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「星出彰彦宇宙飛行士国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会 ~宇宙の家「きぼう」で過ごした124日間~」開催レポート(2013年2月26日)
2013年2月21日、有楽町朝日ホール(東京都千代田区)にて、「星出彰彦宇宙飛行士国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在ミッション報告会 ~宇宙の家「きぼう」で過ごした124日間~」を開催しました。
報告会では、国際宇宙ステーション(ISS)第32次/第33次長期滞在ミッションを完了した星出宇宙飛行士が、ミッションの内容を自ら報告するとともに、関係者や他分野で活躍するゲストを交えてのトークショー・意見交換を行いました。
報告会の開催にあたり、まず初めにJAXAの立川敬二理事長から開会の挨拶を行いました。続いて文部科学省の丹羽秀樹文部科学大臣政務官がステージに登壇し、星出宇宙飛行士の活躍を称えるとともに、ISS計画において日本の科学技術が高く評価されていることを述べ、「今後もISSが、日本人のみならず、人類全体にとっての有益な幅広い成果を生み出していけるように努力していきたい」と、文部科学省としての意志を表明し、開会の挨拶を締めました。
そして、その後星出宇宙飛行士が登場すると、会場は星出宇宙飛行士を迎え入れる拍手につつまれました。報告会は、まず初めに、星出宇宙飛行士によるミッション報告から始まりました。
ミッション前の訓練の様子から、打上げ、そして帰還までのダイジェスト映像をステージ中央の大きなスクリーンに映し出し、星出宇宙飛行士が映像を見ながら解説しました。映像を通して、長期滞在中に3回実施した船外活動や、小型衛星放出技術実証ミッション、科学実験、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)などの補給船の発着に関わる宇宙飛行士の作業など、滞在中の多岐にわたる任務や、ISSでの生活の様子も含め、長期滞在ミッション全体の概要を報告しました。
解説を終えると、星出宇宙飛行士は、「このミッションは、軌道上にいる6名のクルーが協力し、そして地上にいる世界中の管制官と仲間によって支えられた」と、124日間のミッションを振り返りました。
第1部では、星出宇宙飛行士に加えて、JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部の本部長を務める長谷川義幸理事と、同じく有人宇宙環境利用ミッション本部の上垣内茂樹宇宙環境利用センター長、そして、「きぼう」日本実験棟の管制を指揮する東覚芳夫フライトディレクタの3名を交えた4名で、ミッションのトピックを掘り下げました。長谷川理事が司会進行を行い、事前に一般の参加者の方々から寄せられていた質問を交えながらトークショーは進行されました。
今回の長期滞在にあたり、飛行前に星出宇宙飛行士は、"自分が組み立てた家に帰る"と、ミッションを表現していたことに触れ、"家"に戻った感想を聞かれると、「組み立てた当時は実験すら開始していなかったが、今はさまざまな実験をしている」と現在の「きぼう」について述べ、「「きぼう」は宇宙飛行士の使い勝手がいいようにできている。物を固定するためのゴムひもやベルクロがここにあったらいいなと思ったところに設置してある」と、実際に自身が組み立てた"家"の中で過ごして感じた使い心地を語りました。
「きぼう」はISSと地上を結んだ会見やイベントに使用されることも多く、この点について星出宇宙飛行士は、「国土の狭い日本とは反比例して「きぼう」が一番広い」と冗談を交えながら、「物を格納するスペースがあるため、物が散乱していることが少なく、広くて綺麗だった」と述べました。
日本が開発した補給船、「こうのとり」について、秒速約7.7kmで周回するISSへの接近方法を確立するのに苦労の連続であったことを現場で見てきた長谷川理事から、実際に「こうのとり」がISSと相対停止したときの印象を聞かれると、「(相対停止せずに動いている状況など)色々なケースを想定して訓練を重ねたが、その成果を発揮する機会はなかった。ISSにいる宇宙飛行士からは全く動いていないように見えた」と、相対停止の精度の高さを述べました。
