Kibo-ABCメンバー国ニュース:アジアン・トライ・ゼロ G 2018 成果報告会
最終更新日:2018年12月11日
7月27日にアジアン・トライ・ゼロ G 2018で実施した8つの実験の提案者が軌道上での実験に基づく結果を発表し、JAXAの金井宣茂宇宙飛行士と話し合いました。7カ国から集まったおよそ100人の参加者が金井宇宙飛行士や日本にいるその他の日本人の参加者とビデオ会議でつながりました。
上森 規光(有人宇宙技術部門 事業推進部 部長)(出典: JAXA)
はじめに、上森規光(JAXA部長)が開会の挨拶をしました。
「今日、この成果報告会に参加できてとてもうれしく思います。私は2月の宇宙実験にも参加しましたが、みなさん全員の顔が希望と期待に輝いていたことを覚えています。すばらしい実験に感銘を受け、全員の方から優れた報告を受けることを期待しています。最後に、みなさん、今日の会議を大いに楽しんで、お互いに親交を深めてください。」
アジアン・トライ・ゼロ G 2018 成果報告会(出典: JAXA)
それぞれの発表は、提案者の仮説、軌道上での実験結果および考察で構成されます。提案者全員が5分間の発表を行い、金井宇宙飛行士と質疑応答を行いました。金井宇宙飛行士は、自身の行った実験の結果考察に興味深々でした。
--コンテンツ--
- 針金ゴマの挙動実験チーム(日本)
- 紙バネの動き実験チーム(日本)
- 回転リング実験チーム(マレーシア)
- スリンキー内のボール実験チーム(タイ)
- ジャイロスコープと逆立ちゴマ実験チーム(ベトナム、フィリピン、シンガポール)
- 紙のブーメランの実験チーム(インドネシア、シンガポール)
- 飛行機の安定性実験チーム(シンガポール)
- 二層液体ボール実験チーム(フィリピン)
それぞれの実験の発表と質問:
1. 針金ゴマの挙動実験チーム(日本)
針金ゴマの挙動実験チーム(出典: JAXA)
針金ゴマの発表(提案者提供)[PDF: 565KB]
日本の提案者: |
地上と比べて、軌道上では、コマを回しやすかったですか? |
金井: |
ええ、コマを回すのは技術的に簡単になりました。地上ではコマはテーブルの上で止まっていますが、軌道上では飛んでいますから、ビデオカメラで追いかけるのは少しやりにくかったのですが、でも技術的にはそれほど難しくありませんでした。 |
日本の提案者: |
結果で一番驚いたことは何ですか? |
金井: |
タイプA、B、Cで同じテクニックを使いましたが、タイプBだけが反転しませんでした。それが驚きでしたね。 |
日本の提案者: |
ペンチを回してみましたか? |
金井: |
何度かやったと思います。そして、みなさんが予想したとおり、上下反転して回転しました。タイプBと同様に、回転動作はとても興味深いものでした。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
2. 紙バネの動き実験チーム(日本)
紙バネの動き実験チーム(出典: JAXA)
紙バネの動き実験の発表(提案者提供)[PDF: 12MB]
日本の提案者: |
金井さんが軌道上でリハーサルをされたとき、きぼう内のキャビン エアーの流れは中断されていなかったと思います。キャビン エアーの流れがバネの動きに影響を及ぼすことが認められましたか? |
金井: |
私が実験を行った場所は、比較的空気の流れが少なく、目だった空気の循環を感じませんでした。空気の流れは、実験には影響ありませんでした。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
3. 回転リング実験チーム(マレーシア)
マレーシアの回転リング実験チームと参加者全員
(出典:マレーシア国立プラネタリウム)
回転リングの実験発表(提案者提供)[PDF: 745KB]
マレーシアの提案者: |
リングが重くなると、回すのがより大変になると思われましたか? |
金井: |
ええ、そうですね。もちろん、宇宙では、重量(重さ)はなくなりますが、質量はあります。より質量のあるものを回すには、より力が要ります。 |
マレーシアの提案者: |
リングの直径を長くした場合、リングが棒から外れるのは簡単になりますか、それとも難しくなりますか? |
金井: |
より大きなリングを回すのは、より難しいと思います。けれど、リングが外れるのが簡単になるか難しくなるかはわかりません。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
