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飛行中の宇宙飛行士の健康管理は、主にヒューストンのミッション・コントロール・センター(MCC-H)のJAXA専任のフライトサージャン(航空宇宙医師)と、筑波宇宙センターの医療管理チームにより、遠隔で実施されます。
国際宇宙ステーション(ISS)に1カ月以上滞在する宇宙飛行士は、「医学運用要求文書(Medical Operations Requirements Document)」で規定される各種の医学検査を飛行前/飛行中/飛行後に行うよう定められています。ISSの宇宙飛行士の健康管理は、この医学データ(問診、診察、検査、各宇宙飛行士の体力、栄養状態、精神心理状態、生命維持システムの状況、放射線環境(船内/個人)、船内環境)を使って総合的に行われています。
ISSの医学検査は、ISSに搭載されている採血/採尿キットや、心電図、 血圧計、超音波診断装置などの医学運用器材を使って行われます。これらの医学運用器材を総称して「クルー健康管理システム」(Crew Health Care System: CHeCS/IMS)といいます。クルー健康管理システム(CHeCS)には、健康維持システム(Health Maintenance System: HMS)や、環境衛生管理システム(Environmental Health System: EHS)、運動対策システム(Countermeasures System: CMS)などの健康管理に関する機材が含まれています。
IMS: Integrated medical System(含ロシア器材)
健康維持システム(HMS) |
軌道上の医療器具、緊急医療キットの総称です。 |
健康維持システム(EHS) |
水/空気/微生物の各モニタシステム、放射線モニタシステムの総称です。 |
運動対策システム(CMS) |
トレッドミルや、自転車エルゴメータ、抵抗運動装置などの総称です。 |
軌道上の宇宙飛行士の医学検査は、クルー・メディカル・オフィサーという医療担当の宇宙飛行士が行います。現在はNASAセグメント飛行士の全員です。
クルー・メディカル・オフィサーは、医学検査以外にも、軌道上で宇宙飛行士が体調を崩したり、怪我をした場合に、地上のフライトサージャンの助言をもとに、搭載している薬や医療器具を用いて治療を行います。ISSには、点滴や、気管内挿管、洗眼、小外科セットなども搭載されていますが、これまでのところ、洗眼を除きそれらを使うような大きな医療事態は起きていません。微小重力下では治療を受ける宇宙飛行士の身体が浮かないように固定する必要があるため、背板も搭載されています。
また、軌道上では定期的に緊急医療訓練を行い、軌道上で怪我や急病が起きた場合に備えて、医療知識と医療技術の維持を図っています。このような訓練では、宇宙飛行士のひとりが負傷者や急病人の役になり、クルー・メディカル・オフィサーがその怪我(または病気)に必要な医療処置を模擬して練習します。
微小重力環境に長く滞在すると下肢の筋肉や骨量が減少します。これを防ぐため、ISSでは医学運用要求として、トレッドミル、自転車エルゴメータ、抵抗運動器の3種類の運動器具を使って、毎日2時間の運動をするよう定めています。そして定期的にISS内で体力測定をして運動効果の評価をしています。軌道上でしっかり運動できた宇宙飛行士は、帰還後の筋力の回復もよく、リハビリテーションプログラムの期間も短く済むようです。
ISSでは、医学運用要求として、船内の空気、水、壁面のふき取りサンプルを採取して、定期的に分析しています。また、ISS船内の空気は、酸素を発生させる装置と二酸化炭素を吸収する装置で、HEPAフィルタ、脱臭フィルタ、熱浄化装置で空気組成が制御されています。また、有毒なガスや微生物(細菌やカビ)に汚染されていないかを常に監視しています。二酸化炭素濃度の上昇や、騒音レベルの上昇、微生物の増殖などは時々起こる課題であり、その都度解決策を検討し対処する必要があるため、継続的な監視が必要です。ISSでは、医学運用要求の一環として、以下のような環境モニタリングを行っています。
放射線による被ばく状況を適切に監視することも宇宙飛行士の健康管理には欠かせません。ISSでは医学運用要求として、宇宙飛行士が各自装着している個人線量計の累積値(飛行後に分析)、ISS内に設置された放射線測定装置によるリアルタイムモニタが行われています。
また、宇宙飛行士の放射線管理では、宇宙天気予報(太陽活動の観測による太陽-地球圏の放射線環境等の推定)等のデータも活用しています。太陽の活動が活発化する時期には、監視を強化し、太陽からの陽子が多くなる時期には、飛行士をISS 内の隔壁の厚い部分に一時避難させて被ばくからの防護をする必要もあります。
宇宙という過酷な環境で重要ミッションを行う宇宙飛行士にとって、「食事」は、肉体的・精神的な健康を維持するために大変重要です。宇宙滞在中の食事の摂取量や栄養バランスを保つモニタを地上から行っています。
宇宙飛行士の食事メニューを作成し、宇宙滞在中の栄養面のアドバイスを行うためには、宇宙滞在中の宇宙飛行士がどのくらいのエネルギーを消費するか、実際にどのくらいのカロリーが摂取できているかなど、正確な情報を把握しておかなければなりません。
たとえば、過去の短期および長期宇宙滞在データから、自由に食事をした場合には宇宙滞在中の宇宙飛行士のカロリー摂取量は世界保健機構(WHO)の推奨する摂取量よりも一般的に30~40%ほど低く、一方、エネルギー消費量は同じか上回ることが示されています。
ISSでは医学運用の要求として、1週間に1度程度、食事摂取についてのアンケート(Food Frequency Questionnaire: FFQ)を実施しています。これは、宇宙飛行士がどのくらいのカロリーや、タンパク質・水・ナトリウム・カルシウム・鉄分などの栄養を摂取できているかなどを調べるためのものです。また、食事メニューの感想も記入してもらうようになっており、アンケートの回答は、地上のフライトサージャンに送信されます。また、実験としては栄養状態の評価(採血・採尿分析)も行われています。
宇宙飛行士の精神心理的健康状態は、悪化すると作業効率や疲労へも悪影響を及ぼし得るため、ミッション成功の大きな鍵となります。ISSでは医学運用要求として、宇宙飛行士のプライベートな精神心理面談を行い、また定期的に家族と電話をする時間を設けることで、宇宙飛行士の精神心理支援を行っています。
宇宙空間という極限の環境下で、船外活動を可能にしているのが宇宙服です。NASAのものはEMU(Extravehicular Mobility Unit)と呼ばれます。EMUではおよそ6~7時間の船外活動ができます。宇宙服内は真空より0.29気圧高く100%の酸素が満たされています。船外活動時には、宇宙飛行士の心電図などが地上のミッションコントロールセンターから、リアルタイムでモニタされます。
軌道上で約半年間のミッションを終えた宇宙飛行士は、今度は微小重力状態から重力環境へと戻ります。微小重力に適応した身体は、重力環境に戻った直後には、起立性の低血圧、激しい場合は失神が生じる危険性があります。
ロシア人宇宙飛行士は帰還日が近づくと、ペンギンスーツと呼ばれる耐Gスーツを使用したり、下半身陰圧装置による訓練を行ったり、通常よりも多めの運動を行うなどの対策を行います。帰還の2日前からは、ISSの医学運用要求として、宇宙飛行士は毎日、フライトサージャンとの問診を受け、水分や塩分補給についてのアドバイスを受けます。
(特に断りの無い限り、画像は出典:JAXA/NASA)
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