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岩崎賢一
(日本宇宙航空環境医学会理事長代行
日本大学教授)
日本宇宙航空環境医学会は今年60周年を迎える伝統ある医学会で、宇宙などの特殊な環境における人体の変化を研究しています。もし、もともと遺伝的に問題もなく健康に過ごしている人の集団が、数か月後に突如として特別な病気にかかり、その後に治ることが分かっていて、その集団に対して医学的な研究が行えるとしたら、驚くほど貴重な情報が得られるでしょう。それが宇宙医学です。
人の健康を脅かす宇宙の環境因子は、微小重力、宇宙放射線、そして閉鎖環境における心理的な影響です。特に微小重力環境においては、主に4つの系(神経系、心循環系、筋肉系、骨格系)に影響が現れます。
例えば筋肉系では、筋の萎縮が地上の寝たきりの2倍のスピードで起きるという報告があり、骨格系では骨量の減少が起きますが、これは地上の骨粗しょう症の10倍という研究情報もあります。
また循環系でも、ある報告では、わずか10日の宇宙飛行で心臓の筋肉の重さが12%低下するとしています。
このように宇宙では、急速で過大な機能変化や病的状態が、もともと健康であった宇宙飛行士に生じます。こうした条件での研究上の利点は、発症から回復までの全過程を短期間で明確に観察可能で、それで得られる研究成果は地上における疾病の病態解明や予防・治療等の開発に資するということです。さらにこのような宇宙での変化は、極端な運動不足、寝たきり、加齢に類似した状態であり、研究成果は将来の社会への波及効果にも資すると考えられます。
現在ISSで行われている研究は、より長期の宇宙滞在を目指したものにシフトしてきています。その例として、我々の研究グループによる宇宙飛行中に脳循環機能がどのように変化するかという研究があります。この研究はスペースシャトルのニューロラボ・ミッションでも行われましたが、多くの宇宙飛行士がISSで長期宇宙滞在するようになり、スペースシャトル時代には分からなかったものが見えてきました。それは視神経乳頭浮腫を呈する宇宙飛行士が数例見られたことです。宇宙では頭部方向に体液がシフトし、頭の中の体液が増え、頭蓋内圧が増加して視神経を周りから圧迫し、視神経乳頭浮腫を発症する可能性が高いと考えられています。これは失明のリスクもある大きな問題です。この研究のために、シャトルでの実績がある非侵襲的測定手法を公募に申請し採択されています。さらに本研究はより長期の滞在において、飛行士の検査に発展する可能性があります。
このように宇宙医学実験を継続的に行い、その経験と成果を蓄積することによって、次世代の宇宙開発に貢献できる宇宙実験を実施できると思います。今後、日本でもISSでの実験機会が継続して得られるようお願いしたいと思います。
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