このページは、過去に公開された情報のアーカイブページです。

<免責事項> リンク切れや古い情報が含まれている可能性があります。また、現在のWebブラウザーでは⼀部が機能しない可能性があります。
最新情報については、https://humans-in-space.jaxa.jp/ のページをご覧ください。

サイトマップ

宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センタートップページ
  • Menu01
  • Menu02
  • Menu03
  • Menu04
  • Menu05
  • Menu06
  • Menu07

シンポジウム・ワークショップ

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」利用成果シンポジウム

パネルディスカッション「宇宙医学の魅力と成果の活用」

最終更新日:2012年11月 5日

宇宙と地上の暮らしに役立つ「宇宙医学」

(出典:JAXA)

モデレータ:
宇山恵子(医療ジャーナリスト)
向井千秋(宇宙飛行士)

パネラー:
大島博、大塚邦明
松本暁子、陶山慎晃


(宇山) 私が宇宙医学に関心を持ったきっかけは、早期老化モデル空間、つまり、「浦島太郎」みたいになってしまう宇宙空間に抗いながら、若いままで帰ってくるというところに、何かアンチエイジングの鍵があると思ったことです。向井先生と大島先生のインタビューを「宇宙老化でわかったアンチエイジングの鍵」として美容情報誌に掲載したところ、大きな反響を呼びました。難しいアプローチでなく、「見た目マイナス@@歳」「アンチエイジング」という言葉をひっかけただけで、読者に関心を持ってもらえることに非常に興味を覚えました。JAXAの「宇宙医学生物学研究室年次報告書」は健康情報の宝庫です。もっとマスコミが注目して、わかりやすいアプローチを発信しないといけないと思っています。

- 向井先生に伺います。

Q: 宇宙で健康を害して大変だったエピソードはありますか?
A: 宇宙酔いはありました。環境適応症候群は、地上の時差ぼけのように、宇宙に適応するためにおこってくるものです。私は医者なので、宇宙酔いで気持ち悪くなったときに「これが教科書に書いてあった宇宙酔いなんだ」と、かえって楽しんでいました。
Q: 医者ということで他のクルーの健康チェックもしないといけないことで気を使われたことは何ですか?
A: 1回目の飛行は自分しか医者がいなかったので、みんなを健康管理していましたが、みんなに何かあれば私が助けられるけど、私に何かあったら誰が助けてくれるの? と思い、火星など遠くに行くときは、医者は二人くらいいた方がいいと感じました。2回目の飛行は医者が二人搭乗したので安心しました。

- 松本先生に伺います。

Q: 宇宙飛行士は、健康を害するまでいかなくても、美容面でマイナスになることはありますか?
A: 山崎直子飛行士の専任フライトサージャンをしている際に、スキンケアにつて、女性同士の会話ができました。宇宙船にいると男性でも手が乾燥しますのでそれを防ぐものがあればよいと感じました。スキンケアということでは、乾燥しないことが重要です。また、宇宙では顔を洗えないので、そのケアも必要です(特に女性は)。
Q: 地上だと、職場の華ということで女性がなごみになると聞きますが、飛行中は女性がいた方がいいのでしょうか?
A: 山崎の時はシャトルクルーのうち3名が女性でした。ISSのクルーも含めると13人のうち4名が女性で、女性の進出を感じさせるミッションでした。今のミッションでは女性が船長をしていますが、なごやかな雰囲気になっています。

- 向井先生に伺います。

Q: 女性として、よかったこと、不都合だったことはありますか?
A: スペースラボでは「メンズワールド」でしたが、私が行くと、お行儀良くしていたらしいです。男女混合の仕事場が自然だと思います。
Q: 仲間意識やキャプテンを支えるフォロワーシップが大切だと伺いました。宇宙飛行士になるような人であれば、フィジカルエリートで、リーダーとして申し分ない方ばかりですが、誰かがリーダーとフォロワーにならないといけないわけです。そこの気持ちの見極め、切り替えはどうでしたか?
A: リーダーシップを本当に発揮するには、チームとしてフォロワーシップがないといけないわけです。宇宙飛行士はチームワークの必要性を十分に理解しています。

- 大塚先生に伺います。

Q: 宇宙空間が人間にとってどれほど適している空間なのか、適していない部分をどこまで克服して行けるのかについて、どう評価され、どのようにお考えでしょうか?
A: 医者が少ない地域でボランティアとして健康調査を行っています。その一つに、高所(4000メートル前後)での調査があります。そこは、酸素が少なく、紫外線が強い、過酷な環境ですが、70%以上が幸せだと答えます。脳卒中や心筋梗塞が多いだろうと想像しましたが、意外に少ないです。そういう意味では過酷な環境でもひとは順応し、一生の間で習熟し、そして世代を超えて適応していきます。宇宙にも適応できると思っています。