4. スリンキー内のボール実験チーム(タイ)
タイのスリンキー内のボール実験の提案者と参加者(出典: NASTDA)
スリンキー内のボール実験発表(提案者提供)[PDF: 1.4MB]
タイの提案者: |
スリンキー内いっぱいまでボールを詰めると、ボールの重さから来る振動が感じられましたか? ボールを持っているように感じましたか? |
金井: |
ええ、ボールからの振動を感じました。特により重いボールからです。 |
タイの提案者: |
より大きなスリンキーを同じ重さで形がさまざまに異なる物と一緒に使用する場合、スリンキー内の物の動きはどうなると予測されますか?(形が動きの要因になると思われますか?) |
金井: |
より大きなスリンキーを使用して、動くスペースが広くなると、実験の結果は違ってくるかもしれません。しかし、スリンキー内のボールの動きによって、位置が変わるかははっきりとはわかりません。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
5. ジャイロスコープと逆立ちゴマ実験チーム
(ベトナム、フィリピン、シンガポール)
セッション1:ベトナムの発表
ベトナムからの参加者(出典: VAST-STI)
ベトナムからの逆立ちゴマの実験発表(提案者提供)[PDF: 120KB]
ベトナムの提案者: |
私たちのプロジェクトを実施したときに何か難しいことがありましたか? |
金井: |
ええ、あなたがおっしゃったとおりに、逆立ちゴマを回すときに少し力をかけました。そのため、何度やっても、逆立ちゴマは違う方向に動きました。 |
セッション2:フィリピンの発表
フィリピンからのジャイロスコープと逆立ちゴマ実験チーム(出典: DOST)
フィリピンからのジャイロスコープの実験発表(提案者提供)[PDF: 1.4MB]
フィリピンの提案者: |
外力の影響を受けずに倒れるまで、ジャイロスコープはどれくらい長く軸上に立っていますか? |
金井: |
私には、永遠に回り続けるように思われました。 |
フィリピンの提案者: |
宇宙でのジャイロスコープの安定性は、惑星がバランスを保つのと比較して、どうですか? |
金井: |
たしかに、宇宙飛行の初期段階から宇宙船を安定させるためにジャイロスコープを使用してきました。飛行機だけでなく、宇宙船にもジャイロスコープを使用できます。 |
セッション3:シンガポールの発表
シンガポールからのジャイロスコープと逆立ちゴマ実験チーム
(出典: SSTA)
シンガポールからのジャイロスコープの実験発表(提案者提供)[PDF: 173KB]
シンガポールの提案者: |
重り1つを付けて実験を行ったときに、ジャイロスコープを押すときに抵抗を感じましたか? |
金井: |
ええ、おっしゃるとおり、安定性が低下し、重りなしのときに比べて、力を加えやすくなりました。 |
シンガポールの提案者: |
重りを増やした場合、別の軸に重りを取り付けた場合、ジャイロスコープの動きはどうなると思いますか? |
金井: |
重りを3つ付けた場合は、安定性がさらに低下して、軸を押すと簡単に動くと思います。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
6. 紙のブーメランの実験チーム
(インドネシア、シンガポール)
インドネシアからの参加者
(出典: LAPAN)
インドネシアからの紙のブーメランの実験チーム(提案者提供)[PDF: 1MB]
シンガポールの紙のブーメランの実験チームと参加者(出典: SSTA)
シンガポールからの紙のブーメランの実験発表(提案者提供)[PDF: 709KB]
金井: |
きぼう内に十分な広さのスペースがあれば、ブーメランは最終的に戻ってくると思いますか? |
シンガポールの提案者: |
戻ってくるだろうと思います。なぜなら、揚力が速度に対して常に直角であれば、円運動が続くからです。これは、加速があるところには円運動があり、一様な円運動に対して、揚力は常に直角だからです。私たちはそう考えています。 |
シンガポールの提案者: |
ブーメランが地上では戻ってくるのに、微小重力の下では戻らないことについて、何かお考えはありますか? |
金井: |
現在のところ、2つの環境の違いは重力であると思います。しかし、この現象を説明するには、さらに議論が必要です。 |