実際に「こうのとり」3号機は、ISSに対して秒速1mm程度の相対速度であったことを長谷川理事が明かしました。長谷川理事は、「こうのとり」の接近方法を検討する段階において、ISSと衝突する可能性があることをNASAから非常に懸念されていた当時を思い返し、今となっては、米国の民間企業が開発しているISSへ飛行する宇宙機では、この手法がスタンダードになっており、日本の技術が認められている証拠であることを紹介しました。
世界初となった「きぼう」からの小型衛星放出ミッションが成功裏に終わったことについて、軌道上で放出装置の組み立て作業にあたった星出宇宙飛行士は、「組み立ての様子を映像で撮影し、地上に確認してもらいながら地上と連携して組み立てを進めた」と、成功の裏に地上の「きぼう」運用管制官との協力体制があったことを述べ、東覚フライトディレクタは、「さまざまな場面において、地上と軌道とのクルーで一体感を持って実施できた」と、しきりに語りました。
滞在中に注目を浴びたメダカ実験については、メダカや飼育に使用した装置の写真をスクリーンに映し出し、上垣内宇宙環境利用センター長が、実験の概要や、この実験を通して骨代謝のメカニズムに迫ることで骨粗鬆症の新たな治療法開発への貢献が期待されることなどを丁寧に解説しました。
メダカの実験については、あわや実験中止になり兼ねない裏話も紹介されました。実験を開始するにあたり、ソユーズ宇宙船でメダカが到着する前日に、星出宇宙飛行士が飼育水槽へ水を入れる準備作業を行ったところ、水槽内に気泡がたくさん入り、そのままでは実験が開始できない状態に陥りました。その夜、星出宇宙飛行士ら軌道上のクルーが就寝している間に、地上のチームが気泡を取り除くための道具や手法を検討し、クルーが起床する時間までに手順を準備し、その手法で見事問題を解決して予定通り実験開始にこぎつけた経緯が紹介されました。
星出宇宙飛行士はその時の状況を振り返り、地上との連携があったからこそ無事に気泡を全部抜くことができたことを強調しました。更にその話には続きがあり、「その後の手順で"泡をちょっと入れて下さい"という指示がった」と、笑顔をこぼしながら星出宇宙飛行士は語り、「メダカを飼育するには、実はある程度の空気が必要だったが、気泡を抜く一生懸命な姿を地上の管制官はだまって見守ってくれていた」とほほえましいエピソードを紹介しました。
第1部のまとめとして、「きぼう」の存在意義やこれまでに培った運用技術、国際関係などについて、それそれが意見を述べました。星出宇宙飛行士は、現在「きぼう」では基礎研究を中心に行っていることに言及し、「日本の技術というのは、基礎研究の積み重ねでここまで来たと思っている」と、日本のこれまでの科学技術の進歩に対する意見を述べ、「「きぼう」は日本の技術力を上げるためにも非常に大事な日本の宇宙実験室」と捉え、「微小重力環境の場所というのは、今はISSしかない。日本としてもそれを有効に活用していくべきではないかと思っている」と、ISSの存在意義について自身の意見を述べました。
第2部では、「科学技術が切り開く未来、宇宙の技術から見えること」をテーマに、星出宇宙飛行士のほか、宇宙開発とは異なる分野で活躍するゲストとして、第39次日本南極地域観測隊の越冬隊員であり、現在は東葛病院の副院長を務める大野義一郎氏と、トヨタ自動車株式会社の製品企画部主査を務める片岡史憲氏を招き、NHKの有働由美子アナウンサー進行の下で、それぞれの立場から意見を交換しました。
まず初めに、現在就いている職業を目指したきっかけや、人生のターニングポイントになった経験などを各々紹介しました。
星出宇宙飛行士は、宇宙飛行士を目指したきっかけや、宇宙飛行士になるまでの道のりについて語りました。
大野氏は南極での体験を中心に語り、「帰りたくても直ぐに帰れない」、「全く同じ人だけで長期間を過ごす」といったISS長期滞在とも共通する体験や、「専門に関わらず、全ての病気の面倒を医者がみる」といった極地ならではの、医師の務めの大変さを語りました。
