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2.6 実験結果の検討と評価(続)

2.6.1 二点の絵画実験の検討

二点の絵画を身体感覚の観点から検討する。



図A1. 宇宙絵画Aの分析図
「“上昇する6つの輪”を船内の6人の宇宙飛行士に見立てる」という当初のインストラクションどおり、6つの輪に6人の宇宙飛行・mを仮に当てはめてみる。

6つの輪の中で左下の単独の輪の密度が高く、右側に浮かぶ他の輪の連なりとバランスを保っている点で、これを土井氏自身、また他の輪を残り5人のクルーたちとみなせば、一見平板な画面にも、リアリティをもった空間性が立ち現れてくる。


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また、左上から右下に大きくつながる線を地球を表す曲線とみなせば、一見固定されたかに見える上下の枠組は再び流動化される。例えば、画面の手前方向を下、奥行き方向を上とみなすことも可能だろう。そうなれば、左上の黒とそれに向かう円の列は、意識的あるいは無意識的に暗黒の宇宙の深さを表現していると思われ、たいへん興味深い。

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図A2. 描画プロセスの仮説的再構成

水平線から始まり、六つの上昇する輪を描くという描画のプロセスを仮説的に再現してみる。
(→アニメーション)
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図A3. 絵画Aにおける空間感覚の変容の検証

「紙を4〜6枚つないだ大きな画面に描く」という当初のインストラクションは、身体が入る等身大の画面空間を実現し、それによって微小重力下における空間感覚の変容を探ることを目的としていた。ここでは土井氏の絵を計画された規模に拡大して、その身体的な効果を示す。地上での固定的な方向感覚からの解放は、絵画空間の新しいあり方を示唆する。

(→アニメーション)

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図B1. 天井のスケッチにおける空間感覚の検証
土井氏が自発的に描いた「天井のスケッチ」はシャトルの尾翼を軸としたシンメトリーな構図である。通常シンメトリーな構図ではスタティックで象徴性の強いイメージが現れる。
映画『2001年宇宙の旅』でも、地球の球面を含めた同様なシンメトリー構図の象徴的場面がある。
(右図:映画からのイメージスケッチ)
以下では画面の回転により空間感覚の変化を探る。

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図B2. 天井のスケッチ:正位置
地球を紙面上部に大きく配し、シャトルの尾翼の縦方向に身体の軸を合わせた視点でのシンメトリーな構図。地球、シャトル、身体の軸はそれぞれが自由に浮遊する条件の中で、あえてその全ての軸を紙面の中心軸に合わせるという決定がなされており、この構図決定には土井氏の強い意識が働いていると思われる。 地球が上になっているにもかかわらず、シャトル内の空間と作者の身体が一体化して安定感が感じられる。
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図B3. 天井のスケッチ:上下反対位置
上図の正位置では 作者のポジションがシャトル内にあり、絵を描く者=見る者と画面空間の上下は一致する。上下逆さにしてみると、作者のポジションは宇宙空間に移り、浮遊感があらわれる。
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図B4. 天井のスケッチ:左90°回転
シンメトリーがくずれ、動的なイメージが生じる。作者のポジションは宇宙空間で、シャトルが地球から離れるイメージとなる。
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図B5. 天井のスケッチ:右90°回転
図B3と同じく、シンメトリーがくずれ、動的なイメージが生じる。作者のポジションは宇宙空間で、シャトルが地球へ向かうイメージとなる。
これは二つのオブジェクトの位置関係、および空間表現のタッチの方向によるものと思われる。重力のある地上では、左右の知覚空間は異方性を持つが、宇宙空間ではどうなるのか、まことに興味深い。
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