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実験の背景


カイコは私たちに古くから馴染みのある生き物です。 古事記にもカイコの記述があり、その繭から得られる生糸で作られる絹織物は日本の伝統産業です。 科学の世界でもカイコは遺伝学や生理学などのモデル生物であり、多くの突然変異体も知られています。 カイコをつかった実験は日本のお家芸とも言えるものです。



宇宙放射線の影響を調べる研究では、その多くが細胞レベルの実験ですが、カイコを用いる実験では個体を扱います。 この実験では、越冬する(休眠という)卵を国際宇宙ステーションに搭載し、宇宙で胚を発生させます。 そして地上に帰還させた卵から孵化した幼虫、成虫、さなぎなど一生を通した生活環(ライフサイクル)を観察します。



1997年に行われたスペースシャトルミッションSTS-84でカイコ卵の実験を行い、孵化率や幼虫の異常の発生率を調べたところ、地上のカイコ卵に比べ、斑紋や体節のくびれを持つなどの異常が2倍も発生しました。



また、今回の実験を行うにあたり、地上で宇宙放射線を模擬した放射線をあてる実験を繰り返したところ、胚の発生が始まってから2〜3日目という初期の段階に放射線をあてると、変異率が高いことがわかってきました。



そこで、実際の宇宙でカイコの胚発生の初期段階に宇宙放射線をあびたらどうなるか、発生の各段階での宇宙放射線の影響を個体の変異や遺伝子の変化から調べてみようというのが今回の実験です。

写真1 カイコの卵と孵化している様子

白いのは卵殻で幼虫が抜け出した後のもの。 卵がくぼんで中が黒っぽいのが、孵化直前の幼虫がまだ入っている。 卵殻を内側から食い破って幼虫は出てくる。 白い抜け殻の口の開いたところが食い破ったところ。

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