- 大島先生に伺います。

Q: 無重力の宇宙空間では、骨・筋肉などが急速に老化してしまいますが、火星に行くような長期のミッションの場合、どのように克服していくのでしょうか?
A: 6ケ月の宇宙滞在でも、医学的に一番問題と言われていた骨量減少リスクが軽減できることがわかりました。軌道上の運動機器が新しくなり、食事もビタミンDやカルシウムを十分摂ることなど数年単位で健康管理の技術が更新し、医学的リスクは少しずつ軽減しつつあります。月・火星飛行に向かっては、放射線被曝の問題、長期間心を健康に維持する技術、および1/3G・1/6Gなど低重力環境への準備が必要になってくると考えています。

- 松本先生に伺います。

Q: 宇宙放射線についてご説明ください。
A: 大きく分けて3種類あります。地球の周りにある捕捉放射線、太陽系の外からやってくる銀河放射線、太陽からの太陽放射線です。JAXAではきめ細かいモニターをしており、船外活動をする際の放射線の状況を確認したり、生涯の線量制限値を定めています。宇宙では一日1mSvを浴びると言われていますが、実際には0.5mSvぐらいです。長期ミッションを続けると問題になるかもしれませんが、今のISSでの約6カ月程度の滞在であれば、2~3回滞在しても大丈夫な範囲だと考えています。

- 陶山様に伺います。

Q: 宇宙放射線のことは皆さん、非常に関心がありますよね?
A: 取材を通して感じたのは、宇宙にいて放射線を浴びることと、原発事故等により地上で浴びるものは、その量・種類が違うということです。宇宙医学分野での放射線の研究はむしろ、事前の周到な準備をしているという意識付けの面で、放射線管理に与える影響は大きいと思います。
(宇山) ここからは、本日いらっしゃっている会場の皆さんに書いていただいた質問にいくつか答えていただきたいと思います。

- 向井先生への質問です。

Q: 「訓練をしていない一般人がISSに滞在したら、どんな問題が起きるでしょうか?」
A: 宇宙船に乗るには難しい訓練が必要だと思われているでしょうが、今では、当時77歳のジョン・グレン氏が10日間程度滞在したことを見ても、普通の健康状態の人が宇宙へ行くことは充分に可能です。職業宇宙飛行士の訓練は、ロボットアームの操作や小型衛星の放出など、宇宙で仕事をするための訓練です。これから民間人がどんどん宇宙へ行き始めると、費用も安くなり、今の飛行機に乗るように宇宙へ行く時代が来ると思います。宇宙飛行を行うだけであれば、そんなに大変なことではありません。

- 松本先生にも伺いたいと思います。

Q: 松本先生はいかがでしょうか?
A: 国際調整の中で医学基準を作っています。宇宙旅行者の基準も作っています。宇宙へ行くこと自体、緊急時の帰還訓練はありますが、ある程度の健康人であれば宇宙へ行ける時代になってきていると思います。

- 大塚先生への質問です。

Q: 「宇宙で、サーカディアンリズムが整うということですが、宇宙で得られる効果を地上で得ることはできないでしょうか?」
A: できると思います。宇宙で思いもよらない結果が得られて驚いていますが、それと同じような効果が高所でも得られています。お日様が上がれば起き、沈めば寝るという「原点」に帰ることが大事です。この点、日常の生活を少しでも見直し、よいリズムを作っていただければと思います。

- 大島先生への質問です。

Q: 「70代の女性の二人に一人が骨粗鬆症ということですが、女性の方が不規則な生活をしている割合が多いからでしょうか?」
A: 骨粗鬆症の原因は、閉経に伴う女性ホルモン欠乏による変化(骨密度の減少:年2%)と加齢に伴う変化(年1%)で、女性はもともとリスクが高いのです。
Q: ビスフォスフォネートは予防薬としては日本で認められていないのでしょうか?
A: 治療薬としてのみ、認められています。ただ、関連学会での診断治療のガイドラインが数年毎に更新され、現在は「骨量がやや低下し、さらに親の骨折既往などのリスクがある人にも、投与できる」ように変わってきています。

- 松本先生への質問です。

Q: 「宇宙飛行士の健康の基準を教えていただければと思います。」
A: 医学基準、検査項目は非公開なのでお教えできないのですが人間ドックのようなものが中心とお考えください。宇宙で半年間、健康でいなくてはいけませんし、宇宙で病気になると非常に困ります。心臓疾患系は個人の命にかかわりますし、ミッションの中断にもつながるので、細かくチェックしています。

