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大島博(JAXA宇宙医学生物学研究室長)
宇宙医学では、宇宙飛行に伴う人体リスクをいかに軽減させるか、また、パフォーマンスをいかに維持・向上させるかを主眼にして研究しています。宇宙飛行と加齢変化は、ほど遠いと思われがちですが、骨量変化という点では同じです。筋肉が萎縮したり、体内リズムが乱れて眠れないという点も、地上の加齢変化と似た現象です。そのため、宇宙医学では地上の健康科学の良い方法を用いて宇宙飛行士の健康リスクを軽減します。宇宙医学でも良い成果があれば、皆様に情報を提供して、役立てていただきたいと考えています。
NASAの研究報告によると、宇宙に6ケ月間滞在するとCT検査で大腿骨頸部は平均で15%減ります(1ケ月で2.5%)。一方、老人性骨粗鬆症による骨の減少は1年間で1~2%です。つまり、宇宙飛行士の骨量は、地上の骨粗鬆症の約10倍の速さで減少することになります。これまでの研究により、骨吸収(古い骨を壊す)が増加し(骨量が減る)、骨形成(新しい骨を増やす)はそれほど変わらないことが、老齢者・寝たきり・宇宙飛行士に共通に見られ、問題は骨吸収にあることがわかってきました。
骨粗鬆症治療に使われている治療薬にビスフォスフォネートという薬があります。この薬は、骨吸収を抑制する薬剤で、骨量増加と骨折予防効果のエビデンスがたくさんあります。宇宙飛行の骨量減少を予防する技術を向上させるために、JAXAとNASAは共同でこの薬を「予防薬」として服用する宇宙飛行士を対象とした研究を行いました。その結果、この薬剤を服用した宇宙飛行士の骨量・骨強度は6か月の宇宙滞在でも減少せず、尿中カルシウムも抑制できました。この研究から、栄養、運動と薬剤(ビスフォスフォネート)をバランスよく用いれば、宇宙飛行の骨量減少と尿路結石は予防できるようになったと考えています。
日本では、少子高齢化が問題になっています。予防医学の重要性を理解し、宇宙医学の取り組みを活用すれば、健康増進と医療費の削減に役立つことが期待できると考えています。
骨量減少を予防するためには、骨密度を計って自分の骨の状況を把握すること、食事ではカルシウム・ビタミンをきちんと摂ること、骨を刺激し転倒予防する運動を行うこと、リスクが高い場合は有効な薬剤を摂取すること等が重要です。宇宙飛行士は高いモチベーションを持ちながら、これらを実践しています。JAXAは、宇宙飛行士の取り組みを参考にして、子どもに対しては食育や運動の啓発、中高年には健康増進の啓発を行っています。
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