紙のブーメランに関する2カ国の発表が終わった後、金井宇宙飛行士と2カ国の提案者はそれぞれの発表について話し合いました。
金井: |
とても面白いですね。どちらのチームも(シンガポールチームとインドネシアチーム)も、最終的にブーメランが戻ってくると結論付けましたが、両チームの議論は、明らかに異なります。シンガポールからの提案者のみなさんにこの議論についての意見を聞きたいと思います。シンガポールの提案者のみなさん、この(インドネシアの)発表をどう思いますか? |
シンガポールの提案者: |
全体的には、円運動を示す同じ結論ですが、結論に至る過程が少し違います。彼は角運動量の概念を使って説明しましたが、私たちは最初、点の質量を考慮しており、回転を考慮しませんでした。これは、角運動量は常にブーメラン自体に対して垂直であり、揚力は常に垂直であるためです。 |
インドネシアの提案者: |
揚力は中心に向かいますか? |
シンガポールの提案者: |
はい。 |
インドネシアの提案者: |
それなら、本当に似ていますね。 |
金井: |
とても面白いですね。みなさんの理論をどうすれば確認できるでしょうか? 将来的に、実験を改善するための提案がありますか? |
インドネシアの提案者: |
実験を改善するためのアイデアはありませんが、より広いスペース、できれば、おそらくISSよりも広いスペースが必要です。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
7. 飛行機の安定性実験チーム(シンガポール)
シンガポールの飛行機の安定性実験チームと参加者(出典: SSTA)
シンガポールからの飛行機の安定性実験発表(提案者提供)[PDF: 120KB]
シンガポールの提案者: |
飛行機は手で飛ばされたので、発射力や発射角度などの打ち上げパラメータを維持することが困難でした。カタパルトのような簡単な打ち上げ機をISSに搭載することは可能でしょうか? |
金井: |
カタパルトを使用すれば、非常に安定して、優良なデータを収集できるかもしれませんね。しかし、飛行機の現在の構成では、まだ上向きに発射されます。手動打上げを使用していても、真っ直ぐに飛ぶ特殊な飛行機を設計できるかどうかは疑問です。 |
シンガポールの提案者: |
揚力自体のせいで、それが可能だとは思いません。地球上には揚力を補う重力がありますが、宇宙には揚力しかありませんので、何の可能性もないと思います。 |
金井: |
わかります。 |
シンガポールの提案者: |
飛行機は、1つの実験条件につき1回だけ飛ばされました。翼は前方、中間、後方にありました。実験を繰り返せば、結果は変わったと思われますか? |
金井: |
そうは思いません。私は、このイベントが始まる前に、何度も飛行を試してみました。飛行機は常に同じ傾向を示して上に向かい、同じような動きでした。 |
シンガポールの提案者: |
飛行機は与圧環境内で飛ばされました。どうすれば、飛行機の軌道に対するキャビン エアフローの影響を最小限に抑えられると思われますか? |
金井: |
実験中、私たちは、きぼう内のエアフローを止めました。問題があるとしたら、それは、私の実験技術のせいです。しかし、それでも飛行機は上に向かう傾向を示し、それはとても興味深いことでした。 |
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
8. 二層液体ボール実験チーム
(フィリピン)
二層液体ボール実験チームは成果報告会に参加できなかったため、発表ファイルと実験動画をここに紹介します。
フィリピンからの二層液体ボール実験発表(提案者提供)[PDF: 2.7MB]
軌道上実験結果のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
地上での試験のショート ムービー(実験者:金井宇宙飛行士)。
JAXA 宇宙飛行士/金井 宣茂(出典: JAXA)
この成果報告会の終わりに、金井宇宙飛行士が閉会の挨拶をしました。
「みなさん、この成果報告会にご参加いただき、ユニークな実験についての考察を共有するすばらしい話し合いをしていただいてありがとうございます。このミッションに参加し、実験をやらせてもらえて、大変光栄でした。本当にありがとうございました。これからも引き続き、疑問を持ち、引き続き自分で問題提起を行ってください。みなさんは最高です! ありがとうございました。」