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石川正道
(日本マイクログラビティ応用学会会長
理化学研究所室長)
我々の日本マイクログラビティ応用学会は、FMPT計画と同時にスタートし、昨年30周年を迎えました。当学会は主として、物質系、科学系の全般に関し、宇宙実験計画の当初から数多くの実験を実施してきました。
日本の宇宙実験は1980年代より開始し、最初はTT-500Aという小型ロケットによる実験で、宇宙での新性能を有する材料の創製というまったく新しい科学技術の可能性が示されました。その後、NASAが1981年にスペースシャトルを投入したことにより、宇宙の産業利用の機運が一気に高まりましたが、1986年のチャレンジャー事故により宇宙へのアクセスが大きく制限され、日本ではTR-Aというロケットによってシャトル事故を補う本格的な微小重力実験が始まりました。1992年にはFMPT(第1次材料実験)が成功、その後はスペースシャトルが牽引しました。加えて地上で簡易に無重力実験ができる落下塔などの利用が始まり、無重力実験が普及しました。このように90年代は宇宙実験が躍進した時代でした。2000年代はいよいよISSの時代となります。しかし2003年に再びコロンビア号の事故が発生し、宇宙の産業利用が遠のき、代わりに基礎科学研究へのシフトが起こりました。
これら30年の宇宙環境利用を俯瞰して、2010年以降のISS利用を予見したいと思います。
宇宙の産業利用を牽引した新材料創成について、当初、産業界は宇宙での研究に強い関心を示しました。FMPTは当時の先端材料のほとんどすべてに及んでおり、高品質の半導体単結晶育成など現在でも材料実験の根幹をなすテーマが目白押しでした。しかし宇宙へのアクセス制限が第2次材料実験を不可能にし、半導体実験は回収型実験へと引き継がれました。宇宙へのアクセスの問題が、産業利用にとって致命的な障害でした。
軌道上研究所については、宇宙で物を創る代わりに地上での生産技術に役立つ有用な知識を得ようとする考え方です。実際に物を作らなくても良いということになると、小型ロケットのような短時間手段を用いて行うテーマも対象となります。テーマは結晶成長のその場観測、コロイドなどで、これらの成果により日本の宇宙実験技術は欧米に後れを取らないレベルに達しました。回収型衛星SFU、USERSによる実験は安全基準が緩く、産業界が要求する実材料を用いる実験を実施できました。実際にダイヤモンド薄膜の合成など、まさしく宇宙工場の実現に迫る取り組みとなりました。
次に2014年以降に計画されているISS実験の応用分野とイノベーションへの期待です。これまでの宇宙実験の成果として、結晶、自由液体、濡れ、拡散、分散・凝集、気泡、化学反応、プラズマは微小重力下で顕著な現象を示すことが分かっており、どれもが情報、創薬、医療、エネルギー、医療機器、安全安心、環境と深い関係を持っています。
最後にこれからのISSの利用に関して提言したいと思います。宇宙実験は水面に出た氷山にたとえられ、水面下の多くの地上実験と緻密な計画、関連する宇宙実験の知見などに支えられてはじめて優れた成果が得られます。表舞台の宇宙実験は産業競争力を高めるような戦略的研究を目指しますが、注意すべきは、これら研究は最先端の実験装置と手段を使って、前例のない実験を実施することから失敗するリスクが非常に高いということです。宇宙での失敗を防ぐためには、どうしても裏方の実験が必要となり、アイディア、新技術の弾込め、人材の育成などいろいろな努力が要求されます。日本ではこれまで「表」を支える「裏」の実験が多く行われてきました。私の危惧は、これからのISS実験がさまざまな要請から、一発勝負の実験を短時間の準備で行うことにはならないかという点です。
このような状況に対して提案したいのが、準軌道(サブオービタル)実験の導入です。民間宇宙ベンチャーの活動が進展し、この新しい手段が活用できるようになれば、格安の多くのISS予備実験が可能となり、一般市民による様々なアイデア実験が行われるに違いありません。
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