センター(KSC)から、米国東部夏時間10月23日午前11時38分(日本時間10月24日午前0時38分)に打ち上げられました。
帰還は当初、飛行15日目の予定でしたが、ドッキング期間が1日延長され、ディスカバリー号は飛行16日目の米国東部標準時間11月7日午後1時01分(日本時間11月8日午前3時01分)にKSCに着陸し、15日と2時間23分にわたるミッションを無事に終えました。この飛行時間はISS組立てミッションとしては過去最長の飛行時間となりました。
打上げと帰還
打上げ日時 |
2007年10月23日午前11時38分(米国東部夏時間)
2007年10月24日午前0時38分(日本時間) |
着陸日時 |
2007年11月7日午後1時01分(米国東部標準時間)
2007年11月8日午前3時01分(日本時間)
詳細(全て米国東部標準時間)
- 主脚接地時刻:11月7日午後1時01分18秒
- 前輪接地時刻:11月7日午後1時01分32秒
- 完全停止時刻:11月7日午後1時02分13秒
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飛行時間 |
15日2時間23分 |
打上げの詳細はステータスレポート#01を、着陸の詳細はステータスレポート#32をご覧ください。
ISSへのドッキングと分離
ISSへのドッキングと分離
ドッキング日時 |
2007年10月25日午前7時40分(米国中部夏時間)
2007年10月25日午後9時40分(日本時間) |
分離日時 |
2007年11月5日午前4時32分(米国中部標準時間)
2007年11月5日午後7時32分(日本時間) |
結合時間 |
10日21時間52分 |
ドッキングの詳細はステータスレポート#06を、分離の詳細はステータスレポート#28をご覧ください。
船外活動
第3回船外活動を行うダグラス・ウィーロック宇宙飛行士
今回のミッションでは、計27時間14分にわたり、4回の船外活動が行われました。ISS組立てとしては、ISSから実施したものを含め、通算96回、計595時間13分の船外活動を実施したことになります。(参考:ISS建設のための船外活動)
ミッション中、度々船外活動の計画が見直されました。ここ最近、右舷側のSARJで摩擦が増加してる事が確認されていたため、第2回船外活動でSARJの点検を行うことになりました。右舷側のSARJを点検した結果、金属粉が発見されたことを受け、飛行7日目、ミッション期間を1日延長し、飛行10日目の第4回船外活動で右舷側のSARJの更なる点検を行う事が決定されました。これにより第4回船外活動で実施される予定だったタイル修理用耐熱材充填装置(Tile Repair Ablator Dispenser: T-RAD)の試験は次回以降のスペースシャトルミッションに延期されました。また、左右のSARJの比較を行うために、左舷側のSARJの点検作業が第3回船外活動に追加されました。
第4回船外活動でセンサ付き検査用延長ブーム(Orbiter Boom Sensor System: OBSS)の先端に乗り修理を行うスコット・パラジンスキー宇宙飛行士
しかし、飛行8日目、SAWの展開中に、SAWが破損するという事態が起こったため、第4回船外活動ではSAWの修理作業が行われることになり、SARJの点検は今後の船外活動に見送られました。また、SAWの修理手順などの準備に時間を要するため、第4回船外活動は飛行10日目から飛行12日目に延期されました。これに伴い、当初STS-120ミッションでは5回の船外活動が予定されていましたが、第5回船外活動で予定されていた作業はミッション後のISSでの船外活動に延期されました。そして、STS-120ミッション後、11月9日に第16次長期滞在クルーにより行われた船外活動で、第5回船外活動で予定されていた与圧結合アダプタ2(Pressurized Mating Adapter: PMA-2)のハーモニーへの移設準備などの作業が実施されました。
第1回船外活動(飛行4日目)
開始日時 |
2007年10月26日午前5時02分(米国中部夏時間)
2007年10月26日午後7時02分(日本時間) |
終了日時 |
2007年10月26日午前11時16分(米国中部夏時間)
2007年10月27日午前1時16分(日本時間) |
作業時間 |
6時間14分 |
作業者 |
スコット・パラジンスキー、ダグラス・ウィーロック両宇宙飛行士 |
主要作業内容 |
- Sバンドアンテナの回収
- ハーモニーの取外し準備
- P6トラスの移設準備
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詳細は第1回船外活動、ステータスレポート#08をご覧ください。
第2回船外活動(飛行6日目)
開始日時 |
