宇宙の不思議 うそ、ほんと -再び地球へ-
 
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5章 再び地球へ

 宇宙滞在もそろそろ終わり。
 なつかしい地球に帰る日が来た。でも無事に地球に戻れるのだろうか?なにか準備が必要なのだろうか?


Q54現在のところ宇宙飛行士の最長連続滞在記録はどのくらいなのだろうか?
Q55一週間程度宇宙に滞在して地球に戻ったそのとき、宇宙飛行士は立ちくらみ、動悸が発生し、ひどい時には失神してしまうことがある。これを防ぐために、帰還直前に宇宙船内でやっておかなければならないことは、何だろうか?
Q56私たちが乗った宇宙船は今、地上400kmの高度を約8km/sで円軌道を描いてまわっているとする。どのようにしてみんなが待っている地球に戻って来るのだろうか?
Q57地球の大気圏に突入した宇宙船は、たいへん厳しい熱に曝(さら)される。この熱はどうして発生するのだろうか?
Q58地球で暮らしている私たちが、無重力を体験した後、再び地球におり立った時、強く実感することはなんだろうか?
コラム14スペースシャトルの耐熱材料
コラム15スイングバイって何?


Q54 現在のところ宇宙飛行士の最長連続滞在記録はどのくらいなのだろうか?

A54

最長滞在記録を持つ、ポリャコフ宇宙飛行士。
 ロシア人男性のポリャコフ宇宙飛行士が持つ、437日18時間で、ロシアの有人宇宙船ミールに滞在して達成された。

 現在の宇宙飛行士が受けている訓練は、無重力の世界でスムーズに作業活動ができるようにするためのものである。たしかに無重力の世界できちんと働くために必要な筋肉や感覚については、スポーツと同じくある程度トレーニングを積むことで上達はできる。

 しかし、一番困ることは、体内での働き、例えば内臓や血液の中で起こっている生理作用は、地上にいる以上は無重力向けに鍛えられないことである。

 これまでの宇宙飛行士の活動を通じてわかったことは、私たちの体内の生理的な活動に対して、無重力は、体のあらゆる部分、例えば心臓、肺、筋肉、骨、神経の働きや病気への抵抗力などに変化をもたらすということだ。この変化の多くは、私たち生物の誰もが避けて通れない「老化」のようす(骨や筋肉は痩せて行き、病気に対する抵抗力が弱くなるなど)に似ている。

 そして、宇宙に長期間滞在したあと、地球に戻ってから、もとの重力のある世界に体が復帰するまでにかなりの期間がかかってしまうこともわかっている。

 このように無重力の世界で私たちがどれくらい生活を続けられるのかを追及するということは、人間の「老化」の進行をある程度防ぐための対策を考えることに通じる。これが宇宙医学分野の大切な研究課題の一つである。


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Q55 一週間程度宇宙に滞在して地球に戻ったそのとき、宇宙飛行士は立ちくらみ、動悸が発生し、ひどい時には失神してしまうことがある。これを防ぐために、帰還直前に宇宙船内でやっておかなければならないことは、次のどれだろうか?

 (1)圧力を下げた装置に下半身を入れる。
 (2)筋肉トレーニングを頑張る。
 (3)生理食塩水などの飲み物を飲む。


A55 (3)。約1リットル程度の飲み物(生理食塩水など)を飲む。

 どうして立ちくらみが起こってしまうのだろう。それは第4章のA41にあるように、無重力では血液の量が減ってしまうからである。地球に戻る前に、減った血液の量を補う、即効性のある方法として、(3)がおこなわれている。

 飲み物の量は体の大きさによって異なるが、再突入の1時間前に、塩の錠剤2粒と約1リットル程度の水分をとる。向井宇宙飛行士の2度目の飛行(STS-95)のとき、ブラウン船長はレモネードを約1360ml、向井宇宙飛行士はグレープドリンクとレモネードをそれぞれ約453mlずつ、その他の宇宙飛行士はオレンジエード(アストロエード)やうすめたチキンコンソメスープなどを約907mlから約1360ml飲んだ。

 国際宇宙ステーション(ISS)では数ヶ月におよぶ宇宙滞在を行っており、長期間の宇宙滞在においてもこの方法は有効である。このことは、心臓を中心とした血液などの循環システムが無重力に合うように、地上とは違った状態となっていくためである。