- 向井先生への質問です。

Q: 「私は向井さんの本を読んで宇宙飛行士を目指しています。宇宙に着いたときと、戻ってきたときの気持ちについて教えてください」
A: 宇宙に着いた時は嬉しかったです。そして、地上に戻ってきたときに、また嬉しかったです。自分が住んでいるところから1回離れてみると、世界がよくわかります。地球を見たことも感激しました。宇宙での実験もおもしろかったです。しかし、もっとおもしろかったこと、予想していなかったことは、地球上ではものが置いてある、ものが落ちることは当たり前だと思っていましたが、これは当たり前ではなかったと気付いたことです。ニュートンは宇宙へ行かなくても万有引力を発見したわけですが、創造力で真理を追究する姿勢に非常に感激しました。宇宙へ行き、自分の環境から離れてみると、新しい発見が待っています。
Q: 海外旅行に行くように宇宙に行ける時代が来ますか?
A: これまでの50年は米国とロシアの国の権威で始まりましたが、今は国際協力が当たり前です。これからは、企業が競争を進めることで、更に宇宙が身近になると思います。技術的には可能です。「宇宙へ行きたい、使いたい」というひとがたくさん出てくれば次の50年には実現できると思っています。
Q: パネリストの皆様に宇宙へ行ったらやりたいことを伺いたいと思います。
(陶山) 宇宙遊泳をしてみたいです。様々な物体が地上と違う動きをするわけですので、水を飲んでみたいです。
(松本) 宇宙旅行をしてみたいです。宇宙飛行士から、「漆黒の中に浮かぶ美しい地球が圧倒的な存在であり、ずっと見ていたかった」と聞いているので、実際に見てみたいと思います。また、宇宙日本食を開発していますので宇宙でどのような食べ物がいいか経験してみたいです。
(大塚) 毎日忙しいので、宇宙で、ぼーっとしたいです。そして、地球で考えられないようなこと、すなわち、なぜ私はここにいるのか、なぜ生まれてきたのか、を考えてみたいです。
(大島) 私は、若田宇宙飛行士や野口宇宙飛行士のリハビリに立ち会う貴重な経験をしましたが、実際現場で見ていると自分たち一般人も宇宙に行ける時代になってきたと実感しています。生物は、進化の過程で、海から陸、陸から宇宙に進出したので、私も地球と宇宙を眺めて、どのように実感するか、体験してみたいです。宇宙ラジオ体操を今企画していますが、地上のひとと一緒にできたらいいですね。
(向井) 月に行きたいです。月から地球を見ておいしいお酒が飲めたら最高です!
Q: 「地球上では治療できない病気でも宇宙では治療が可能かもしれない。治療、技術開発などに期待はできますか?」という質問もきています。「地球病院では治せないので、ちょっと宇宙病院でリハビリしてきます!」という時代が来る可能性はあるのでしょうか?
(松本) 宇宙でのリハビリはいいアイディアです。脳梗塞などで重力に抗して手などを挙げられない患者さんが、宇宙へ行ったら手を動かせるかもしれません。このように違ったリハビリができることを期待しています。
(大塚) たくさんのことができると思います。例えば、世界中の全知全能が集結しても予測できない心臓性急死や、高齢者が病気でもないのに突然死んでしまう虚弱について、メカニズムがわかるようになるのではないでしょうか? 不老が得られるのではないかという期待を持っています。
(大島) 脊髄損傷で寝たきりのひとのリハビリに活用できます。1/3G、 1/6Gの低重力を病気から回復時のリハビリに活用できるかもしれません。SUICAみたいなカードに医学データを保存して、自分で体調をモニターして、病気を予防できたらいいですね。
(向井)

外科医だった頃、全身熱傷(90%以上)の患者さんの包帯をとりかえることが大変でした。重さがないところに身体を浮かせば包帯がいらず、身体の重さで床ずれもできません。また、重力に関係する病気(例えばいぼ痔や足の静脈瘤)は、重力のない場所にいくと良くなります。

人工重力研究の陰には、重力が人間の身体にとってどれくらい必要なのかという思いがあります。1Gという地球上の重力は必要ではないかもしれません。0.5Gであれば体重は半分になりますので、体重を支えられないハンディキャップがあるひとにとっては、重力が少なくなればハンディキャップがなくなるわけです。将来、宇宙コロニーができ、遠心力により中心部分が0Gで外に行けばいくほど重力は高くなる環境を作り出せれば、「そろそろ歳をとってきたので、1Gはきついから0.5Gに住もう」というように重力を自分で選んで住むという時代が来ると思います。