2007年10月28日午前4時32分(米国中部夏時間)
2007年10月28日午後6時32分(日本時間) |
終了日時 |
2007年10月28日午前11時05分(米国中部夏時間)
2007年10月29日午前1時05分(日本時間) |
作業時間 |
6時間33分 |
作業者 |
スコット・パラジンスキー、ダニエル・タニ両宇宙飛行士 |
主要作業内容 |
- P6トラスの移設準備
- 右舷側のSARJの点検
- ハーモニー外部の整備
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詳細は第2回船外活動、ステータスレポート#12をご覧ください。
右舷側SARJの摩擦の増加が確認されていることを受け、右舷側SARJの点検作業が追加されました。
第3回船外活動(飛行8日目)
開始日時 |
2007年10月30日午前3時45分(米国中部夏時間)
2007年10月30日午後5時45分(日本時間) |
終了日時 |
2007年10月30日午前10時53分(米国中部夏時間)
2007年10月31日午前0時53分(日本時間) |
作業時間 |
7時間8分 |
作業者 |
スコット・パラジンスキー、ダグラス・ウィーロック両宇宙飛行士 |
主要作業内容 |
- P6トラスの取付け
- メインバス切替ユニット(Main Bus Switching Unit: MBSU)の船外保管プラットフォーム2(External Stowage Platform: ESP-2)への取付け
- 左舷側のSARJの点検
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詳細は第3回船外活動、ステータスレポート#16をご覧ください。
左右のSARJを比較するために、左舷側SARJの点検作業が追加されました。
第4回船外活動(飛行12日目)
開始日時 |
2007年11月3日午前5時03分(米国中部夏時間)
2007年11月3日午後7時03分(日本時間) |
終了日時 |
2007年11月3日午後0時22分(米国中部夏時間)
2007年11月4日午前2時22分(日本時間) |
作業時間 |
7時間19分 |
作業者 |
パラジンスキー、ウィーロック両宇宙飛行士 |
主要作業内容 |
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詳細は第4回船外活動、ステータスレポート#24をご覧ください。
SAWの破損を受け、SAWの修理作業が実施されることになりました。
船内活動
ハーモニー内で作業をするクルー
- ハーモニー内部の整備
- スペースシャトルのロボットアーム(SRMS)とカナダアーム2の運用(ハーモニーの取付け、P6トラスの移設、SAWの修理、OBSSの取外しに使用)。
- 船外活動の支援。
- ディスカバリー号とISS間の物資の移送。
- テレビ局、通信社とのインタビューなどの広報活動。
主な不具合など
SAWの破損
クルーが作成した補強材
飛行8日目、第3回船外活動でP6トラスをP5トラスへ取り付けた後、P6トラスに搭載された4BチャンネルのSAWを再展開し、約80%ほど展開したところでSAWの破損が確認されました。
この破損したSAWの修理を第4回船外活動で行うことになり、パラジンスキー宇宙飛行士が修理作業を担当しました。パラジンスキー宇宙飛行士はカナダアーム2に把持されたOBSSの先端に乗り、破損箇所付近まで移動し、絡まったガイドワイヤの切断作業や、太陽電池ブランケットにある穴に補強材を取り付ける作業を行いました。補強材は、ISS内にあるアルミニウムの板やワイヤを使ってクルーにより作成されたものです。
SAWに補強材を取り付けることにより、SAWを完全に展開することができました。なお、P6トラスのもう片方、2BチャンネルのSAWは問題なく展開されました。
SAWの破損と補強作業
SARJの摩擦
ここ最近、右舷側のSARJに摩擦がわずかに増加していることが確認されていました。この摩擦増加の原因を究明するために船外活動による点検が行われました。
第2回船外活動で行われた点検作業で、SARJ内部に削れた金属粉が発見されました。摩擦増加の原因を究明するために、今後の船外活動で更なる点検作業が実施される予定です。また、採取された金属粉は地上で分析され、SARJのどの部分から出たものなのか調査される予定です。なお、現在右舷側SARJの使用は制限されています。SARJはSAWが太陽方向を追尾できるようトラスを回転させるものです。SARJの使用が制限された状態で今後のISS組立てに影響がないか、NASAは検討しています。なお、左右のSARJの比較を行うため、左舷側のSARJの点検も実施しましたが、左舷側のSARJは問題ありませんでした。
(写真は全てNASA提供)