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シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用シンポジウム

省エネ実現に向けた「きぼう」のソフトパワー ~宇宙実験を通じて得た技術の半導体への活用~

最終更新日:2014年1月31日

江龍修氏

松本功氏

講演:江龍修(名古屋工業大学副学長)

講演資料1 [PDF:2.1MB]

ディスカッション:松本功(大陽日酸(株)執行役員)

講演資料2 [PDF:537KB]

(江龍)通常の研究における、「今までの実績からその延長の予測」というフォアキャスティング視点では改善、改良の製品製造になってしまいます。折角宇宙に飛び出すわけですから、「そこできっちりビジョンをとらえ何をなすべきか」、そういう視点を持ちました。

私はエレクトロニクスに関わる者ですが、近々の問題は省エネルギー、環境問題だと思います。そこで今最も望まれている材料としてGaN(窒化ガリウム)結晶があります。しかし現状では非常に欠陥が多いため、本来あるべき機能をなかなか発現できていません。そこで、無欠陥GaN結晶を作る場を、まずこの実験で得ようとしました。従来の現状最適化の繰り返しではなく、重力場から解放された物質機能を自己発現させることができるテンプレートを作っていこうと考えました。

そこで行ったのが「微小重力環境を利用した2次元ナノテンプレートの作製」という研究で、目指したのはマスプロダクトできるナノ構造構築です。ISS生まれ、地球育ちのテクノロジーとして差別化・発展させるためには、ナノ構造を目に見え、手で触れるサイズに展開する必要があります。コンセプトは、溝構造によって平坦で格子歪みの少ない結晶を成長させることです。ペプチド素子とその間隔を自由に作ることができるPEG(ポリエチレングリコール)との並びを宇宙空間に持って行って規則正しく並べれば、これを地上に降ろしLSIテクノロジーでテンプレートを作り、SiCにスタンプできます。これをマスプロダクトに展開し、ディスプレイ、通信素子、パワーデバイスに適用していこうということです。SiCは化学的に非常に安定で、しかも硬度が高いということでスタンプ材としては非常に適した材料です。地上実験でファイバーの形状転写に成功し、マスクの形状を反映したTrue Nano構造を実現しました。

宇宙のμGを活用する方法ですが、電子・原子の性質を活かすためには1個の原子を認識できるものづくりの考え方が必要です。そのためには原子、ペプチドも自由に動ける環境を作る必要があります。さらに動いた後、きちんと並ぶプレートを作ってあげなければいけません。これは名古屋工業大学が持つ要素技術です。ナノ構造上に緩衝層+GaNを成長させ、また緩衝層なしのナノ構造上にGaNを成長させました。宇宙で素材電荷配列を活かしたものづくりに成功した、それを今後GaN成長によって省エネ社会を実現する企業との共創によって、ISS発ものづくりを価値化したいと考えています。

ディスカッション

(松本)

私どもは化合物半導体の結晶装置をこの30年ほど作っております。今回は宇宙開発ということですが、結晶成長の分野でも窒化物半導体が大きな進展をしています。

GaNは、青色LED、TVのバックライトなど、身近なところで使われるようになってきました。自然界にGaNの単結晶はありませんでしたが、大学で装置の不具合により偶然、予期せぬ良い結晶ができたことがGaNを使えるようになった理由と伺っています。これをもう少し高度に制御すると転位密度の非常に少ない結晶を作ることができます。転位密度が非常に少なくて反りの少ない種結晶さえできれば、非常に安く1,000ドルを切るような8インチのバルク単結晶のGaN基板ができるという話があります。

今回の成果を使えば、非常に短い、薄い遷移層を使って転位密度の非常に少ない種結晶ができます。これさえあればあとは様々な方法を使って安価なGaNのバルク結晶ができるという希望を与えていると思います。 今回ペプチドの分子を使われましたが、こういった周期的な構造を使ってマスク上に横方向成長したときに、幅がGaNのたとえばA軸方向の結晶格子の整数倍の時に、いちばん歪の少ない結晶ができると思うのですが、そういう分子設計はできるでしょうか。

(江龍) まずペプチドを使用する必要はないと思います。GaN格子のn倍のものを人工的に分子設計し、それを地上で展開していくのがこれからのやり方だと思っています。
(松本) かなり可能性があるということですね。
(江龍) はい。結晶方位も自在に研磨で出すことができますし、その分子設計とそれに見合った結晶ベースのトリートメント、これを組み合わせていくことで十分実現可能と思います。
(松本) 種結晶について、たとえばLEDなどは必ずしも完全な単結晶である必要はなくグレーンサイズの大きい多結晶でも相当の性能が期待できます。アモルファスの石英のようなものを磨いたところにグレーンの周期構造を作るということはどうでしょうか。
(江龍) 容易にできると思います。地上でやっても、40~50nmぐらいのグレーンにきちんと並んでいます。狙った基板であれば更にきちっと並べることができると思います。SiCの基板サイズですと、今回見ていただいたようなアトミックステップがきちっと出ており、6インチの段階まで達成できています。
(松本) SiC基板の方が完全性の高い大口径のものを使えますので、さらに可能性が高いということですね。
(江龍) はい。
(松本) 今日、紹介して頂いた技術は非常に希望を持たせるものですが、実際に大口径の基板で使えるにはどのくらい時間が必要でしょうか。
(江龍) まず大口径に均一にできるという実証に、3年~5年ぐらいかかるのではないかと思います。当然、そこには基板、結晶成長、分子設計を行う高分子の専門家の方々も必要です。

講演一覧

これまでに得られた成果
  • 生命科学分野
    高橋秀幸(日本宇宙生物科学会 理事長、東北大学 教授)
  • 宇宙医学分野
    岩崎賢一(日本宇宙航空環境医学会 理事長代行、日本大学 教授)
  • 物質・物理科学分野
    石川正道(日本マイクログラビティ応用学会 会長、理化学研究所 室長)
宇宙実験の成果を地上へ
JAXAの目指す方針
全体討論:「イノベーション創出に向けて」
閉会挨拶
  • 長谷川義幸(宇宙航空研究開発機構 理事)
 
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