 ちなみに、この問題の中にある(1)は、上に述べた上半身に集まった血液が、下半身にもいきわたるように、その中の気圧を減らした装置に下半身を突っ込んで、上半身の外気圧で血液を下半身に行き渡らせる方法であるが、減少した血液をすぐに増やすことは無理なのである。

 (2)は、筋肉が骨に負荷を与えることで、無重力の世界にいると、たちまち衰えてしまう筋肉や骨を鍛えて維持しておくことが目的である。


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(1) 地球に向かって噴射(2) 進行方向と逆方向に噴射
Q56 私たちが乗った宇宙船は今、地上400kmの高度を約8km/sで円軌道を描いてまわっているとする。どのようにしてみんなが待っている地球に戻って来るのだろうか?

(1) 地球に向かって宇宙船に搭載したエンジンを噴射して一気に加速して目的地に突入する。

(2) 進行方向に対し、宇宙船に搭載したエンジンを短時間、逆噴射し、減速しながら地球のまわりをまわる高度を徐々に下げて地球に近づいていく。


A56 (2)。(1)ではかえって地球から離れた軌道に移ってしまう。

 私たちがよく知っている人工衛星は、所定の軌道まで打ち上げられるために、まず、軌道半径ro の円軌道をまわってから、より高い半径r2 の円軌道に移っていく。この場合、最も少ない燃料で半径ro の軌道からr2 の軌道に移る道筋は、下の図1にあるように両方の円に接する楕円軌道kであることが知られている。この場合、点Aで燃料を噴射して接線方向にv1 だけ短時間に速度を増加すると、楕円の上半分を進むことができる。次に点Bで再度噴射して、半径r2 の円軌道を描いてまわることができる速度v2 まで短時間に速度を増加すれば良い。

 人工衛星は地球からの引力と、自分の推進力の二つだけでその運動は決定されることから、この手順と全く逆を行えば、半径r2 から半径ro に戻ることになる。したがって、私たちが地球に戻ってくるためには、図2にあるようにこの逆の方法、すなわち(2)を行うことにより大気圏(高度120km)にたどり着いて地球に戻ることができるのだ。ちなみに、(1)だと地球の周りをまわっていた速度に地球に向う速度が加わるため、それまでとは違った軌道で地球の周りをまわってしまうことになる。自分自身も猛スピードで円周方向を進んでいることを忘れないように。
:噴射の方向
:噴射を行ったときに速度が加わる方向
図1 地球から遠くに行くとき図2 地球に戻るとき

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Q57 地球の大気圏に突入した宇宙船は、たいへん厳しい熱に曝(さら)される。この熱はどうして発生するのだろうか?

A57 超高速で大気圏に突入する機体の先端は、強烈に空気を圧縮する。その圧縮された空気中の分子は、はげしくぶつかり合って、結局、持っていた分子の運動エネルギーが熱になってしまうため(これはこすって熱くなるような摩擦熱ではない点に注意しよう)。

 軌道上を約8km/sの速度でまわっていた宇宙船は、大気に突入するとその先端部は空気を押しつぶすように圧縮する。この圧縮された空気は超高温状態になる。温度としては、圧力や空気の濃さにもよるが、1万度を越えることもあり、その時には、空気の成分は分子の状態ではなく、原子、イオン、プラズマの状態になる。

 下の図は、大気圏に再突入した機体の表面温度が、その時の速度と高度に対応して、何度になるかを理論的に計算した結果を表したものだ。

 例えば、君たちが乗っている機体が、秒速10kmで大気圏に飛び込んだ場合、ほとんど減速せずに高度50kmまで落下したとすると、その表面の温度は約3000K(2727℃)になってしまう。

 このような高温にならないためには、例えば、その機体が耐えられる上限の温度が1600K(1327℃)であれば、高度90kmあたりから、図中の1600の線上にある速度と高度の関係を保つように機体を操縦しなければならないことがわかる。

高度と速度及び表面温度との関係


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Q58 地球で暮らしている私たちが、無重力を体験した後、再び地球におり立った時、強く実感することはなんだろうか?
A58 おそらく、これまで地上では全く意識しなかった重力の存在を自分の体で実感してしまうことだろう。

 これは、実際に向井宇宙飛行士が感じたことであり、その良きパートナーである向井万起男さんの『女房が宇宙を飛んだ日』(講談社刊)の中で次のように述べられている。地球に戻ってきても宇宙体験について自ら話題にすることがなかった千秋さんに対して、戻ってきて1年半後のある日、とうとう万起男さんの方から聞いている場面だ。

