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「きぼう」での実験

世界初、宇宙空間でμg から1g を可変できる実験環境"MARS"が完成

最終更新日:2017年9月 8日
月・火星に向けた国際宇宙探査へのステップとなる、「きぼう」における可変人工重力環境の研究プラットフォーム
"MARS"-Multiple Artificial-gravity Research System-の確立

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立大学法人筑波大学
国立大学法人岐阜大学
国立大学法人東京医科歯科大学

【要点】

  • 世界で初めて1g 以下の長期可変人工重力環境での小動物(マウス)個別飼育に成功し、μg ~1g のほ乳類への重力影響を「きぼう」で評価することが可能となった。
  • 地上(地球人)の加齢や健康医療研究のみならず、重力が地球のおよそ1/6の月や、およそ1/3の火星を想定した研究に活用ができ、今後月・火星に向けた探査など宇宙に進出する人類(宇宙人)のためのテストベットとして「きぼう」を活用し、国際宇宙探査への貢献が期待される。

【概要】

近年、国際的な宇宙探査の目的地として月、火星が候補となっていますが、有人宇宙飛行、長期宇宙滞在を可能とする技術だけではなく、宇宙環境(微小/低重力や放射線など)の人体への影響に関しては未知の科学的課題も多く残っています。そのため、人類の宇宙進出の科学基盤の確立を目指し、「きぼう」を月・火星などに向けた有人探査へのテストベットとして活用して、国際宇宙探査へ科学的に貢献することが求められてきました。

そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、「きぼう」内に人工重力環境を発生させるターンテーブル上で小動物(マウス)を飼育する装置を開発し、初回実験として微小重力環境(μg)および人工重力環境(人工1g)で同時長期飼育を行いました。筑波大学等と連携し、長期飼育したマウスの骨・筋肉等の変化を分析したところ、μg で引き起こされたマウスの骨・筋肉の量の顕著な減少が人工1g では見られず、「重力が動物の身体そのものの形作りを決定づける」ことを純粋な重力影響のみの比較から明らかにしました。今後、μg と1g の間の重力環境(パーシャルg という)において、動物の身体の形作りを決定づける重力閾値が見いだされることが期待され、宇宙探査にかかる科学面だけでなく、重力のある地球上で動物が繁栄してきた道程が「きぼう」において紐解かれることも期待されます。

この成果は、英国の科学誌ネイチャー(Nature)の姉妹紙のオンラインジャーナル「サイエンティフィック リポーツ(Scientific Reports)」で9月7日午前10時(英国時間)に公開されました。

【宇宙実験の概要】

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟において、世界唯一となるほ乳類に対する人工重力環境を発生させるターンテーブルを用い、マウスの長期飼育(35日間)を行いました。このターンテーブルは回転数を変更することで、地球(1g)、火星(0.38g)、月(0.16g)などを「きぼう」内において発生させることができます。初回実験では、筑波大学、岐阜大学、東京医科歯科大学等との連携により、地球人工重力環境(人工1g)と微小重力環境(μg)の飼育環境において、それぞれ6匹ずつ個別飼育を行い、地球重力(地上1g)の純粋な影響を比較評価しました。

「きぼう」での小動物飼育環境

図1.「きぼう」での小動物飼育環境(出典:JAXA)

a. 軌道上飼育装置の外観および内部写真。この装置1つで小動物(マウス)1匹を飼育する。計12個の装置を使用し飼育を行った。
b. 打上げ・帰還支援装置の外観および内部写真。ロケットの打上げ・帰還時には短時間(数十秒単位)の過重負荷(3-4g 程度)が存在するため、筒型の個室内で飼育されることで衝撃低減を行った。
c. 「きぼう」内での飼育装置設置と人工重力発生ターンテーブル。内部で2つの区画はつながっており、温湿度などのガス環境は同条件で飼育でき、唯一の違いが重力となる。
d. ターンテーブル上での飼育装置の設置詳細
Shiba et al, Sci. Rep. 7:10837, 2017より一部変更して掲載


●研究成果
「きぼう」において長期飼育したマウスのバランス機能、筋肉および骨の変化を調べたところ、μg 環境下では人工1g、地上1g と明らかに異なる機能変化(減弱)が観察されました。人工1g、地上1g ではおおむね同程度の機能であったため、重力が動物の身体そのものの形作りを決定づけることが、本実験の純粋な重力影響のみの比較から明らかになりました。

(1)バランス機能の変化(岐阜大学チームによる解析)
クッションを置いた台の上で、約40cmの高さからマウスを仰向けの状態から落下させ、身体を回転させ四肢を下にした着地態勢を取るまでの反射時間(ミリ秒)をハイスピードカメラを用い評価しました(反射機能試験)。人工1g 、地上1g 環境にいたマウスに比べてμg 環境のマウスは重力方向を感知して姿勢を制御する機能が減弱していることが明らかとなりました。一方、回転する円筒(ロータロッド)上でマウスがどの程度落下せずに歩行し続けることができるかを評価したところ(運動機能試験)、予想に反し地上1g 環境にずっといたマウスが一番長く歩行し続け、人工1g、μg 環境で飼育されたマウスはそれより早く落下しました。(図2(a),(b))

