1. 無重力では胚(卵の中の赤ちゃん)の発生は正常に進まない
地上で発育させた卵では、胚のほとんどは正常に発育しました。ISS内の地球と同じ人工重力条件下(1G)では約50%が正常に発育しましたが、無重力下では発生の段階の一つ(反転)で異常がみられ、ほとんど正常に発育しませんでした。このことから、無重力が胚運動に影響を与え、孵化率を低下させることが分かりました。このことは、重力が無いと胚が順調に発育することができないことを示し、さらに地球上での重力が生物にとって重要な意味を持っていることを示します。
2. 宇宙放射線によって第2世代以降に突然変異が起きる
黒い縞模様の品種(PS/p)と白い品種(+p/+p)のヘテロ接合体(2つの遺伝子が異なるタイプの卵;PS/+p)を91日間、ISSに搭載しました(被ばくした放射線量は約20mGy)。この卵に放射線が当たると黒い色素を形成する遺伝子(PS)の断片化が生じ、幼虫期の皮膚に白斑(突然変異)を生じます(詳しい仕組みはコラム参照)。第1世代の幼虫には突然変異は検出されませんでしたが、第1世代の子孫である第2世代、第3世代では突然変異が検出されました。これは、ISSに打ち上げた卵(第1世代)の胚には既に生殖細胞が存在しているので、この生殖細胞に宇宙放射線が当たり、そのために子孫のカイコにこの突然変異が生じたためだと推察しました。
3. 宇宙放射線が胚の発生に遺伝子レベルで影響を与える
卵1粒からのRNA抽出法を確立し、胚発生期の遺伝子の働きについて調べたところ、上記の放射線量はがん抑制遺伝子である「p53遺伝子」の働きには影響を与えませんでしたが、ある種の熱ショックタンパク質遺伝子(熱などのストレスによって働きが増えて細胞を保護するタンパク質)の働きを大きく抑制しました。
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