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古澤 壽治(京都工芸繊維大学 名誉教授)
カイコの卵を91日間、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載して地上に持ち帰り研究しました。研究の目的は、"宇宙での低線量・長期被曝と微小重力の生物的影響について"です。大きくは、"突然変異発生頻度と遺伝子発現に及ぼす宇宙放射線の影響"と"胚発生に及ぼす微小重力の影響"ということになります。今日は、とくに"突然変異発生頻度に及ぼす宇宙放射線の影響"について、報告させて頂きます。
なぜ、カイコの卵を選んだのか? それは、カイコの卵の大きさが1mm程度で、約2000粒で1g程度というように、極めて小さくて軽いからです。つまり、大量に搭載できるという利点があります。
卵の中で赤ちゃんが生まれてから24時間経つと胚発生がストップします。これを人工越冬させますと休眠から覚めて、また再び胚が発生します。うまく温度を管理しますと生まれた卵をほぼ2年間同じ状態に保てるのです。長期の保存が可能なので長期の実験に適している。これも、カイコの卵を選んだ大きな理由のひとつです。
まず、"黒縞"(優性のPS)という品種の黒い縞模様のカイコとお馴染の白いカイコ"小石丸"(劣性のs)を掛け合わせてヘテロ接合体を作ります。
第二染色体の座位0.0に黒い色を合成する遺伝子(PS遺伝子)があります。この第二染色体は、1944年にエックス線を照射した実験によって、PS遺伝子を含む染色体断片が生じ、黒い部分に斑点が現われることが分かっています。
胚発生の初期の段階に放射線を照射すると、身体半分が白くなったりモザイク状になります。高いエネルギー粒子を照射した場合には、白い斑点がたくさん出てくることもありました。
搭載にあたっては、カイコの卵約2000粒を卵収納容器(112×160×15mm)に貼り付けました。それを4枚重にします。カイコの卵は5℃の状態で打ち上げます。途中で、20℃に温度をあげて胚発生を促します。地上の実験で、この時期が放射線の影響が最も大きいことが分かりました。
ISSから地上に持ち帰る際には、冷凍保存のグループと冷蔵保存のグループとに分けました。冷凍保存したものは、遺伝子の研究に使い、冷蔵保存のものは、地上で発生を続け、その後の成長の様子や次世代への影響について観察をしています。
地上で飼育を続けた結果、第一世代では、白斑(突然変異)が現われません。そこで、現われなかったカイコ同士を掛け合わせて、第二世代も飼育しました。すると第二世代からは、2%ほど白斑を持つカイコが現われます。体節に変異が出て来たものも稀に観察されました。無数の白斑が出たものもあります。さらに、第三世代でも変異が見られました。
第一世代のカイコにおいては、体躯と皮膚には突然変異は現われませんが、胚の染色細胞に放射線がヒットし染色体断片が抜け落ちて、第二世代や第三世代に影響を与える結果になったのだと思われます。
カイコ1851頭を調べた中で、一頭だけモザイクが出て来ました。カイコの半分が白で半分が黒という状態です。これは明らかに初期の段階で断片変化が起こって、断片が細胞から抜けたあとにそれが増殖したのだろうと推定できます。
第一世代のカイコが受けた放射線量は、約20mSvです。一日あたり受けた量は、約0.2mGy(ミリグレイ)。あるいは、線量当量では、約0.5mGyになります。地上の実験では、40mGy以上で変異が出てきますので、宇宙空間で放射線を浴びたカイコには比較的低い線量で変異が起きたということになります。
これは放射線がどういうカタチで当たったのかが問題になってきます。一度にたくさん当たったのか、ゆっくりと少しずつ当たったのか、わからないことがあるのですが、検討中です。また、最近、集団ではなく卵一粒に対しての放射線の影響というものも可能になってきているので調べています。
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