帰還後、観衆に手を振る向井宇宙飛行士
「宇宙飛行でいちばん感動したことって何なんだい?」
「それは、もちろん、地球に帰って来た時よ」
「えっ?」
「地球に帰って来て、地球の重力と再遭遇したときよ。地球には重力があるんだって体で知ったこと。これに比べたら、宇宙から地球を見た感動なんて小さいわね。-中略- 正直言うと、私、宇宙から見る地球は美しいということは宇宙に行く前から想像ついていたのよ。-中略- だから、あぁ、やっぱり美しいという感動はあったけど、意外な感じはしなかったんだ。でも、地球に帰って来てから体が感じた重力は予想もしていなかったことなのよ。この地球の重力は自分の体で感じて初めてわかるものなの。」

 向井宇宙飛行士は、地球に戻って直後、ハシでつまんだ寿司をじっと見つめてからパッと離したり、テーブルにあるナプキンを床に落としてみたり、雑誌のページをパラパラとめくってそれが自然に下に落ちていくのを見て「紙ってこんなに重いんだ。」と感心したり、ちょっと奇妙な行動をとったとのことだ。そしてその後、またこの重力の存在を感じなくなっていったという。

 私たちは残念ながら画像でふわふわしている無重力の状態をテレビなどで見ることはできても、地上に住んでいるうちは、重力があることを実感することはできない。私たち人間の持つ感性に新しいインパクトを与えてくれるのは、一度この地上の重力から解放されてみることも必要なのかも知れない。


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コラム14 スペースシャトルの耐熱材料
 現在のスペースシャトルでは、一番加熱の厳しい機首や主翼、尾翼の先端には、材料の温度が3000℃になっても強度や剛性が変化しないカーボン・カーボン・コンポジットという、炭素繊維で強化した特殊な炭素材料の上に、酸素が入って来ないように(炭素は酸化に全く弱いため)セラミック材料を薄くコーティングしたものを装着している。

 また、その他の機体翼面や胴体などの部分は、細いガラス繊維でできた断熱材や、それらを焼き固めたブロックの上を、黒や白のガラスをコーティングしたセラミックタイルで機体を守っている。

 スペースシャトルが再突入したとき、機首先端部の材料の最高温度は1600℃、機体下面のセラミックタイルの一番温度が高いところで1000℃になる。機体構造の材料は120℃程度しかもたないにもかかわらず、セラミックタイルの厚さは10cm程度でこの超高温状態から機体を守っている。驚くべき断熱性能である。


ケネディ宇宙センターで撮影したエンデバー号(1992)
提供:宇宙開発事業団元理事 久保園 晃さん


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コラム15 スイングバイって何?
 宇宙船が宇宙空間を進む場合、自分が持っている推進燃料を使って、軌道を変換しながら目的地に向かうのだが、遠い惑星に到達するためには、たくさんの推進燃料を積み込まなければならない。しかし、このための推進燃料を減らし、さらに、うまくすれば速度をアップできる「スイングバイ」というたいへん便利な方法がある。

 図(a)は、アメリカのボイジャー2号が1981年に海王星などの遠い惑星を探査したときに土星を使ったスイングバイのようすだ。このようすを土星の上に立って見てみよう。宇宙船が土星に向かうときの速度を、遠ざかる速度をとすると、土星に近づいてきた宇宙船は、土星の引力に引っ張られて進路を曲げられ、また、同じ速度で遠ざかっていくように見えるだろう。つまり、||=||となる。

 では、このようすを太陽から見てみよう(図(b))。私たちが立っている土星は、太陽を中心にして約10km/sでまわっている。

 そして宇宙船も太陽を中心として、より遠い惑星に進んでいく。このとき、土星の速度をとすると、宇宙船が土星に近づくときの速度は(図の)、土星から遠ざかるときの速度は'+(図の)となる。すなわち、図からもわかるように、||>||となるのだ。

 つまり、スイングバイというのは図(c)のように、あたかも惑星の引力が惑星といっしょに動く反射板のように働いて、宇宙船を押し出し、惑星の運動方向に加速させることをいうのだ。だから、例えば土星の進行方向に垂直に宇宙船が接近し、また土星の進行方向にそって遠ざかるように、宇宙船を飛ばした場合には、速度はからになることがわかるだろう。


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最終更新日:2003年11月13日

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