自身も宇宙飛行士に憧れていたという片岡氏は、「アポロの月面着陸の印象が強く、乗り物に乗れる人が宇宙飛行士というイメージだった」と当時を振り返り、その後自動車業界の道を選んだ経緯を語りました。そして今では、今年「きぼう」に打上げ予定のコミュニケーションロボットの開発に携わっていることを紹介しました。
各分野でどの様な技術が用いられているかを紹介する場面では、星出宇宙飛行士は、ISSで宇宙飛行士が快適に過ごせる環境を挙げ、「ISSの外で人は生きていけないが、船内は快適で、生命維持システムがしっかりできている」と述べ、飲料水も現在は尿をリサイクルしていることなどを紹介しました。船外活動で着用した宇宙服についても話題に触れ、宇宙服はある意味小さな宇宙船であることを紹介し、「宇宙服自体のシステムがしっかりしているため、安心して船外活動を実施することができた」と、米国が開発した宇宙服の信頼性の高さを語りました。
片岡氏も、「信頼性が確立されていないと、宇宙では使えない。それは車も本当に同じだと思っている」と、星出宇宙飛行士の発言に共感する意見を述べました。
大野氏は南極での居住棟の組み立て方法を紹介し、「素人であっても手順通りに進めれば家が建てられてしまう。良く考えられた手法だと思った」と、南極での体験の中で見た技術について語りました。
「これまでにピンチはなかったか?」という質問に対しては、星出宇宙飛行士は、船外活動で機器の取り付けが難航したことの他に、船内で米国のトイレが故障したことを挙げ、トイレは宇宙飛行士が生活する上で非常に大切なシステムであり、故障修理にあたることをクルーが全員一致で即座に決めたエピソードなどを語りました。大野氏は、摂氏-40度の環境の中で、雪上車が4台中3台故障して動かなくなった際に、故障した1台を部品取りにして潰して、命からがら3台の雪上車で生還したエピソードなど、過酷な環境ならではの体験を紹介しました。
片岡氏は、「リーダーシップや個々の能力がうまく発揮されて初めて個々の能力を足したもの以上の成果が出る」と自身の経験を語り、それに続いて星出宇宙飛行士は、「完璧な人間はいない。お互いに補完しあうことが大切。リーダーをカバーするフォロワーも大事」と、これまでの訓練や長期滞在の経験を通じて得た知見を語りました。
費用と時間がかかる上、成果が100%保障されない科学技術の分野に投資する意義を問われると、星出宇宙飛行士は、「確かに宇宙開発は巨額のお金がかかる。宇宙に行く手段であるロケット、これひとつとっても、長年の研究と開発があって初めて今宇宙に定期的に行くことができている。「きぼう」、「こうのとり」の技術も、長年の積み重ねがあって初めてここまで技術力を確立できた」と、積み重ねの大切さを述べるとともに、「それに見合うお金かどうかというのは、議論の対象だと思う」という客観的な意見も述べました。
継続することの意味を問われると、星出宇宙飛行士は米国が次世代の有人宇宙機の開発において直面している苦難に触れ、「スペースシャトルの後に続く宇宙機を開発していなかった。今になって苦労している。その間技術の伝承がなされていなかった。継続することの重要性はあると思う」と語り、片岡氏は、「科学技術の発展には、種をまいて刈り取れるように仕掛けていかなければならない。時間がかかると認識しているが、実はその過程で人が育つ」と述べ、大野氏は、「例えば、オゾンホールは毎年の積み重ねで発見されたもの。継続していかなければならない大事なものがある。一旦途絶えてしまうとデータがだめになる」と、それぞれの経験を基に、科学技術分野において継続することの大切さを思い思いに語りました。
星出宇宙飛行士は最後に、会場に集まった方々へのメッセージとして、「日本がこれだけの大きなプロジェクトに参加できているということは非常に光栄。次に繋げていきたい。これから月、火星、そして皆さんが宇宙に行ける時代に向けて一緒に頑張っていきたいと思っている」と、長期滞在ミッションを終えた今の思いを述べました。
閉会の挨拶には、長谷川理事が登壇しました。有人宇宙開発において、民生の技術も含めて今では日本の技術は世界から一目置かれる存在であることを述べ、今後の日本の宇宙開発を引き続き応援いただきたいとう思いを込めたメッセージを語り、報告会の幕を閉じました。
※写真の出典は全てJAXA
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