(2)筋肉の変化(筑波大学チームによる解析)
抗重力筋であるヒラメ筋・腓腹筋(ふくらはぎにある骨格筋)の筋重量変化を見たところ、人工1g 、地上1g 環境にいたマウスに比べてμg 環境のマウスの筋重量は10%程度減少していることがわかりました。(図2(c))

(3)骨組織の変化(東京医科歯科大学チームによる解析)
力学的過重の影響を受ける大腿骨組織のmicroCT解析を行ったところ、人工1g 、地上1g 環境にいたマウスに比べてμG環境のマウスは、大腿骨内部の海綿骨(※)が劇的に減少していることがわかりました。海綿骨の構造解析や骨塩量を調べたところ、海綿骨の数や海綿骨部位の骨塩量の減少が見られ、重度の骨粗鬆症を発症していることがわかりました。(図2(d),(e))

※骨には、外側の皮質骨(ひしつこつ)と呼ばれる硬い部分と、内側の海綿骨(かいめんこつ)と呼ばれる網目状の部分から成り立っています。海綿骨では、皮質骨に比べて骨の代謝が盛んに行われています。


「きぼう」において長期飼育したマウスの機能/組織変化(地上へ帰還後に評価)

図2.「きぼう」において長期飼育したマウスの機能/組織変化(地上へ帰還後に評価)

a. 反射機能試験 姿勢を立て直す反射時間(ミリ秒)をハイスピードカメラを用い評価した。
b. 運動機能試験 回転する円筒(ロータロッド)上での連続歩行時間を評価した。
c. 筋組織変化 抗重力筋であるヒラメ筋・腓腹筋の筋重量変化
d.およびe. 骨組織変化 大腿骨組織のmicroCT写真および骨密度の変化
Shiba et al, Sci. Rep. 7:10837, 2017より一部変更して掲載


●今後の展開
これまで、宇宙での飼育実験は地上と宇宙との比較解析のみでしたが、今回開発した装置を用いることにより、重力環境の違いだけを初めて比較・識別できるようになり、その重力条件を変えることができるようになりました。
バランス機能、筋機能および骨機能は、宇宙飛行士においても長期滞在すると機能低下が進む組織です。今回の変化が、エピゲノム的な変化による環境適応の反応からもたらされるものかを、今後、検証していく予定です。

●エピゲノム変化とは
DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子の働きを決める仕組みのことで、後天的な環境要因などによります。宇宙では、骨量減少、筋萎縮、前庭機能低下など、寝たきり・高齢者等に見られる生物影響が加速的に変化していますが、それが地上とは顕著に異なる微小重力という環境変化が影響しているのではないかと推測しています。宇宙飛行士の身体変化として、骨は地上の10倍、筋肉は地上の2倍の速さで減少することが知られています。

【論文情報】

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: Development of new experimental platform 'MARS'―Multiple Artificial-gravity Research System―to elucidate the impacts of micro/partial gravity on mice

著者: Dai Shiba,(1, 2) Hiroyasu Mizuno,(1, 2) Akane Yumoto,(1, 2) Michihiko Shimomura,(1, 2) Hiroe Kobayashi,(1, 2) Hironobu Morita,(1, 3) Miki Shimbo,(1, 4, 5) Michito Hamada,(1, 4, 5) Takashi Kudo,(1, 4, 5) Masahiro Shinohara,(1, 7, 8) Hiroshi Asahara,(1, 7) Masaki Shirakawa,(1, 2) and Satoru Takahashi(1, 4, 5, 6)

1) Mouse Epigenetics Project, ISS/Kibo experiment, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
2) JEM Utilization Center, Human Spaceflight Technology Directorate, JAXA
3) Department of Physiology, Gifu University Graduate School of Medicine
4) Department of Anatomy and Embryology, Faculty of Medicine, University of Tsukuba
5) Laboratory Animal Resource Center, Faculty of Medicine, University of Tsukuba
6) Transborder Medical Research Center, Faculty of Medicine, University of Tsukuba
7) Department of Systems BioMedicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University
8) Japan Science and Technology Agency (JST), Precursory Research for Embryonic Science and Technology (PRESTO)

論文のWebサイト


(関連リンク)

・筑波大学 高橋研究室
http://www.md.tsukuba.ac.jp/basic-med/anatomy/embryology/

・岐阜大学 森田研究室
http://gifuphysiol.wixsite.com/gifu-med-physiology

・東京医科歯科大学 浅原研究室
http://www.tmd.ac.jp/grad/syst/asahsyst/index.html

・文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)平成27~平成31年度 「宇宙に生きる宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解~宇宙にいきる~」
森田研究班
http://living-in-space.jp/planning-study/A02-2/

篠原研究班
http://living-in-space.jp/public-research/A02-1/

【問い合わせ先】

(「きぼう」を使った小動物飼育ミッションに関するお問い合わせ)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 広報部
TEL: 050-3362-4374  FAX: 03-3258-5051

(研究内容に関するお問い合わせ)
筑波大学 教授
高橋 智(たかはし さとる)
E-mail: satoruta@md.tsukuba.ac.jp
TEL:029-853-7516  FAX:029-853-6965

 
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