(陶山) 超健康な宇宙飛行士でさえ、過酷・特殊な環境に対応する為に訓練をして備えているというのは我々の励みにもなります。宇宙飛行士ですら、これだけ注意して、健康のために準備・予防しているということを踏まえて、日々健康を意識して過ごしてもらえればいいのではないでしょうか。

 

(出典:JAXA)

(宇山) それでは最後に、本日いらっしゃっている会場の皆さんから、直接向井さんに質問をいくつか受け付けたいと思います。
Q: 「向井さんは夢であった宇宙へ行ったあとの、今の夢は何ですか?」
(向井) ジョン・グレン氏が77歳で宇宙へ行ったので、78歳で記録を破りたいです。また、より多くのひとが宇宙へ行けるように有人宇宙開発の基盤を作っていきたいです。
Q: 「宇宙飛行中にお酒を飲むことはできるのでしょうか?」
(向井) アメリカ側では飲めません。ロシアの宇宙食にはウォッカがあるらしく、(ロシア人宇宙飛行士は)飲んでいるのではないかといううわさはあります。
Q: 「国際宇宙ステーションでは、嫌いなひとと生活しても問題を洗い出して対処できるという話がありましたが、もう少し詳しく教えてください」
(向井) 地上だと嫌なことがあれば違う部屋に行けばいいし、煙がでてきたら窓をあければいい。でも宇宙ではそうはいかないので、そのようなことが起こらないように、どのようにストレスを管理するか、リーダーシップ・フォロワーシップをどのようにとるかを教えます。宇宙飛行士はチームワークの重要性を知っていますので、皆で一緒に仕事をしないと自分の仕事ができないとわかっています。少なくとも与えられたミッションに関しては、プロフェッショナルな態度で仕事をこなしています。
(宇山)

そろそろ時間になりました。宇宙医学の研究成果は、すぐにでも実践できる地球上での健康法でもありますので、ぜひ皆さんも先生方の提言をもとに生活改善をしてみてください。

息子が6歳のときに米国で通っていた幼稚園では、毎週宇宙に関する発表会があり、その影響で息子は星座や宇宙や地球の始まりなどに関心を持ちました。最近は子供が喜ぶ宇宙をテーマにした絵本などもありますので、ぜひ宇宙に関する絵本の読み聞かせなどもご家庭で行ってください。

私は日常的に天体望遠鏡を覗いています。朝、空の写真を撮るなど、もっと宇宙を感じる生活ができたらいいと思っています。

些細なアイデアでもいいので、こんなことをISSで宇宙実験したら?とか、こんな宇宙グッズを作ったら?などという、ちょっとしたひらめきが、皆さんと宇宙を結ぶきっかけにもなります。

宇宙は英語でouterspaceと言います。つまり、「誰にでも開かれた自由な空間」です。地球に閉塞感を感じたときに、「宇宙はいつでも私達を受け入れ、夢を持たせてくれる」と思うだけで心と体が健康になれます。毎日、宇宙を感じることが健康、予防医学への第一歩になると思っています。

(向井) 筑波宇宙センターは日本の宇宙研究の拠点であり、様々な体験施設がありますので、是非お越しください。本日は医学生の方も多く来られているようですが、インターンシップなど皆様が来られるコース(半日、1日、2週間等)も用意しております。JAXAの宇宙医学を教育の場としてご活用ください。

他の講演

日本の実験棟『きぼう』とは?
上垣内茂樹(JAXA宇宙環境利用センター)
宇宙実験室のおもしろさ
向井千秋(JAXA宇宙医学研究センター長・宇宙飛行士)
骨量減少対策の成果と意義
大島博(JAXA宇宙医学生物学研究室長)
体内リズム研究の成果と意義
大塚邦明(東京女子医科大学教授)
宇宙飛行士の健康管理
松本暁子(JAXA宇宙飛行士運用技術部医長)
医療ジャーナリストから見た宇宙医学の魅力と提言
陶山慎晃(医学新聞メディカルトリビューン編集部記者)
パネルディスカッション「宇宙医学の魅力と成果の活用」
モデレータ:宇山恵子(医療ジャーナリスト)、向井千秋
パネラー:大島博、大塚邦明、松本暁子、陶山慎晃
閉会挨拶
山本雅文(JAXA宇宙飛行士運用技術部長)
 
Copyright 2007 Japan Aerospace Exploration Agency SNS運用方針 | サイトポリシー・利用規約